どうしてそこに?
ホラー企画に向けて書こうと思っていたら、ホラーでは無いような気もするので、ホラーという体の謎小説となっております。
とある駅構内には、自殺者が後を絶たない事を嘆いた職員が、数年前に近くの住職さんに頼んで建てた社がある。
大きさはおよそ二メートル程なので、大概の人は見下ろされる大きさ。
賽銭箱も置いてあり、かなりしっかりとした作りな上、隣にはおみくじも売っていたりする。
但し、駅構内にあるため、参拝するには駅に入る必要があり、タダで入場券を発行してくれない駅の為、切符を買う必要がある。
参拝用の切符があり、持ったまま出られず、持ったまま電車に乗る事はできない。
電車に乗るのなら、回数券でも電子マネーやカードでも構わない。
今日は参拝者がいるようで、社には手を合わせる中年男性が1人。
「神様。どうか金遣いの荒い嫁の……幸枝の荒さをどうか治して貰えないでしょうか」
と、口に出して社に手を合わせている。
二礼二拍手一礼の作法を行う必要が無いと書かれた看板があるため、完全に神頼みしまくるオヤジの構図だ。
周りの人は、よくある光景なのか見向きもしないが、たまたま駅に居た子供だけは見ている。
というより、中年男性の目の前で社を遮るように立っていた。
「おじさん。何やってるの?」
「ん?神様にお願い事をしているんだよ。大人になると色々あるからね」
「へー。何のお願い事?子供には言えない事?」
「そうだね。でも別に行って困ることでも無いから、教えてあげるよ」
そう言って中年男性は、子供に願い事を教えるのであった。
「へー。そのお願い叶うと良いね。あ、おじさん。参拝用の切符、ちゃんと入れていかないとね」
唯一の作法。参拝のためだけの参拝用切符は、賽銭箱に入れて帰るのが決まりとなっている。
「そうだった。そうだった。叶いますようにっと」
次の日。
この日も参拝者がいるが、どうやら昨日の中年男性のようだ。
「神様。嫁の金遣いの荒さは直していただけたようですが、今度は金を使わなさすぎて困っています」
「あ、また来たの?おじさん」
「……君はいつもこの社の前にいるのかい?」
「僕だってそんな暇じゃ無いよ。参拝者が来る時だけさ」
また子供が中年男性の前に立ち塞がる。
「妻の幸枝の金遣いの荒さは治ったんだが、買っていたブランド物は全部売るし、安物の服着るし、食事は質素だし……普通じゃあ無いんだよ」
子供の目線に合わせるために、中年男性はしゃがんでそう言った。
「え?おじさんがそうして欲しいって願ったんでしょ?ちゃんと切符も入れて帰ったでしょ?願い事と違ってたの?」
子供は段々、下を向いて行く。周りには、小さい子供を泣かしている変質者にしか見えない。
「や、やめてくれよ。変な雰囲気出さないでくれないかな。ちゃんと願い事は叶ったから!ただ、やり過ぎで限度があるだろって思っただけでさ」
中年男性は、明らかに動揺しているし、心音も激しく、今にも倒れそうだが何とか立ち上がり、服を正した。
と、その時、心拍を整えていなかったせいか、立ちくらみが起きて、そのまま後ろにつまづきつまづき下がって行った。
駅のホームには、
『まもなく………乗り場に電車が参ります。黄色い線の内側にお下がりください』と放送が流れていたとかなんとか。
「あははハハハハ。契約違反をするから死ぬんだよな。さて、後何万人死にに来るんだろうなぁ?馬鹿なやつはまだまだいるからな」