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第4章  「少女将校達の優雅な朝食」

 元化25年における人類防衛機構とは違って、大日本帝国陸軍では士官と兵が食事をする場所は分けられているの。

 兵卒の子達は所謂「兵食」という形で兵舎の食堂で食事を取るんだけど、士官の場合は別棟の集会所で食べるんだ。

 将校さん達は基本的に営外に住んでいるから、朝食や夕食は自宅や下宿で食べてくるの。

 だから集会所で食事をするのは、基本的にはお昼ご飯の時だけ。

 だけど年若い婦女で構成される女子特務戦隊においては、将校でも当人が希望すれば、駐屯地の敷地内にある士官用兵舎に入居出来るんだ。

 美衣子ちゃんと誉理(えり)ちゃん、そして私の御先祖様である園里香少尉の3人は、士官学校時代に随分と意気投合したみたいで、仲良く士官用兵舎の入居を希望したんだって。


 そういう訳で、女子特務戦隊の将校集会所に設けられた食堂では、兵舎住まいの士官用に朝食が用意されているんだ。

 手間と無駄を省く為、メニューは兵の子達と同じ物になっているの。

 今朝の献立は、白御飯に茄子の早漬けと味噌汁がついて、副菜には切り干し大根の辛子和え、主菜には鮭缶の煮込みが据えられていたんだ。

 私が特に注目したのは、鮭缶の煮込みだね。

 鮭缶が主菜に使われているのは、備蓄缶詰のローリングストックかな。

「うん…良いね!」

 口に入れた瞬間、思わず私は頬を綻ばせちゃったんだよ。

 鮭缶の味が具材の野菜に染み込んでいるし、ホロホロと崩れる鮭の柔らかさとネギの歯応えが、良いアクセントになっている。

 それに何より、兵卒の子達のために大鍋で大量に作っているから、じっくり温められた鮭と野菜の出汁が風味を増しているんだよね。

「里香ちゃんったら、本当に美味しそうに食べるよね。特にここ最近は…」

 同席した美衣子ちゃんに呆れられちゃったけど、軍の煮込み料理は特に美味しいから仕方ないよね。

 横須賀の海軍カレーや舞鶴の肉じゃがは、町興しにも使われているし。

 私個人の感想としては、陸自との合同演習の時に食べさせて貰った、炊事自動車製のおでんの味は忘れられないよ。

「まあまあ、美衣子…良いじゃないかよ。朝から食欲旺盛なのは元気な証拠だ!そんな元気な里香に、私から差し入れしようじゃないか…いよっと!」

 私の肩を持ってくれるのかと思いきや、誉理(えり)ちゃんったら急にガバッと立ち上がったね。

 どうしたんだろう?

「あっ…!」

「その茄子は、私の気持ちだよ!ジャンジャン食べてくれて構わないから。」

 キュッと眉を潜める美衣子ちゃんと、対照的に涼しい顔の誉理(えり)ちゃん。

 2人に釣られて御膳を見てみると、茄子の早漬けが倍に増えていたんだよね。

「ちょっと…誉理(えり)ちゃん!自分が茄子を嫌いだからって、それは…」

 桜色イギリス結びちゃんの咎める声から察するに、茄子は誉理ちゃんの苦手な食べ物みたいだね。

 それで、差し入れに託つけて私に押し付けたって寸法か…

「いや…嫌いって訳じゃないんだけど、茄子や胡瓜って、お盆に御先祖様が乗って帰って来るだろ?なんか、申し訳なくてさ…」

 さっきまでの快活さは何処へやら、誉理(えり)ちゃんったら急に目を泳がせたね。

 切り干し大根の中に突っ込んだお箸の先で、平仮名の「の」の字を書いちゃってるし。

 それにしても、「精霊馬を連想するから。」って、なかなかに面白い好き嫌いの理由じゃない。

「ウンウン…こっちの漬物も、味がよく染みてるじゃない。やっぱり、大きな樽で一気に沢山漬けているからかな?」

 倍増された茄子の早漬に嬉々として取り掛かる私だけど、別に誉理(えり)ちゃんの好き嫌いを甘やかすつもりじゃないからね。

 鮭缶の煮込み一色に染まった口の中をリセットするには、漬け物の爽やかな味わいが最適なんだよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 可愛い好き嫌いじゃないの( ´∀` ) いやだからってもしもって時に食べれなくちゃ駄目だから克服してほしいけど( ´∀` )
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