合体跳躍は天を貫く
宴会芸を披露した状態のまま綺麗に整列して座禅を組む跳びガエルたち。
「それで美月麗羽殿、跳ぶ魔法はいかがでござったか? 一連の流れを見てもうわかっておられると思うが、まず拙者たちは座った状態からお尻にマナを蓄え膨らませ、重心を下げる事によりお尻に反発力を蓄えるのでござる」
美月麗羽はここまでの説明を聞いて、『いや、知らんけど』と思っていたが、説明はまだ続きそうだったのでとりあえず個人の感想は控えた。
「……それから、お尻にッグっと! 力を入れて体を宙に浮かし、その瞬間に風の魔法を発動すると、体は風に乗り通常より高く跳躍することができるのでござる」
跳びガエルはすくっと立ち上がり、宴会芸で振り回していた棒を手にとり、器用にクルクルと回して地面に打ち付けた。
「とは言っても拙者たちが実戦で本気で跳べばどうなるかを最後に見ていただこう……」
「ガエル! まさか必要もないのにアレをやるつもり?!」
賢者ルビが何かを察したように大袈裟なリアクションをする。跳びガエルは驚くのもさもありなん。っという態度で達観した表情を浮かべた。
「っふ。必要な時に実行できるように訓練してるのでござるよ」
相変わらず状況を掴めていない美月麗羽は賢者ルビを見つめて『どういうこと?』っと無言で訴えかける。
「彼らがやろうとしてるのは合体跳躍、本気の本気、マジでガチの跳躍魔法を見せようとしてくれているのだけど、通常の3倍跳躍することから半ば自爆魔法と化しているのだわ。……ハッキリいってそこまでする必要は全くないのだけれど」
賢者ルビはガエルや兵士たちの様子をみて頭を振った。
「さっき美月麗羽に宴会芸を見せた時の反応が良かったものだから調子に乗っているのだわ」
美月麗羽は無自覚らしいが、先程の宴会芸を見せた時、目は驚きの表情を浮かべ、口元はうっすらと笑み、食い入るように最初から最後までを観てくれたことが最近、客の反応にマンネリを感じていたガエルたちの自尊心を大いに刺激した。
美月麗羽が拍手した時には全員の鼻がピクピクと膨らみとても満足そうな顔をしていた。
彼らの胸中に芽生えた感情は『可愛い美月麗羽にもっと訓練の成果を見せたい』だった。
そして彼らが選択したのは最もインパクトのある合体跳躍魔法。たとえそれで自らの体が負傷しようとも美月麗羽の驚く顔がもう一度みたい。
「準備はいいでござるな!」
「「はい!」」
跳びガエルが気合いの入った合図と共に棒を地面に突き刺して棒高跳びの要領で大きく空へと飛び出した。
その瞬間ひとりの兵士が跳びガエルの位置を正確に読み取り、背中を地面につけてお尻を持ち上げる。
兵士が空に向けて屈伸をするような体勢となり、両足を跳びガエルに直線で繋がるように揃えた時、もう1人の兵士が側転から前転で移動して体を回転させてその足の裏に着地した。
2人の足の裏が合わさった時、2人のお尻も同時に合わさる。
2人のお尻には魔法陣が展開されて、互いの魔法陣が反発するようにバチバチと雷電が走った。
「多重魔法陣、簡単そうに見えてとても難しい技術なのだわ」
兵士は自身を発射台として、もうひとりの兵士をロケットのように空へ撃ち出した。
その進路方向で待ち構えるガエルは射出された兵士の背中に掴まり自身の体を更に天高く押し上げる。
もうそれだけでも軽く10mは超えた十分すぎる跳躍にも関わらず飛びガエルのお尻には青白く光る魔法陣が展開されていた。
その結果が生み出すものは更なる跳躍。
飛びガエルの体は地上からは豆粒ほどの大きさになるほど小さくなっていた。
もう飛んでるっと言っても良いほどの跳躍に美月麗羽は逆に不安でドキドキしてきた。
普通に言って、人間あの高さから落ちたら死ぬのである。高く跳べるから、良し跳ぼうとはならないのである。
「ちょ、ちょっとルビさん! あんなに高く跳んで本当に大丈夫なんですかぁ?!」
「言ったのだわ、半ば自爆魔法と」
「え! えぇ! えーーーっ!!」
美月麗羽の狼狽っぷりに地上に残った兵士たちは『ナイスリアクション』っと心の中で唱え鼻をピクピクさせていた。
控えめに言って美月麗羽の反応が大好物になりつつある兵士である。
「大丈夫なのだわ、あそこまで高く跳んだという事は、それだけ魔力を蓄える時間が確保できるという事、着地の直前に魔法で衝撃を和らげさえすれば良いのだわ」
「そ、そんなうまくいくんですか?」
「……理論的には」
「うわっ! ダメそう!」
美月麗羽は生まれて初めて本心から出たツッコミをしたのだがその事に本人は気づいていなかった。
美月麗羽が見守る中、空から帰ってきた跳びガエルは着地の瞬間衝撃を殺し切れず、自身の膝で顎を打ち抜いた。
跳ねた頭はそのまま重心を後ろに流して、潰れた蛙の様な苦しい声を吐いたあとひっくり返ったガエルは気絶した。
後日、ガエルはこう言ったという。
「要練習でござる」




