第二話 最初の街
街の門をくぐると、目の前には多くの人で賑わう街並みが広がっていた。
街のあちこちから人々の何気ない日常会話や屋台から漂う空腹感が刺激される匂いを感じる。
「へぇ、あの防壁の中の街はこんな賑わってんだな。」
街を歩いているとひとつの屋台が目に入った。
少し筋肉質なおっちゃんがやっているその屋台の調理台には絶対うまそうな色に焼き上げらている串肉が売られている。
それを見ていると、腹が「ぐぅ〜〜〜」と音を出すほど腹が減ってきた。
(そういや、転生前の最後の食事が焼いてもない食パン一枚だったからな………つーか、今考えると随分と寂しい最後の晩餐だな………まあいいや、ひとつ買ってみるか。)
「すいません、串肉をひとつください。」
俺はその屋台に足を運び、串肉をひとつ注文する。
「あいよ、お代は90グリムだよ。」
(グリム?ああ、この世界の通貨の名前か。)
俺は制服のポケットに突っ込んでいた革袋から銀貨を1枚取り出し、屋台のおっちゃんに渡した。
「1000グリムか……あんちゃん、もう少し細かい金はねぇのか?」
(銀貨1枚1000グリムか。日本円で単純に換算すると1000円か。つーことは初期費用5000円かよ!?あのクズ女神、とんだケチだな……!)
あまりの初期費用の少なさにあのクズ女神を少しでも気前が良いと思った俺をバカだと思った。
「どうしたあんちゃん、急に黙り込んで?」
クズ女神のケチっぷりに静かに怒りをたぎらせていると、屋台のおっちゃんに心配されてしまった。
「ああ、すみません!実は銀貨しか持ってなくて……」
屋台のおっちゃんに心配をかけてしまったに謝った。
「なんだ、そういうことかい。ちょっと待ってろ…………ほい、釣り銭の910グリムだ。」
銀貨を代金として受け取ったおっちゃんからお釣りとして、俺は銅貨9枚と少し青みがかった通貨を1枚を受け取った。
(銅貨1枚で100グリム、そしてこの……多分青銅貨かな?これが1枚で10グリムか。大体この世界の通貨の仕組みがわかった気がする。)
「ほい、おまちどうさん。熱いから気をつけろよ。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
この世界の通貨について考えているたら、いつの間にかおっちゃんが焼き上がった串肉を差し出してきたので俺はそれを受け取った。
そして、空腹の俺はその串肉に食らいついた。
「美味しい!」
すこし厚めに切られた肉から大量の肉汁が溢れ、口の中に肉のジューシーな味わいが広がる。
そしてそこに、少し甘い味がする濃厚なタレが味にアクセントをつけている。文句なしの美味しさだ。
「はっはっは、それは良かった!」
おっちゃんはそんな俺の反応を見て、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
しかし、そのおっちゃんの顔が誰かを心配するような顔にすぐに変わった。
「というかあんちゃん、そんな格好で大丈夫なのか?全身がびしょ濡れだぜ?」
「え、あ……。」
おっちゃんに全身がびしょ濡れなことを指摘され、先程ハンタークロウに襲われて逃げている間に池に落ちてしまったことを思い出した。
「やべ……服どうしよう………?」
このままびしょ濡れのまま放っておけば間違いなく風邪をひいてしまうだろう。
この世界の医療技術がどれほどの物か分からない今の状況ではそれは非常に危険だ。
「あんちゃん、服に困ってんなら、俺が良い服屋を教えてやろうか?」
「え、いいんですか!?ぜひお願いします!!」
まさかの救いの手に俺はすぐに反応した。
「お、おう、店はこの街の中央広場から東の方向の大通りにあってな。その店には古着しか売ってねえんだが、新品の服を買うよりは安く済むぜ。俺もしょっちゅう世話になってんだ。」
「分かりました!ありがとうございます!」
店の場所を聞いた俺は串肉を急いで喉に詰まらないように食べ終え、おっちゃんの屋台を去り、古着屋へ急いで向かった。
◆ ◆ ◆
「よし、やっとマシな格好になったな。」
おっちゃんに古着屋の場所を教えてもらった後、古着屋に着いた俺は、黒の長袖の上着と亜麻色のズボンと革ブーツ、それぞれの下着類を購入した。
流石にお古の下着は……とは思ったが、このままびしょ濡れ状態でいるわけにはいかないと、泣く泣く購入した。
あと、見たこともない文字を見てもそれをいとも簡単に読めてしまうことから、自分がこの世界の文字を読めることに気づいた。
おそらく、異世界転生の特典みたいなやつだろう。
ちなみに、代金は上着が240グリム、ズボンが180グリム、革ブーツが300グリム、下着類が450グリムで総額1170グリムだ。
残金は3740グリム。少し痛い出費だった。
こういった出費が続くと一つの問題が出てくる。
「困ったな……どうやって金を稼ぐんだ?」
そう、収入の問題だ。
え、普通にどこかに雇ってもらえって?
