第三話 冒険者ギルド
いざ中へ入ってみると、冒険者ギルドの中はまるで酒場のように賑わっていた。
………いや、マジモンの酒場だった。
冒険者ギルドの中は三つのスペースに別れていた。
一つ目は、今俺の目の前にある酒場スペース。
ギルド直営の酒場で一般人も利用できるため、冒険者以外の人もここに来ている場合が多い。
勿論、冒険者の人は割引してもらえるらしい。
二つ目は酒場スペースの隣にある受付スペース。
冒険者登録やクエストの受注などはここで行う。
受付に併設されたクエストボードには現在、多くの冒険者が群がっている。
あと、受付嬢さんがカワイイ。
三つ目は、2階にあるが本棚がちらっと見えているため、おそらく資料スペースだろう。
多分、魔物の情報とかをまとめた資料を置いていると思われる。
とまあこんな感じだ。
俺の目的は冒険者登録のため、受付スペースに向かい、窓口の前に立つ。
「ようこそ冒険者ギルドへ、ご要件は何でしょうか?」
「え、えーと、ぼ、冒険者登録をしたいのですが……」
見事なまでの営業スマイルを顔に浮かべる受付嬢さんに俺は少したどたどしくなりながら要件を言う。
「冒険者登録ですね。かしこまりました。それでは、登録費として500グリムが必要ですので、登録費のお支払いをお願いいたします。」
(おおう……ここでも出費が…………。)
俺は登録費を支払うために革袋……もうこの際財布でいいか。
俺は財布から銅貨を5枚支払った。
「500グリム、確かに頂戴いたしました。それでは少しお待ちください。」
受付嬢さんはそう言うと、受付窓口の奥の方へ移動した後、一つの水晶と1枚のカードを持って戻ってきた。
「それでは、貴方の情報をギルドカードに記録するため、こちらの魔水晶に手をかざしてください。」
俺は言われるがままに魔水晶と呼ばれた水晶に手をかざす。
すると、魔水晶は淡い光を発して、ギルドカードへとその光が流れ込んで行く。
そして光が収まり、ギルドカードの方を見ると、カードの表面に様々な情報が書き記されている。
そして、受付嬢さんがギルドカードにスタンプを押し、カードには冒険者ギルドの印が押されていた。
「それでは、こちらの契約書にサインをお願いいたします。」
俺は受付嬢さんから様々なルールが書かれた契約書が渡された。
契約書に書かれたルールはこうだ。
1:冒険者登録、または最後の依頼から半年以上活動を行わなければ登録が失効される。再登録する場合、再登録費500グリムが必要。
2:クエストの受注は自身のランクに適した物しか受注できず、クエストが失敗した場合、違約料が発生する。
3:冒険者同士のトラブルについてはギルドは一切関与しない。ただし、ギルドへの不利益に繋がるトラブルを起こしたならば、処罰の対象になる。
4:クエストの連続失敗、または禁止事項を行った場合、処罰としてランクが降格される。しかし、あまりにも悪質な場合は冒険者ギルドから追放され、冒険者ギルド追放者として各冒険者ギルドにて情報が共有され、ギルドへの再登録が行えなくなる。
と、以上である。
まあ簡単に言えば、クエストは身の丈に合ったものしか受けれず、失敗すれば賠償金が発生する。そのうえクエストの連続失敗をしてしまったり、ルール違反を行えば処罰されたりするってわけだ。
俺は契約書に書かれたルールを読んだ後、契約書にサインを書いた。(文字も書けるようだ。)
「サインを書いたので確認をお願いします。」
「確認します。「ムラカミ コーイチ」……ムラカミとは変わったお名前ですね?」
受付嬢さんが不思議そうに俺の名前をまじまじと見ている。
それを見て、俺はあることに気付いた。
(ああ、この世界では名前が先なのか。)
「いえ、ムラカミは苗字でコーイチの方が名前です。」
俺は受付嬢さんにムラカミが苗字でコーイチが名前だと伝える。
「名前と苗字が逆…………?」
それを聞いた受付嬢さんは少し考えたあと、何か理解したかのか「あっ!」と声をあげた。
もしかして、ジパング皇国の出身の方ですか?」
(ジパング皇国?)
俺はおそらくこの世界に存在するであろう国の名前を聞いた。
(ジパング………過去に日本がそういう名前で呼ばれたことがあったって歴史書で知ったな……。さらにそれで日本のように苗字が先の国って、もしかして日本と同じような文化を持つ国なのか?まあ、ここは話を合わせるか……。)
「はい、ジパング皇国の出身です。」
「なるほど、道理でここでは珍しい黒髪黒目なんですね。理解しました。」
受付嬢さんは疑問が解けた後、先程の営業スマイルに戻り、契約書を回収し、ギルドカードをこちらに差し出した。
「それではコーイチさん、こちらが貴方のギルドカードになります。お受け取りください。」
俺は差し出されたギルドカードを受け取る。
「このギルドカードはステータスカードとしての機能もついておりますので、「ステータスオープン」と言えば、コーイチさんのステータスと神から与えられたスキルが記されたパネルが現れます。試しにここで開いてみてください。」
「わかりました、『ステータスオープン』。」
神がスキルを与えていると聞くかぎり、あのクズ女神がスキルを設定しているのだろう。嫌な予感しかしないけど……。
俺は受付嬢さんの言う通り、ステータスを試しに開いてみた。
俺のステータスはこんな感じだ。
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名前:ムラカミ コーイチ(村上 幸一)
天職:万能者
Lv:1/100
HP:150/150
MP:80/80
力:60
攻撃魔力:50
回復魔力:40
防御力:120
素早さ:50
器用さ:50
運:0
スキル
•カウンター(Lv:1) •炎魔法(Lv:1)
•水魔法(Lv:1) •風魔法(Lv:1)
•光魔法(Lv:1) •不幸体質
ユニークスキル:逆転の力 ULP:3
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「…………………何このスキル。」
俺は何か不吉な名前のスキルを見つけ、それをタップしてみる。
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『不幸体質』
全ての幸運に見放され、全ての不幸に愛されるスキル。次々と起こる不幸に頑張って耐えてください。
〈効果〉
LUK(幸運)のステータスが0で固定される。
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俺はそのスキルの詳細を見て、膝から崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですか!?」
突然膝から崩れ落ちた俺を心配した受付嬢さんが声をかけてくれるが、俺の絶望した心には届かなかった。
(殺す……あのクズ女神……絶対に殺す……!)
