第2話「強制収容所から脱出せよ」
【ブレイクランド】の世界に転生したヨシハルは序章を攻略するためツバキと共にこの収容所からの脱出を試みていた。
看守の魔物の眼を盗み、ヨシハルは牢屋の隙間からでて脱出口を探していた。
(確かここが建物の通気口で…魔物達のいる会議室につながっていたような)
攻略した記憶を頼りに道を進んでいく。すると会話が聞こえ耳に入った。
「ここで入手できるアビスリウムはほぼ採掘しつくしたようです」
「そうか、ではここの採掘所は廃棄しよう。人間どもは全員殺せ」
「殺すのですか?」
「労働力ならまたどこからか人間を拉致すればいい。人間は簡単に増えるからな。それに万が一勇者のような奴が現れるきっかけが出来たら困る」
「はっ! では準備次第人間どもは始末します!」
「任せた」
「…シナリオ通りか…」
嫁キャラと出会った後収容所脱出イベントがある。この世界の魔族はアビスリウムを武器や魔法薬の材料にしており、それらを採掘するために魔王軍の生き残りたちが人間達を拉致して堀らさせているのだ。そして鉱石が出なくなったら始末する。これは報復を恐れているためだと言われている。
兎に角、皆を脱出させる前に殺されたら困るので急いで牢屋に戻りツバキに伝えた。
「なら早めに脱出しないといけないな…」
今のステータスはまだレベル1であり、魔物達を倒すことは出来ない。だが気絶させることは出来る。ヨシハルとツバキは物陰に隠れ牢屋が誰もいないような感じにした。
「! い、いない!?」
看守をしていたサイクロプスがカギを開けて確認のため慌てて入ると。
「「そりゃ!!」」
『ダイスロール! サイクロプスを気絶させろ! 1.3なら失敗。2.4.5なら成功! 6はクリティカル!』
場面が止まり、ダイスロールが始まる。ヨシハルはサイコロを振った。
コロコロ、コロン…
『2! ダイスロール成功!! サイクロプスは気絶!!』
「ぐわああ!?」
ダイスロール成功し、サイクロプスは気絶した。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
牢屋を出て、ヨシハル達はヨハンのいる場所に向かった。
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「そうじゃったか…。どうりで今日は作業が終わるのが早いと思ったわい…」
「俺たち殺されちまうのか!」
「いやよ! まだ死にたくないわ!!」
ヨハンは落ち着いているが他の皆はパニックになり慌てる。
「ヨハン! ここから脱出しよう! じゃなきゃ皆殺されてしまう!」
「落ち着け。策もなく脱出すれば全滅じゃ。…ヨシハル。皆ついてまいれ」
ヨハンはそう言って自分が管理している班の採掘所へと向かった。
「こんなこともあろうかと脱出用の穴を掘っていた…。6年かけて皆と交代で掘っていたわい。…ヨシハル。生きるんじゃ。生きて必ずこの世界を再生させておくれ…」
「ヨハン! 何を言っているんだ!」
「…わしはもう長くない。未来あるお前たちが生きていくんじゃ」
ヨハンが話していると爆発音が鳴り、サイクロプスやガーゴイル。そして先の会話イベントで登場した収容所の統括者、魔王軍幹部ラスプが現れる。
「人間どもを生きて返すな! 全員始末しろー!」
「「「ウオオオオオオオオオー!」」」
「ここはワシらがしんがりをする。ヨシハル達は逃げるんじゃ」
「ヨハン! 」
「いいんじゃ。…元国王としてこの国を守れなかったワシの最後の仕事じゃ」
「国王様、我々もご一緒します」
ヨハンと共に4人の男が並ぶ。かつてヨハンの家臣だった者たちだ。
「早く行くんじゃ! この世界の為に!!」
「くっ…! ヨハン、いつかまた…!!」
僕はツバキたちと共に脱出ようの穴に入った。わかっていた。ヨハンは主人公達を助けるためにここで犠牲になることを。シナリオ上とは言え、僕の心は深く傷んだ。
(もうこれはゲームじゃない…! これは今現実に起きていることなんだ…!)
