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第1章 「陸軍女子軍服を着た特命遊撃士」

 第9話「時を越えた出逢い、時空漂流者救出作戦」の第1章「過去からの刺客、シリコンビースト!」において、珪素獣のタイムスリップに巻き込まれた枚方京花少佐サイドのエピソードです。

 作中の設定年代である修文4年は1970年代初頭を想定していますが、情景としては1960年代後半(昭和40年代前半)の日本をイメージしています。

 作中世界では大東亜戦争が勃発せず、敗戦を経験しなかったため、1970年代時点でも日本軍が存在してします(後に自衛隊へ改称)。

 何時の時代も、快晴の朝というのは清々しい。

 ましてそれが、休暇の日なら尚更だ。

「ふうっ…よく寝たなあ!」

 私はレトロモダンな洋室に置かれたシンプルなベッドで上体を起こすと、洗顔と歯磨きをテキパキと済ませ、そのままの流れで着替えに取り掛かったんだ。

「さてと…」

 引き剥がした寝間着を丁寧に折り畳み、下着姿になった私。

 シンプルな白いブラとパンティは強化繊維という特殊な素材ではなく、至って普通の木綿製だ。

 ナノマシンのような代物など、間違っても配合されていない。

 私としては何とも心許ない気分だけれど、この時代だったら割り切らなくてはならないだろうな。

「仕方無いよね。今は修文4年なんだから…」

 そうして独り()ちながら、私は黒いタイツを履き終え、クローゼットから目当ての品を取り出した。

 ハンガーに架けられたオリーブドラブ色の詰襟とミニスカートは、大正五十年式女子用軍衣と呼称される代物だ。

「最初はコスプレ感覚だったのに、今じゃすっかり馴染んじゃったよ…」

 私は軽い苦笑を浮かべながら姿見に向き合い、手にした軍服を手早く身に付け、腰まで伸ばした癖の無い青髪を、白いリボンを使って手早く左サイドテールに結い上げるのだった。

「何処からどう見ても、珪素戦争時代の軍人さん…そりゃそっか。だって今の私は大日本帝国陸軍第四師団隷下女子特務戦隊所属、園里香(そのりか)少尉なんだもの。」

 こんな冗談めかした独り言でも言わなかったなら、正直言ってやっていられなかったよ。

 何せ私は、この時代の人間では無いのだからね。


 私の本名は枚方京花(ひらかたきょうか)と言って、堺県立御子柴高校1年B組に通う女子高生にして、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局に所属する少佐階級の特命遊撃士なの。

 要するに、日本の何処にでもいる極々普通の防人乙女の1人なんだ。

 普段は高校に通って授業を受け、支局に登庁して軍事訓練を受講し、時には平和を脅かす悪の秘密結社や特定外来生物と戦って。

 ほんの少し前までは、そういう防人乙女としての至って平凡な日常を過ごしていたんだ。

 あの日だって、「巨大敵性生命体に半導体工場が襲撃された。」との入電を受けて、スクランブル出動をしたまでは、いつも同じだったの。

 ところが、到着した臨海工業地帯で私達を待ち受けていたのは、70年近く前の珪素戦争で地球上から根絶されたはずの珪素獣(シリコン・ビースト)だったんだ。

 今になって何故、再び珪素獣(シリコン・ビースト)が現れたのか。

 当然のように浮かんできた疑問は一先ず棚に上げ、私達は珪素獣(シリコン・ビースト)の駆除作戦に取り掛かったんだ。

 マリナちゃんの大型拳銃で連射されたダムダム弾が、敵の節足の1本を断裂させ、レーザーライフルを構えた千里ちゃんとレーザーランスを携えた英里奈ちゃんが、合体技で追い撃ちをかけて。

