跳ぶ魔法の使い手
今から高く跳べるという魔法使いに対面すべく話は進んでいた。
「そうと決まれば今から連絡をとるのだわ。少々お待ちいただいてよろしいかしら?」
賢者ルビは美月麗羽に一言断りを入れると、ププププ……プププ……とお尻を震わせ始めた。
なになら急に始まった効果音に妙な親近感を感じる美月麗羽であるが、いったい何に親近感を感じているのか考えて一周まわったところで、『おならの音だよね』と思って考えるのがバカらしくなってやめた。
そんな風に美月麗羽が無為な時間を過ごしていると賢者ルビは突然独り言を始める。
「私なのだわ。今からそちらに伺いたいのだけれど問題はないかしら? ……よかったのだわ。勇者の美月麗羽も同行するのでよろしくですの」
賢者ルビは宙に彷徨わせていた視線を美月麗羽に戻し何事もなかったかのように話を進めた。
「問題ないのだわ。それでは行きましょうか」
すぐに動き出そうとする賢者ルビに美月麗羽は待ったをかける。
「あの……今のは?」
「あっ、初めて見る魔法ですの? これは遠くにいる人物と会話できる便利な魔法なのだわ」
さっきの親近感に似たものは通信音かと美月麗羽のモヤモヤが晴れる。
「だけれど誰とでも使えるわけではなくて事前準備が必要な魔法ですの。人の魔力にはそれぞれ違った波長があり、一時的に波長を合わせる事により発動する事ができるのだわ。
簡単に説明すると、連絡を取りたい相手がいたらお尻合わせという儀式をして、お尻合いになった相手とのみこの魔法が使えますの」
「……お尻合い……」
突然のパワーワードに美月麗羽の脳がバグるが、フリーズした後に『フレンド登録か』っと、すんなりと内容が理解できてしまう。魔法ってなんでもありなのねと思うばかりだ。
美月麗羽はお尻合いのワードから連想されるお尻合わせの姿を連想して、こちらの世界でも連絡先があまり増えそうにないと悟る。
別にフレンド登録の件数をむやみやたらと増やしたいわけではないのだが、少なすぎるというのはなんだか切ない気持ちにさせられてしまうのである。
賢者ルビの先導に従って城内を歩き進める。階段を下りて、歩きまた階段を下りる。
歩を進めるごとに豪華な装飾は減り、遂には無骨な壁と床が剥き出しとなる。その先にあったのは広い部屋。
広い部屋には、使い古した長テーブルとイスが何個も用意されいた。おそらく食堂のような役割をもつ部屋なのだろう。テーブルの間を通って反対側のドアを開くと日の光が美月麗羽たちを出迎えてくれた。
どうやら賢者ルビの従って、城内のどこかの場所から外に出たみたいだ。
「ここは兵士の自由訓練所なのだわ。それでお目当ての人物は……」
賢者ルビは辺りをキョロキョロと見渡した後に木陰で座禅を組んでいる人物に視線を止めた。
「居たのだわ。あの人物がこの国で1番高く跳ぶ男。飛躍隊、隊長。通称跳び蛙のガエル」
(……通称カッコ悪い)
こっちの世界でも蛙はカエルという名前のせいで本名のガエルと重なってしまったのだろう。
通称がまるで虐められてるような呼称になってしまっている。隊長という身分にありながら本人は何も言わないのだろうか。
心の内が表に出ることはなく、本人の前に賢者ルビと美月麗羽は並んだ。しかし、跳びガエルは微動だにしない。
「ガエル」
賢者ルビは美月麗羽の顔を伺ってから呆れたような声色で彼の名前を呼んだ。すると、座禅で足を組んだ状態から、ボフンっという爆発音にも似た効果音と共にガエルの身体が宙に浮かび上がった。
突然の出来事に多少なりとも驚き美月麗羽の目が見開く。悲鳴は出さずに済んだが予想してなかった事態にビックリして美月麗羽の心臓はバクバクと早鐘を打つ。
跳びガエルは空中に浮かび上がった状態から足を伸ばし音もなく地表に降り立った。それから静かに瞼を開けた……っと思ったらカッと目を見開き、良く通る声で名乗る。
「あい! お初、お目にかかぁる! 拙者が跳び蛙のガエルぅでござぁるぅ!」
美月麗羽は自己紹介を聞いて、『あぁヤダなぁ、面倒くさそうな人だなぁ』っと思った。




