十一歳の春、甘い香り
私は今、荷物のように小脇に抱えられながら城の廊下をズンズンと移動している。
いくらアルベルト陛下といえども、このぞんざいな扱いに一言文句を言いたいが、今喋ると舌を噛みそうなので止まるまで耐えることにした。
左右に流れる廊下の景色は見覚えがないが、客間のあった離宮に比べ更に豪華な造りになっている。
一定の間隔で並ぶ騎士も、抱えられている私をギョッとした目で見ている。
「ちょ、陛下……………お待ち下さい。いくらなんでもその運び方は可哀想ですよ……………」
声を掛けてきたのは赤い髪を刈り上げたムキムキマッチョ…………装飾が多い騎士服を着ているので地位のある騎士なのだろう。
まぁ、それなりの地位がなければ陛下にもの申すことなんかできないだろうが…………。
「………………仕方ないであろう。これは危険物だ」
「…………へ?危険物?」
歩みを止めない陛下に、仕方なく並んで歩くマッチョ騎士が陛下の言葉に間の抜けた顔をする。
私も心の中で、「はぁ!?危険物って何よ!!」って叫んでいた。
そして、陛下は突然ピタリと足を止めると、私を両手に抱え直し、マッチョ騎士の方に向かせられた。
私は陛下の行動に訳も分からず、思わず目を潤ませると目の前のマッチョ騎士を助けを求める様に見上げた。
「っ……………グハッ!!」
マッチョ騎士と目が合った瞬間、マッチョ騎士が胸を押さえて膝を折る。
「……………ということだ」
「しょ…………承知しました」
陛下は、フンと鼻を鳴らすと言われた事を気にしたのか今度は片腕に抱き上げるような抱え方で再び歩き出した。
しかしこの抱え方だと、私と陛下の顔がかなり近くに位置する。
…………近くで見ても本当に美形だな…………肌もスベスベ艶々だし…………鼻もシュッとしてる…………あ、睫毛も長い〜。
こんな機会なんて無いから、いっそ開き直って間近で美形を堪能する。
あれ?何かお顔が赤くなってきたような………………。
思った瞬間、私を抱きかかえていない方の手で顔を覆われた。
「………………あまりジロジロ見るな」
「えっと……………その…………申し訳ございません」
仕方なく、そのままポスンと陛下の肩に顔を埋める。陛下が一瞬強張ったような気もしたけど、陛下の顔を見ないようにするにはこれしかない。
特に怒られることもなかったので、私はそのまま到着するまで陛下にもたれ掛かることにした。
うーーーん、何だかアルベルト陛下って凄く良い匂いがするなぁ……………………。
やはり、魔帝国の王様ともなれば良い香水とかを付けているんだろうか…………でもこんなに甘い香りなんて『魔王』のイメージが違う気もするけど……………。
甘い香りのおかげで、荷物扱いされ少しささくれだっていた気持ちも落ち着いてきた。
カチャ…………
扉の開かれる音………どうやら着いたようだ。顔を上げ見渡せば、そこは落ち着いた雰囲気の部屋…………だが置かれている家具や調度品は恐ろしく精工で素晴らしい物ばかりだ。
「………………ここは?」
「………………私の私室だ」
「へ………陛下の!?」
焦る私を無視して陛下がソファーに腰を下ろす。
間もおかず侍女たちがテーブルにお茶を用意し始めた。
「あ…………あの……………お茶を飲まれるなら……………下ろしていただけませんか?」
「……………………」
「あの………陛下……………?」
「……………………其方は……………随分と甘い香りがするのだな?」
陛下が私の銀色の髪を一房掬い取ると、香りを嗅ぐように口元に持っていく。
………………………なっ!?
へ………陛下!!男の色気がだだ漏れです!!
私が真っ赤になってアウアウしていたところに陛下の腕から突然フワリと引き抜かれた。
「陛下っ!!いい加減にしてください!!!」
私を陛下の腕から引き抜いてくれたのは、あの茶髪眼鏡のお兄さんだった。
「……………早く妻をと言ってたのはお前達ではないか」
「姫様はまだ十一歳です!!せめて成人までお待ち下さい!!幼女趣味は嫌なのでしょう?」
「くっ…………」
ギリギリと睨み合う陛下と茶髪眼鏡のお兄さん…………っというか、何か聞き流せない台詞があったのだけど??
妻って??
どういうこと??
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