賢者の魔法とボディースーツ
「さて、魔法の歴史はここまでにして実際に魔法を使うところを見てもっと魔法に慣れていって欲しいのだけれど、私が魔法を使うのはあなたを不愉快にさせてしまうのかしら?」
「いえ色々と話を聞けて、心の準備もできているので自分で使うのでなければそれほど嫌な気持ちにはならないかもしれません」
賢者ルビは美月麗羽の前向きな言葉ににっこりと微笑み返す。
「それは良かったのだわ。あなたは魔法を感覚的に使用するのと、論理的に組み立てて使用するのとどっちがお好みかしら?」
「できれば詳しい説明をお願いしたいですね」
「わかったのだわ、もう何度か聞いた話もあると思うのだけれど初めから説明するのだわ」
賢者ルビは顔の近くの空間に指を立てて説明を始める。
「この空間には魔素と呼ばれる魔法の素があるとされているのだわ。その理由は私たちは呼吸を止めた状態では新たに魔力を作る事ができないからなのよ。そして、魔素は素ではあるけれど、それだけでは魔法の発動には至らないのだわ」
賢者ルビはヘソの下辺りに両手を当てて説明を続ける。
「魔素を使うためには、この辺りで自分の気を混ぜて魔力に変換する必要があるのだわ。それを魔力を練ると言うのよ。練とも言うのだわ」
賢者ルビは右手を前に突き出して握り込んだ。
「一回の練で作り出せる魔力はこれだけ、まずはこの魔力を使って魔法を使ってみるのだわ」
賢者ルビは美月麗羽に背中が見えるように体の向きを変えた。
賢者ルビのお尻の部分だけは兵士の服装と同じようにタイツのような質感の履物だった。肌に密着しているせいでお尻のラインがハッキリと見えて、なんだか破廉恥な感じがすると美月麗羽は思っている。
「なんていうか、そのお尻の履き物はなんとかならないのでしょうか?」
賢者ルビは変な質問に疑問符を浮かべながら振り返って美月麗羽の顔をみる。
「ごめんあそばせ。質問の意味がわからないのだけど、どう言うことかしら?」
「私的にはその、お尻の形がハッキリと見えるのは恥ずかしいと思うので……どうにかならないのかと」
「そうなのね。恥ずかしいと言うのはどれくらいですの?」
「胸をさらけ出すのと同じ程度には」
賢者ルビは眉間にしわを寄せて腕を組む。
「それは相当ですの。……でもこれには他に解決方法がないのが困りものなのだわ。説明する前に一度魔法の発動を見てほしいですの」
賢者ルビはもう一度、美月麗羽に背を向けて魔法の発動をする。
賢者ルビのお尻の辺りに手に収まる程度の光が集まり、魔法陣が形成される。魔法陣が高速で回転を始め中心に集約していくと小石程度の氷がポトリと絨毯の上に落ちた。
「今のは氷を作り出す魔法ですの。魔法を発動しようとすると、体の中の魔力をお尻から放出して物質を作り出すのだけれど、この時変換する物質によって発動する魔法陣が異なりますの。
その話は一度置いといて、あなたのさっきの質問なのだわ。私の履いているこの素材は魔力の通りを阻害しない特別な素材でできていますの。
もし、他の素材で作ってしまうと魔法発動時に破けてしまうのだわ」
美月麗羽は涼しくなってしまっている太もも辺りを手で押さえて、先程破けてしまった自身のおパンツを思い出し、口をへの字に変えた。
そして、先ほどの昔話が脳裏をよぎる。昔話に出てきた原初の魔法を使った聖女は、祈りを捧げたばかりに、お尻丸出しになってしまったのではないか。
怪我人たちを救いたいという願いが叶えられたとはいえ、お尻丸出しはひどい仕打ちである。
美月麗羽は鮮明にその時の状況を想像して聖女の羞恥に深い同情をした。
「そうなの……特別な素材だったのね」
「強制はできないけれど、もしも魔法を発動しないといけない場面になった時、その……もっとひどい惨状にならないためにもこのボディスーツは着るべきだと思うのだわ」
賢者ルビは身についていた装備を脱ぎ、ボディースーツの姿になる。
「私たちにとってこのボディースーツこそが服で、上に重ねているのは身分を表すための装飾のようなものですの……それで言いにくいのだけれど、今のあなたは私たちの目から見て、服を着ずに装飾を纏っている状態で、私からしたら落ち着かない状態なのだわ」
美月麗羽は賢者ルビの言葉が自身がノーパンになってしまっている事の落ち着かなさと重なり、自分こそが破廉恥な格好で過ごしている恥ずかしさを感じる事となった。
ちらっと美月麗羽用に準備されたボディースーツをみる。先程は恥ずかしくてしょうがなく感じたそれが、今ではそれを着ない事の方が恥ずかしいと思うようになってきた。
集団の中で自分1人だけが違うという落ち着かなさを始めて感じる。
「ルビさん、そういう事情なら私も着替えたいのですが、少し時間をいただけますか?」
「そ、そうね! 1度部屋を出て待っていますの。何か分からないことがあれば、ドア越しにでも声をかけて欲しいのだわ」
賢者ルビが部屋から出たあと、美月麗羽はボディースーツを広げて着替えるための勇気が貯まるのをほんの少しだけ待つのだった。




