跳ぶ魔法
自己紹介が終わった跳びガエルは残心をとるようにしばらくポーズを止める。
「彼は初対面の相手には必ずコレをやるのだわ」
「そうなんですね」
たしかに、こんなウザい自己紹介をされたら記憶に残ってしまうだろう。
「私は美月麗羽です。よろしくお願いします」
「あい、わかった。よろしくでござる。なにやら拙者の魔法が見てみたいとかなんとかで違いござらんか?」
「そうなのよ、美月麗羽に見せてあげてほしいのだわ」
「ふむ?」
跳びガエルは片眉を上げてイマイチ納得できていない顔をアピールしてくる。コレを放置しても良いのだが、美月麗羽は一応その理由を伝えることにした。
「実は私が空を飛ぶ魔法を使ってみたいと言ったので、ガエルさんの魔法が何かのヒントになるかもと思いまして、見せていただけたらなっと……」
「そういうことでござったか! それなら拙者にお任せを! なんって言っても拙者! 跳び蛙ぅのガエルぅでござぁるぅ〜!」
本日2度目の自己紹介をしたところで、賢者ルビが跳びガエルの頭をパシんっと叩いた。
「うるさい、早くやるのだわ」
「すんません」
跳びガエルはごほんっと咳をして喉をととのえた。
「そういうことなら飛跳隊の練習風景をみせるのが良いやも知れぬ」
跳びガエルがパンと柏手を打ち、散らばっている隊員に集合をかけて、先ほどのように坐禅を組んで地面に座った。
集まってきた隊員たちも跳びガエルに倣うように坐禅を組んで列になって座っていく。
10名の隊員が揃ったタイミングで丸太を持った兵士が最前列に現れた。
するとガエルたちは『準備はいいか?』と確認するようにアイコンタクトを取り合い最後は全員が頷いて時間が止まったように停止して動かなくなった。
「ルビさん彼らは一体何を……?」
「……始まるのだわ」
「っは!」
威勢の良い掛け声と共に丸太を列に向かって勢いよく転がす兵士。
このままでは丸太にぶつかると思った瞬間。ガエルたちは姿勢そのままに体を宙に浮かせて順番に跳び越えていく。反対側まで進んだ丸太は再度転がされ、またガエルたちは同じ体勢のまま跳び越えていく。
「ルビさん……彼らは一体何を……?」
「……まだ続いているのだわ」
「っは!」
今度は長い棒を持った兵士が棒を振り回していくがガエルたちはそれを器用に跳躍で避けていく。
一見バラバラに散らされたように見えた兵士たちだったが、気がつけば棒を持った兵士を囲むような陣形に変わっていた。
あたかも自然に出来上がった陣形に多少の驚きがあった。
それからガエルたちは一糸乱れぬ連携で跳躍による移動や体の回転を繰り広げていく、激しい動きをしているのにも関わらず姿勢はスタート時から変わらず坐禅を組んだまま。
それらの動きはエンターテイメント性のある絶技であり、見るものの目を楽しませる。
美月麗羽も全く意味はわからなかったがサーカスを見ているような楽しさがあった。
ガエルたちは最後に大技と言うように、4人の列をもう一度つくり、初めて手を天に向けて動かした。するとその人たちの上に3人が跳び乗る。更に2人が上に飛び乗り、最後に跳びガエルが跳び乗り頂点となった。
「相変わらず見事な動きなのだわ」
美月麗羽は腕を組んで『うんうん』と唸っている賢者ルビを横目で確認しつつ、おそらくコレで終わりだろう跳びガエルたちに視線を戻した。
跳びガエルは頂上から前に跳躍して、音もなく座禅を解き地面に降り立つ。後続も次々と前に跳躍して跳びガエルを先頭とした錐形の陣で整列。それから美月麗羽に敬礼をした。
美月麗羽はとりあえずパチパチと手を打ちそれを返答とした。
「美月麗羽良いものを見れたのだわ。今のは彼らの十八番。年の始まりにするパフォーマンス(宴会芸)ですの」
「へぇーー〜〜」