HAHAHA、こんな素性もわかりもしない奴を雇ってくれる職場が簡単にあると思っているのかな?
んな職場あるわけないだろ!!
そんな収入の問題に頭を抱えている俺の視界に数人の人が集まったグループが目に入った。
しかし、そのグループの人々はただの人ではなかった。
いっちょ前に武器を持ち歩き、体を防具で固めたいかにも異世界モノでよくあるような冒険者ってん感じの人だった。
(………って、冒険者………?………ッ!!)
その時、俺の頭が何かを閃いた。
(そうだ、冒険者だよ!ここは剣と魔法のファンタジー世界だ、さっき俺を襲ったハンタークロウは魔物に違いない!だったら、冒険者がいないはずがない!だったら、街に冒険者ギルドがあるはず……!)
そう考えた俺は早速そのグループの元に駆け寄り、声かける。
「すみません!もしかして冒険者の方々ですか?」
「お、おう、確かに俺たちは冒険者だが……何か用か?」
俺に突然声をかけられたグループのリーダーらしき男が戸惑いながらもそう答える。
(やっぱり冒険者だ!なら、冒険者ギルドがあるのも確定だな…………!)
「あの、実は俺、冒険者になりたくて田舎からこの街に来たんですが、冒険者ギルドの場所が分からなくて困ってたんです。なにせ、この街かなり大きいですし…………」
冒険者ギルドの存在を確信した俺は、適当に田舎からやってきた若者という設定をつけて、彼らに冒険者ギルドの場所を訪ねた。
「ああ、あんた冒険者になりに田舎から来たのか。そりゃあこんなデカい街で冒険者ギルドを探すのも苦労するわな。冒険者ギルドはこの街の中央広場の西の方向の大通りにある石造りの砦みたいな建物だ。」
「ありがとうございます!助かります!」
俺は冒険者ギルドの場所を教えてくれた冒険者の男性にお礼を言ったあと、すぐに冒険者ギルドへと走り出す。
「おっとそうだ、冒険者は危険と隣り合わせの仕事だから、命を無駄にするような真似はすんなよ〜!」
「ご忠告ありがとうございます〜!」
(………つーかこの街、大抵の店や施設は中央広場から行ける大通りにあるんじゃね?)
そんなことを思いながら俺は冒険者ギルドへ向かうのであった。
◆ ◆ ◆
「ここが冒険者ギルドか………。」
俺は石レンガで建てられた立派な建物……冒険者ギルドの前に立っていた。
異世界ファンタジーモノのラノベでお約束ともいえる冒険者。
常に危険と隣り合わせの危険な仕事だが、努力次第で富と名声を得られるロマンの塊でもある。
その冒険者に俺はなろうとしている。
あのクズ女神の言う通りになるのは癪だが、やはり剣と魔法が存在するファンタジーな異世界はとても興奮する。
俺は昂る心を胸に冒険者ギルドの扉に手を掛け、ギルドの中へ入っていった。
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