「追え、追えー!」
「1人たりとも逃すなアアア!!」
ヨハン達は倒されたのだろう。追手のサイクロプスとガーゴイルの軍団が迫ってくる。
「早くしろ!」
「押すな!」
穴の中は渋滞し、逃げ遅れたものたちが次々と魔物達の犠牲となっていく。
「くたばれー!」
「ギャアアア!!」
地獄の様な状況で僕はなんとかツバキを連れて脱出し、収容所の外に出た。
「ここは…!」
「…」
そこは海に囲まれていた。
ヨハンがかつて統括していたシーラ公国は周囲を海で囲まれており、魔王軍も中々攻略できない場所であった。
だが勇者がいなくなってから、魔王軍の副官・メフィストの手により国は陥落。アビスリウムの採掘所として町は破壊され、人々は魔物達の奴隷になった。逃げた人々は魔物にみつからないようにして隠れて住んでいたが、見つかり次第拉致され、採掘所に連れていかれたのだった。
もし勇者が生きていればまだ勝てる望みはあったかもしれない。だが勇者とその仲間たちは魔王との戦いで全滅している。副官・メフィストはその機会をモノにし勇者によって滅ぼされた魔王軍の幹部たちを蘇生させ、各地を滅ぼし支配。そして魔王軍再興をしているのだ。
人間達も冒険者ギルドをつくり対抗しているが、魔王軍を押し返すほどの力はまだない。
(物語を進めるためにもここからまず脱出しなければならない。確か魔物達が使っていた連絡船があったはずだ…!)
「おい! こっちに船があったぞ!」
「はやくこの島から脱出だ!」
連絡船に乗り込み、僕達はこの島から脱出を試みた。
「船が奪われた…!」
「撃て! 奴らを海の藻屑にしろー!」
魔物達が魔法攻撃や大砲を使って船に攻撃を仕掛ける。
ドゴーンッ! ドゴーンッ!
「うわああああ!」
「スピードを上げろ!」
「無茶言うな! 定員オーバーだ!」
魔物達の攻撃で船が大きく揺れ、その攻撃はついに船体を破壊し始める。
「船沈むぞー!」
「海に逃げろ!!」
船体が崩壊し、動力が壊れ爆発する。
「うああああー!」
「ツバキさーん!」
爆発により逃げた人々と僕らは散り散りになった。
「破壊したか…」
「あの爆発では生きてないだろう。ラスプ様の所に戻り早く採掘したアビスリウムを魔王軍本部に運ぶ準備をしよう」
魔物達は沈没を確認し、ラスプの元に戻った。
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―魔物達の手を逃れ、ヨハンの捨て身の行動で強制労働収容所を脱出したヨシハルとツバキ。
だが物語はまだ始まってもいない。
勇者無きこの世界を復興するため、冒険者となり魔物達を狩り、経験を積んで人々の生活を帯や脅かす魔王軍の幹部と、副官メフィストを討つのだ。
この破壊されたブレイクランドの平和を取り戻すために、君と共に戦う愛する者たちと協力するのだ。さあ目覚めるのだ。勇者の血よ。平和を愛する正義の心よー!
