十一歳の春、魔帝国での夜会 前編
私は姿見の前で立たされ、興奮気味の魔帝国の城の侍女に囲まれている。
部屋に案内されたあと、一気にドレスを剥かれると風呂に放り込まれた。
そして抵抗する間もなく地味に見えるように施した化粧も、輝く銀色の髪を艶のない灰色に染めた薬剤も、全て綺麗サッパリと洗い流されてしまったのだ。
洗い流した後の侍女達の驚きは凄まじかった。
「まさに…………天使……………」
「と…………尊いですわ…………」
銀色の髪から水が滴り、柔らかな白い布に包まれた姿はまるで天から舞い降りた天使そのもの……………十二歳になるという年よりも少し幼く見えるが、数多くの美しい令嬢を見てきた百戦錬磨の侍女達も高揚と感動で打ち震えている。
その後ろでは、私の専属侍女が涙を流しうんうんと頷いている。
そして、最高級であろう香油で更に肌と髪が艷やかに磨かれていく………………もう為されるがままだ。
メイクは大きな目を際立たせつつもあくまでナチュラルで素材を存分に活かし、髪はサイドを複雑に編み込まれたところに白い花の形の宝石と雫のような真珠の飾りを散りばめ、後ろ髪はサラリと下ろす。動くたびにサラサラと髪がきらめく。
ドレスは持参した地味なドレスは侍女頭から当たり前のように却下され、代わりに淡い水色と青色のグラデーションが美しいドレスを針子達の専門魔術により驚異的な速さでサイズを直し着させられた。
さすが魔帝国は針子のレベルも高い。
着付けが完了し、思わずくるりと回れば少女らしくボリュームのあるスカートが波のように美しく広がる。
「なんて美しい…………」
「と……………尊いですわ………」
魔力暴走してしまうのではないか?と思うほどプルプルと打ち震えている侍女達に微笑みながら御礼を述べると、二人ほど撃沈した。
ちなみに、ここの侍女達よりも慣れているはずの私の専属侍女はとっくに撃沈し、隣の侍女室へ運ばれている。
そう考えると、半分以上耐えたここの侍女達の胆力は凄いかもしれない。
「しかし侍女頭、このままマリアンナ様が夜会に出席されると大変なことになりませんか?」
「確かにそうですね
はぁ……………不本意ですがベールで目元を少し隠しましょう」
ということで、細かな刺繍がされた髪飾りのような小さなベールで目元を隠された。
自分の国では十歳の誕生日に前世での記憶が戻ってから、日々上昇する魔力を制御する訓練に加え、より人間離れしていく美貌をなるべく地味顔になるよう化粧の腕を上げたから忘れていたけど、やはりこの外見は相当な破壊力があるらしい…………。
なら気合い入れて着飾ってくれなくても良かったのだけど、それは侍女のプライドが許さなかったのだろう。
うちの侍女達も私の地味メイクにいつも文句言ってたしね…………。
そうこうしているうちに、夜会の始まる時刻になり侍女頭に会場まで案内される。
小柄な私は大人に比べ歩くのが少し遅い………更に着慣れないドレスと靴でいつもに加え歩くのが遅い。
しかし、仮にも一国の王女として父である国王の顔に泥を塗るわけにはいかない…………頭の先から指先、足先と神経を巡らせ背筋を伸ばし優雅に歩く。
うん、歩くのが遅いんじゃなくて、優雅に歩いているんだよ?と、ゴリ押しだ。
ふむふむ、せっかくならこの素晴らしいドレスをもっときれいに見せる歩き方でも…………とあれこれ考えているといつの間にか大扉の前に到着した。
扉の向こうでは人々の談笑する声や、ゆったりとした音楽も微かに聞こえる。
「既に他の令嬢方は入場し陛下への挨拶も済んでおります。
マリアンナ様が最後となりますので、会場に入られましたら真っ直ぐ進んで陛下へご挨拶ください。
その後はあちらにも侍女が控えておりますので指示に従ってくださいませ」
何ですと!?…………もしや私が歩くのが遅くて入場の順番が最後になってしまったのだろうか……………通常の夜会というものは身分の低いものから入場していく。弱小国の第五王女の私が大国の王女達を差し置いて最後の入場なんてまずあり得ないよね?
自分のやらかしに青ざめながらも、これ以上の失態を増やさないよう、侍女頭からの説明を頭の中でしっかりシミュレーションをし、真剣に頷いた。
私のやらかしに怒るわけでもなく、満足そうな侍女頭に改めて支度の準備の御礼を言うと、プルプルとしながらも淑女らしい素晴らしいお辞儀を返してくれた。
よし!!私は心の中で気合を入れると、開かれた大扉から会場に足を踏み入れた。
私は王女らしく口元に優しく微笑みを浮かべる……………会場内の眩しさに一瞬目を細めたが、ベールの下で視線を巡らせば会場内にいる貴族達がこちらに注目し静まり返っている…………いつの間にか音楽も止まっている……………。
会場の様子に若干戸惑いながらも、それを表には出さず、侍女頭に言われたように玉座に座る陛下の元へ真っ直ぐに進む。
貴族達の息を呑む声………ため息………、そして相変わらず気怠そうに座っていた陛下が驚いたようにこちらを見ている。
まぁ、さっきまでの地味な令嬢がこんなきらびやかになって登場したら驚くよね。
私は指示された場所まで歩くと、スカートをフワリと指先で摘み、優雅にお辞儀をした。
「…………………名を聞こう」
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