俺はこんなクソスキルを与えたあのクズ女神を本気で殺したいと思った。
◆ ◆ ◆
「落ち着きました?」
「はい、先程はすみません………」
絶望から立ち直った俺は迷惑をかけてしまった受付嬢さんに謝罪する。
その後、受付嬢さんは俺の『天職』の部分を物珍しそうに見ている。
「それにしても、万能者ですか。珍しい天職をお持ちになっているのですね。」
どうやら俺の天職である万能者は珍しい物らしい。
俺は受付嬢さんに万能者について聞いてみる。
「あの、万能者ってどんな天職なんですか?」
「万能者というのは世界で10万人に1人の確率で持つ人が生まれるその名の通り全てのステータスのバランスが取れたオールラウンドな天職です。ただし、ステータスのバランスが取れている分特出したステータスが無いので器用貧乏がなりやすいというデメリットがあります。」
(うわぁ……あまり良い活躍ができなさそうな天職だな………)
「それと、他の下級天職が上級天職に進化するクラスチェンジが行えません。そのため、他の天職がレベル50が最大なのに対して、万能者はレベルが100まで上がります。まあ、それでも上級天職には特出したステータスでかなり負けてしまいますけどね。」
「それ、最大の欠点じゃないすか………」
「で、でも!コーイチさんは他の万能者に比べて防御力が高いですよ!これはコーイチさんの長所みたいなものじゃないですか!」
受付嬢さんがそう励ましてくれるが、おそらくその防御力は数々の不幸に遭ってきた俺の体がそれに耐えられるように強靭になったものだと考えられる。
つまり、これからも不幸に遭い続ける前提の防御力だと思うとあまり嬉しくない。
全てにおいて中途半端かつ器用貧乏なこの天職を俺に与えたのもあのクズ女神が仕組んだことだと思うと、余計にクズ女神に対する殺意が湧いてくる。
「はぁ………あくまでもおとぎ話の内容になるのですが、遥か昔に世界が危機に陥った時にある一人の万能者が勇者として覚醒し、世界を救ったなんて伝説があります。そのため、万能者は多くの可能性を持つ天職とも言われています。だから、あながちハズレってわけでも無いですよ。」
「さいですか………」
俺にはただの慰めにしか聞こえていないが、それでも俺はその可能性という物を信じてみたいと感じた。
「それでは、かなり長引いてしまいましたが、これでコーイチさんの冒険者登録は終了です。冒険者はFからSまでランクがありますが、全ての冒険者はFランクから始まりますので、頑張ってクエストを達成し続けてランクを上げて行きましょう。」
「はい、ありがとうございます。そして、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
かなり長くなってしまったが、ついに俺はこの日を境に冒険者として生きていくことになる。
そう考えると、俺は前世では味わえなかった体験をこの身で感じることになんとも言えない高揚感を感じるのであった。
「あ、でも流石にパーティは組んだほうがいいとお思いますよ?仲間がいれば生存率も上がりますし、何より、仲間がいると安心感が感じられますからね。」
「アドバイスありがとうございます。それじゃあパーティを組んでくれそうな人を探してみます。」
受付嬢さんのアドバイスを受け、お礼を言ったあと、早速パーティを組んでくれそうな冒険者を探すことにしたその時だった。
「それなら僕と一緒にパーティを組むかい?」
「え?」
俺は突然、後ろから声をかけられた。
俺が後ろを向くと、そこには青色のローブを身に纏った糸目が特徴的な金髪の青年が立っていた。
詳しく触れてなかった冒険者のランクの詳細です。
■Fランク:冒険者が誰でも最初になるランク。初心者クラスの冒険者の証。
■Eランク:Fランクの一つ上のランク。これではまだ冒険者としては駆け出し。
■Dランク:Eランクの一つ上のランク。ここまで上げてようやく冒険者として一人前だと認められる。
■Cランク:Bランクの一つ下のランク。このランクに来ると一気に数が減る。熟練の冒険者の証。
■Bランク:上から三番目のランク。現実で言うセミプロの部類に入る。大抵の街ではこれが最大のランク。
■Aランク:上から二番目のランク。冒険者としてはプロの部類に入る。ここまで来ると貴族や王族からのクエストがメインになる。
■Sランク:冒険者ランクの頂点。このランクに到達した冒険者は歴史上で片手の指で数えるほどしか存在せず、その全てが英雄と称される程の実力者。
冒険者ランクを昇格させるためには、依頼に記載されている「昇格点数」を指定された点数まで依頼を達成することで取得し、昇格試験を受験し、合格しなければならない。
昇格点数は自分と同じランクの依頼でしか加点されず、依頼の失敗や試験が不合格などで減点される。
ちなみに、Fランク冒険者がEランク昇格試験を受験するためには、昇格点数が10点必要となる。
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お読みいただき、ありがとうございます!面白いと感じたら是非とも高評価をお願いいたします!m(_ _)m