金瞳の少女
「ろくに茶も注げないのか!? この役立たず!! 」
白粉と紅を塗りたくった毒々しい女が甲高い声になりながらボロ服を着たこの国では珍しい金色の瞳を持つ少女を怒鳴りつけ頬を叩いた。
「クスクス……。バカね。」
と笑って足を組み、頬杖を突きながら金瞳の少女をバカにする可愛らしい顔立ちの少女。
その一部始終を見ていた男は何も言わずに傍観を決め込んでいた。
「も……申し訳、ございませんでした……。」
その後も金瞳の少女はひたすら謝り続けた。ひたすら女と少女に向かって謝り倒した。
「もういいわ、それより外に出てくれない?」
女の言われた通りに少女は家の戸を静かに閉めて外に出た。
彼女の目は光を失っていた。
彼女の名は松春。松春は、家族に虐待されている。松春の両親は松春の妹である松夏のことを可愛がり、松春を実の娘でありながら下女のように扱い、暴力を振るうこともある。そんな様子を見てきた松夏は姉であるはずの松春を馬鹿にして自分の下女のように扱っている。
そして、そのような光景は松春の住んでいる街の者なら日常の一部にすぎなかったのだ。
『可哀想だけど、妹の方が可愛い顔立ちで出来が良いのだから仕方がない。』
と街の者は松春について皆、口を揃えてこういうのだ。
松春と松夏は年子であった。年子であったが故に松春は尚更、松夏と比べられて育った。
(まあ、街の人たちの言い分も分かる……。
白く透き通った陶器のような肌、細い手足、かと言って程よい肉付きの肢体、手入れの行き届いた美しく靡く漆黒の長い髪、すっきりとした小さな顔、ぱっちりとした少し垂れ気味の目と長いまつ毛、黒曜石のような輝きのある今にも零れ落ちるかと思うぐらい大きな瞳、ふっくらと厚みがある小さな唇……。
確かに、これだけ揃えば夏が周りから可愛がられるの分かる……。
それに容姿だけじゃない。
楽器を弾けば繊細な音色を奏で、歌を歌えばの優しい声で皆の心を包み、舞をやれば天女のような軽やかな足取りで舞い、刺繍をすれば縫われた草木や花などが本物ではないかと見紛うぐらいだ。それに、話題を振れば笑って頷き自然に会話を弾ませれるほどの話術を心得ている。
性格も私以外には穏やかで優しい。
だからこれは仕方がないことなんだ……。)
全てを“仕方がない”、そのたった一言で片付け、ぼんやりと空を見上げながら松春はゆっくりと歩いてゆく。
そうでもしなければ、自身の心が壊れてしまうと本能で感じ取ったのだろう。
だから松春はどんなに悲痛の叫びをあげようと自分の声は届かないから自分の思いを伝えることをしなくなった。結局、誰もが自分ではなく妹の松夏を選ぶから誰かに愛して欲しいと願うことを諦めた。泣いたところで事態は一向に良くならないから泣くことをやめた。怒ったところで殴られたり蹴られたりする回数が増えるから周りに対して怒ることをやめた。
だから松春は家族の命令に従い淡々と作業を熟すようになった。自身の自由と感情を“重石”で心の奥底に沈ませて……。
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