「うう…」
頭に再び聞いたことがある声が流れ、目が覚めると海岸にいた。
「気が付いたか…」
「ツバキさん!」
「どうやら助かったみたいだな…」
主人公補正というべきかシナリオ通りというか、あの収容所から脱出し、船が破壊され海に投げ出された後この海岸に流れ着く。
港町・ビガン
そこは冒険者達の町・ギルドフロントの一部である。ここで主人公は嫁キャラと冒険者チームとなり各地を巡る冒険に出るという流れになっている。
「他に助かった奴はいないみたいだ…」
「ツバキさんだけでも無事でよかったです」
「ありがとう。だが、これからどうする?」
ツバキさんの言う通り、今の僕らは一文なしであり冒険者に必要な物を一切持っていない。だがこのゲームをクリアした僕は進め方を覚えていたので迷わず次の展開へ進むことにした。
「ツバキさん、とりあえず港町に向かいましょう」
「わかった」
港町・ビガンは魔王軍から逃れた人間と魔物が住んでいる中立の土地である。ベリアルが魔王軍にいたころは魔物達は皆ベリアルの命令に従い人間達を襲っていたが、ベリアルが倒れ、メフィストが魔王軍のトップに立つと、行く先を不安に感じた魔物達の一部は魔王軍から逃れ、これまでの罪を償うべく人間達と協力することにいた。
その懸け橋としてビガンは作られた。ここは人間、魔物、亜人。全てが平等に暮らせる町なのである。
町を歩き、ヨシハルはこの町の管理者でるギルドマスター・ラバンがいる建物にやってきた。
入ると机の前にポッコリお腹の中年のドワーフらしき男がいた。彼がギルドマスターのラバンである。
「誰だ?」
「すみません。私はヨシハルといいます。こちらは仲間のツバキさんです」
「よろしく…」
「ふーん、…お前ら訳ありって奴か。とりあえず飯でも食うか? 腹減ってるだろ?」
ヨシハル達の身なりを見てラバンはいきさつを察し、食事を用意した。計算高い男だが、困った人がいると見過ごせない義理がある彼だ。
冒険者の多くは彼を慕っている。ヨシハル達に食事を提供しラバンは話を始める。
「オレの情報だと、魔物達の採掘所から人間が脱走した話を聞いている。お前らはその脱走者じゃないのか?」
「その通りですね」
「まあ、オレも魔物みてえなもんだが人間とは共存したいと思っている。魔王が支配した時代は終わったし、副官のメフィストじゃ世界の支配なんざ無理だろう」
「はあ」
「で、話は変わるがよかったらオレの紹介する仕事をしてみないか?」
(来た!)
ラバンから仕事の依頼。これで冒険者となり、ブレイクランドの物語が本格的に始まることになる。
「仕事だと?」
「ああ。オレのツテでお前たちを冒険者ギルドに登録する。今世話しているパーティの連中が人手不足だから手伝って欲しいのさ。報酬は簡単な依頼だから低いが、レベルが上がれば報酬も増えていくぞ。道中、魔物達も出るが倒せばレベルが上がるし、魔王軍の生き残りも倒せるくらいになるだろう」
「ラバンさんはそれが狙いで?」
「…魔王ベリアルは勇者しか倒せなかった。メフィストや幹部共も強いがベリアル程じゃない。オレはこの世界をいつか復興させるのが夢だ。そのためにもまずは強い冒険者を育てて魔王軍の残党を狩るのが先決だ」
「…」
「まかせろ。私とヨシハルが必ずメフィスト達を倒す。それが犠牲になったあの人たちのせめてもの弔いになる」
「ありがとよ。ヨシハルにツバキだったな。依頼は明日の朝、この建物の前に集合してくれ。今日はオレが用意した宿に泊まればいい」
こうして最初の依頼を約束し、冒険者になることが決まった。
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―宿屋
「はあ、さっぱりした」
体を綺麗にしドット疲れがでた僕らはベッドに横になった。
「なあヨシハル。…私達は明日から冒険者になるわけだが、魔王軍の奴らと戦うことになるかもしれない。大丈夫だろうか?」
不安そうにツバキは話す。
「…簡単な事ではないと思います。だけどまずはラバンからの依頼を達成することにしましょう。生きていれば希望がありますから」
「そうだな」
ツバキは自分のベットをでてヨシハルのベッドに寝ころぶ。
「ツバキさん!?」
「悪い…。今日は1人で寝れそうにないんだ。一緒に寝てくれ…」
後ろから抱きしめられて、ツバキの豊満な胸の感触とぬくもりが布越しに伝わる。
「あ、はい」
役得と感じながらも、明日からハードな冒険が始まることを知っているので寝ることにした。