十一歳の春、魔帝国での夜会 後編
「……………名を聞こう」
目の前に座るのは魔帝国ユーリシアの王………ユーリシアは魔法技術に特化しており大陸すべての国を支配下に置いているといっても過言ではない程の力を持っている。
そして魔帝国ユーリシアを治める王族は他国の王族に比べ魔力がかなり高い…………その歴代の王族の中でも桁違いの魔力量から魔王と呼ばれているのが、このアルベルトである。
ユーリシアの王族にしか生まれない黒色の髪は夜の闇のように黒く艷やかで、瞳は透き通った海のように青く深い。背も高く、騎士のように鍛えられ引き締まった身体で、魔法は当たり前だが、剣の腕前も相当なものらしい。
そして完璧に整った容姿…………私も散々、天使だの女神だの言われるけど、この魔王アルベルト陛下こそ全てにおいて人間離れしていると思う。噂を聞いて、大げさだと思っていたけど噂以上だったよ。
「……………エルニア王国第五王女、マリアンナで御座います」
頭を下げたまま名乗ると、貴族達が僅かにザワついた。
エルニア王国のような弱小国第五王女の私が大国の王女を差し置いて、最後に挨拶したんだからきっと不敬に思われたんだろうな。
その後定型文的な挨拶を済ませると、音楽が流れ始め貴族たちも談笑を再開させた。
先程のホールでの謁見の時は面倒臭そうな空気を出しまくっていた陛下が、挨拶をする私を興味深そうに見ていて居心地が悪かったが、きっと物珍しかったんだろう。
そして私は夜会の間、様子を窺うような視線はビシバシ感じるのに貴族たちから遠巻きにされ見事なボッチとなった。
…………別に良いけどね。
とりあえず、せっかくの夜会なのでデザートの並ぶテーブルに向かうと前世と見た目が似たようなスイーツもあれば、味が想像も出きなさそうなスイーツもありワクワクとしてくる。
さすが魔帝国!!貧乏なエルニアでは見たことのないスイーツばかりだわ!!
何故なら砂糖は貴重品であり強国が独占してしまうためエルニアにはなかなか入ってこない。
前世の知識で去年から砂糖に代わるものを国内で作るようになったものの、まだまだ量が少ないため思う存分食べることは出来ない。
うふふ〜さぁて…………どれから食べようかしらん♪
前世からスイーツに目がない私はお皿を持ってウキウキ視線を彷徨わせていると、背後からわざとらしい声が聞こえてきた。
「まったく弱小国の王女ごときがいい気にならないでほしいですわ」
「本当ですわ、エルザ様にきちんと挨拶もなさらないですし、まともな教育を受けていらっしゃらないのね。
それにベールで顔を隠しているなんて、よっぽど酷い顔なのよ」
うーん、どう聞いても私のことだよね…………面倒くさいから無視したいけど、教育不足とか家を馬鹿にされるようなことは言われたくないな。
スイーツに後ろ髪を引かれつつ、泣く泣くお皿をテーブルに置くと、スイーツを前に緩んでしまった表情を引き締め王女らしい笑みを貼り付ける。
自然な動作になるよう、ゆっくりと振り返るとゴージャスな金髪巻毛を高く結い上げた大国の王女と取り巻き令嬢二人がこちらを馬鹿にするように見ていた。会話をしていたのはどうやら取り巻き令嬢の二人のようだ。
うわーー凄くテンプレのようなトリオだな…………と、感心するように見ていると、何も言わない私に苛ついたのか取り巻き令嬢の片割れがずいっと前に出てきた。
「ちょっと貴女、何ぼーっと突っ立っていらっしゃるの? 挨拶も出来ないのかしら?」
「……………まぁまぁ、落ち着きなさい。田舎の小国の王女様に礼儀を求めるほうが可哀想ですわよ?」
大国の王女が取り巻き令嬢を戒めるふりして、思いっきりこちらを馬鹿にしてくる。
本当に面倒臭いな…………。
「……………これは大変失礼致しました。私はエルニア国第五王女マリアンナで御座います。
ご存知の通り田舎者ゆえ、不作法をお許しくださいませ」
フワリと優雅にお辞儀をする。
「……………ふん、わたくしはバーレーン王国第一王女エルザですわ。
貴女がどのような姑息な小細工を使ったか存じませんが、わたくしは認めませんから」
「…………………?」
小細工?認めない?
この王女様はいったい何を言っているのだろう?
私は理解出来ず、頬に手を当てこてりと首を傾げる。
わざとでは無いが、それはとても愛らしい仕草だったようでエルザ王女は顔を歪めた。
「この……………馬鹿にして…………っ」
なんと、手に持つグラスを投げて来た。
……………!?ちょっと、待って!!このドレス借り物だから!!
とっさに防御壁を張ろうとしたとき、私とエルザ王女達の周りに風が巻き起こり、投げられたグラスが風に押し返され中身の葡萄果実水がエルザ王女に降り掛かった。
「キャーっ!!」
「…………っ!!エルザ様!!」
「貴女!!なんて事を!!」
「え…………私は何も……………」
大騒ぎするエルザ王女達と狼狽える私に周りの貴族たちも注目する。
「………そこまでだ」
静かなのに響く声………言葉自体に力が宿っているかのように、その場にいる全員が動きを止める。
声の主は確認するまでもなく明白で、頭を下げた貴族達が左右に割れ、道となったところをアルベルト陛下が歩いてくる。
「ア………アルベルト陛下、この者がバーレーン王国の王女であるわたくしに無礼を…………」
この状況でアルベルト陛下に発言出来るなんて、さすが大国の王女様だ…………ただ、空気読めなさ過ぎだよ…………。
アルベルト陛下は目を細め、エルザ王女を見下ろすと後ろに控える茶髪眼鏡のお兄さんに視線を送る。
茶髪眼鏡のお兄さんは陛下に目礼をするとアルベルト陛下から離れエルザ王女に向かった。
エルザ王女が気になるけど、アルベルト陛下が私の目の前に立ち塞がりエルザ王女達が見えない。
風でベールも外れちゃったし………侍女長さんにまた付けてもらった方が良いかな…………。
あ、えっと…………とりあえず、御礼……………かな?
「あ…………あの、ありがとう…………存じます?」
「……………………」
「……………………………ふぇぁ?」
突然の浮遊感に思わず気の抜けた声が出る。私はアルベルト陛下に小脇に抱えられると貴族達が呆気に取られる中、夜会会場から陛下に拉致されてしまった。
ちょ…………私は荷物じゃありませんんんんん〜!!
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