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06 そんな話は聞きたくない



 美月麗羽は木剣の切っ先をライアンに向けて冷たい声でそう言った。ライアンはなぜ美月麗羽の機嫌が悪くなったのか本気でわからないっと言った様子であたふたするが、どうやら失態は返上することが出来なかったのか泣く泣く違う兵士と交代させられていた。


 代わりの兵士が美月麗羽に近づき、ご機嫌をうかがう。


「あの......美月さま何か無礼なことでもありましたか?」


「無礼どころではないぞ! あのライアンという男! 礼儀正しい男と思えばトンデモナイ! おし、お尻から火を噴いたのだぞ!!」


 美月麗羽怒りと羞恥が抑えられないのか、ワナワナと震えていた。兵士は少し顎に手をあてて考えた後に慎重に言葉を選んで喋り出した。


「すみません美月さま、どうやら認識のずれがあるようなのでもう1度魔法の説明をさせてください......」


 美月麗羽は納得はしていないが、イライラした気持ちを我慢して話を聞くことにした。


「魔法を使う為には魔素を取り入れて、体の中で魔力を作らないといけません」


 さっきも聞いた説明だ。美月麗羽もそれは分かっている。問題はそこではないのだ。


「それで、体内で作った魔力を溜める場所が、お尻です」


「は? お尻?」


「お尻です」


 美月麗羽は自分の耳を疑ったが、再度確認しても答えは変わらなかった。よもや冗談を言われて、からかわれているのかと思ったが、相手はいたって真面目な顔で『お尻です』と繰り返して言うもんだから、怒ってるのに少し笑いだしてしまいそうになり口元がヒクヒクとしてしまう。


「僕のお尻を見ていてください」


 なんともわけのわからない事を言い出した兵士に噴き出しそうになった美月麗羽は自分の口元を手で押さえつけた。


 兵士は両手で円を描くように動かしながら大きく息を吸って、『はぁぁぁ――』と人差し指と中指だけをピンと立ててゆっくり前に押し出しながらそれぽく息を吐き出した。


 両手が限界まで前に伸び切ったところで、お尻を突き出すような中腰の体勢になる。横から見ると何とも間抜けな恰好だが、美月麗羽は違和感を感じた。


(あれ?)


 兵士は先ほどの動作を繰り返し、体内で魔力を蓄えていく。何度も繰り返す事で美月麗羽は見間違いではない事を確信する。


(お、お尻が大きくなってる?!)


 美月麗羽の気付きは間違いではなく、兵士のお尻はEカップを超えGカップ級へと変貌していた。


「このように魔力を溜めると、お尻が大きくなります。どれだけ魔力を蓄えてお尻が大きくできるかは個人の資質にかかっています」


「あ、うん」


 美月麗羽は考えるのをやめた。もう考えたくなかった。


「魔法の発動には専用の排出口が必要になります。かの有名なドラゴンは口に魔法発現の排出口がありブレスという形で魔法を発言します」


 美月麗羽はある嫌な予測が脳裏を過り頭を抱え込んでしゃがみ込んだ。


「人間の排出口はお尻の...「わーー!わあーーー!わああああぁぁ!!」」


 美月麗羽は決して真実には触れまいと耳を塞ぎ、生まれてこの方出した事もない声を出して、それから泣いた。



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