 特命機動隊の子達だって、アドオングレネードを装備したアサルトライフルで、心強い援護射撃を遂行してくれたよ。

 そうした普段通りの連携攻撃が功を奏して、私達は時代遅れの珪素獣(シリコン・ビースト)に大打撃を与える事が出来たんだ。


 事態が妙な方向に動いたのは、止めとばかりに私がレーザーブレードを振り被った時だったの。

 昆虫を彷彿とさせる珪素獣(シリコン・ビースト)の複眼がチカチカッと瞬いたと思ったら、手榴弾を一気に炸裂させたみたいな強烈な衝撃波が発生して。

 上も下も判別し難い、奇妙な空間に飲み込まれたのも束の間。

 空中に放り出されるみたいに正常な世界に戻って来れたんだけど、そこは先程まで私がいた臨海工業地帯の半導体工場ではなかったんだ。

 そこが堺県堺市堺区である事は、建物や電信柱に貼り付けられている地番表示からも一目瞭然だった。

 だけど、その街並みは私が昨日まで見慣れた物とは随分と異なっていたの。

 軒を連ねる商店や民家は大正末期に流行したモダン建築だし、木製の電信柱に付けられている街灯は、LED灯ではなく白熱灯だ。

 車道を行き交う自動車も古めかしく角張っているし、下手をすればオート3輪まで走っているんだから。

 南海バスの停留場にボンネットバスがやって来たのを見た時には、膝から力が抜けてしまったね。


-兎にも角にも、まずは支局のオペレータールームに連絡しよう。

 そう考えて軍用スマホを取り出したまでは良かったんだけど、24時間受電しているはずのオペレータールームは、何故か電話が通じない。

 藁にも縋る思いで友人達のスマホにメールやSNSを発信しても、返事は一向に梨の(つぶて)

 何より南海高野線堺東駅の方に目を向けても、県庁舎と第2支局の双子ビルを見つけられないんだから。

 普段なら、嫌でも視界に入るはずのに。

『貴女、大丈夫?軍人さんじゃないみたいだけど、学校はどうしたの?』

 心配して声を掛けてくれた通行人のお姉さんに日付を聞いてみると、修文4年の9月15日だって。

 珪素戦争真っ只中じゃないの。

 要するに私は、本来いた元化25年から70年以上昔の時代にタイムスリップしちゃったって事。

 そう考えると、通行人のお姉さんの反応にも頷けるよね。

 人類防衛機構は当然として、その前身である人類解放戦線さえも、まだ出来てないんだから。

 あのお姉さんの目には、私が着ている遊撃服も、奇抜な学生服としか映っていなかったんだろうね。

『そっか…それじゃ見える訳がないよね。県庁舎も、支局も…』

 この時代だと、県庁舎は大正32年に改築された2代目の建物で、第2支局がある所には移転前の区役所があるんだもの。

 あの平べったい旧県庁舎が、ここから見える訳が無いよね。

 こうしてすっかり焦っていた私を保護してくれたのは、日本軍の格好をした女の子達だったんだ。

 時代背景から考えると、大日本帝国陸軍第4師団隷下女子特務戦隊だね。

 養成コースの時に受講した、重大事件史の資料集で見た通りの軍装だったよ。

 そうそう…

 私の曾祖母の園里香って人が、珪素戦争の時に少女将校として従軍していたって聞いた事があるんだけど、どうやら当時の曾御祖母(ひいおばあ)ちゃんは、今の私に生き写しだったみたいなの。

 だって女子特務戦隊の子達ったら、私の事を「園里香少尉」って呼んでくるんだもの。

 だけど一番驚いちゃったのは、私を保護してくれた部隊を率いていた将校さんが、特命機動隊の天王寺ハルカ上級曹長に瓜二つだったって事だね。

 そう言えば前の飲み会で、天王寺ハルカ上級曹長の御先祖様も珪素戦争に従軍したって、御本人から聞いた事があるよ。

 天王寺ルナ大佐って将校さんなんだけど、子孫そっくりな栗色の長髪を子孫と同じようにポニーテールに結っているんだもの。

 だから初めてお会いした時は、「天王寺ハルカ上級曹長までタイムスリップしていたの?」って、それはビックリしちゃったね。


 そういう訳で私は、曾御祖母(ひいおばあ)ちゃんである園里香少尉として、大日本帝国陸軍第4師団隷下女子特務戦隊信太山駐屯地に保護されたって訳なの。

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― 新着の感想 ―
[一言] パンティ……なるほど。 まだ1990年代前半ですらないからこその敢えての呼称ですね(ぇ >子孫そっくりな栗色の長髪を子孫と同じようにポニーテールに結っているんだもの いや逆やがな(;'∀'…
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