第二話 終焉は唐突に
え〜、今回は前半をコメディ風味に後半をシリアス風味に仕上げたつもりです。相変わらず、文字数少なくて申し訳ない(苦笑)それと、誤字、脱字、またはこうした方が良いのでは?というありがたいアドバイス等があったら、報告お願いします。
「……はぁ…」
夕焼けに染まる坂を登る中、肩をすぎるとこまで伸ばしたうっすらと金の入った髪を後ろで結び、蒼い瞳を伏せている少年──アシュト=アルベインの姿があった。
「どうして、上手くいかないんだろ…」
今日の学校での授業の内容を思い出し、苦笑を浮かべる。
平民からすれば、まずまずの出来栄えであったのだが、世界の貴族の中でも五本指に入る程の魔力を持った者達ばかりの『アルベイン家』では落ちこぼれ、と呼ばれても仕方がない出来栄えであった。
(…いっそのこと、普通の家系だったら良かったのに……)
平民並の実力を持った彼にとっては毎日のように望んだ儚い願い。
だからといって今の両親が嫌いというわけではない。寧ろ、貴族として落ちこぼれな自分に対して期待を込め、厳しく教育してくれる両親には感謝してる。
腹が立つのは、そんな両親の期待に応えることの出来ない自分に対してだ。
魔力の高い妹や弟も出来て、普通の貴族ならばとっくの昔に見捨てたことだろう。
実際、アシュト自身もそう思っていた。
しかし、それは誤った考えであった。
妹と弟が出来てからの教育はさらに厳しくなり、両親の期待も窺えた。
「…ふぅ、ちゃんとしなくちゃなぁ」
色々と今までのことを考えていたアシュトだったが、やはり両親や情けない自分に対して優しく接してくれる妹、弟の気持ちを思い出し、頬を張って自分を叱咤した。
「ただいま!」
そう言って、アシュトは見慣れた豪勢な家の中へ足を踏み入れる。
すると、中からは黒髪黒瞳の少し背の高い麗人とも呼べる青年が現れた。
「アシュト様、お帰りなさいませ」
「うんっ!早速で悪いんだけどさ、修行の準備してくんないかな?エイゼル」
エイゼル、と呼ばれた青年は
「畏まりました」と微笑み、アシュトが身につけていた布製の鞄を受け取って奥の部屋へと姿を消した。
「今日は成功させなきゃね!」
そう意気込み、頭の中で反芻させているアシュトに二つの影が忍び寄った。
『お兄様ッ!!』
片やアシュトの胸の側に、もう一方はアシュトの腰に渾身の力を込めた抱擁を浴びせた。
勿論、喰らった本人は咄嗟のことに反応することが出来ずに
「へぎゃッ!!」っという音を発てて絨毯と熱烈な抱擁をしてしまった。
「……痛たたっ」
そう言いながら、立ち上がると自分と同じような髪の色をした少女と少年が抱きついていた。
「もうっ!レイもアレンも痛いよ!」
レイ、アレンと呼ばれた彼らは渋々といったように離れる。
レイとアレンはアシュトの妹と弟であり、双子なためなのか、行動が類似している。
レイは兄であるアシュトと同じ金髪を二つに結ぶ──所謂、ツインテールという髪型になっている。
アレンはアシュト程髪は伸びておらず、適度に伸びた金髪をふわふわと跳ねさせた髪型となっており、二人共にやんちゃな輝きを秘めさせたエメラルドグリーンの瞳をバツの悪そうにアシュトから逸らしている。
「だって、お兄様最近遊んでくれないんですもの…」
「僕達、寂しかったんですから…」
瞳を潤ませて、俯く二人。
こうなると、流石にそれ以上は凄むことの出来ないアシュト。
「うっ…!はぁ、悪かったよ、ゴメンね?」
そう言うと、俯いていた顔を上げてアシュトに抱きつく二人。
アシュトは脱力したように二人の頭を撫でていた。
「アシュト様、準備が整いました…っと、レイ様とアレン様も御一緒でしたか…」
恐らく修行の準備が出来たのであろう、エイゼルがアシュトの前に現れた。
レイとアレンは気持ち良さそうにアシュトの膝の上に頭を乗せて寝ている──所謂、膝枕の状態だ。
「ゴメンね?修行は夜にしてくれないかな?」
バツの悪そうに頭を下げるアシュトに対してエイゼルは優しく微笑む。
「ハハッ、構いませんよ。その分、キツくなると思いますが…」
「ハハハ、死なない程度に頼むよ」
そう言うと、
「では、私はこれで失礼致します」と言ってエイゼルは姿を消した。
「さて、と…」
起きないように二人の頭を優しく持ち上げてクッションの上に置く。
ふと、外に目を向けると家に入った時は夕暮れだった空もすっかり暗くなっていた。
「今から、修行はキツいなぁ…」
等とぼやきながらもしっかりと立ち上がり、昨日エイゼルに散々と言われてしまった闘技場へと向かう。
(修行の時のエイゼルは厳しいから、怖いんだよなぁ…)
そう、普段のエイゼルならば多少のことは見逃してくれるが、修行時のエイゼルは厳しく接してくる。
…というのも、情けない自分に渇を入れて強くなってもらいたい一心なのだが、それを受けている本人にとってはかなりショックを受けてしまうのでキツい。
気が付くと、闘技場へ向かっていたつもりの足取りが別のあまり近寄らない場所へと踏み入れていた。
一応敷地内ではあるが、暗いと不気味なので早々に立ち去ろうとするアシュトの前に複数の影が立ち塞がった。
月明かりのみなので、顔までを見ることが出来ずに少し戸惑うアシュト。
判断出来るのは、人数が四人程ということと皆、男であるということだろうか。
「……誰?」
単純な疑問をぶつけただけであったが、それが合図になったかのように男達が動いた。
一番近くにいた男はあっという間にアシュトとの距離を潰し、鳩尾に一発拳を捩じ込んだ。
「…がっ!」
正確に鳩尾に打ち込まれた為に、ろくに声を挙げることも出来ずに倒れ込もうとするのをもう一人のガタイの良い男が担ぎ上げる。
アシュトを担ぎ上げた男の近くにいた細身の男は面白く無さそうに息を吐く。
「フンッ、この程度にも反応出来ないのか…」
担がれているアシュトに対して冷たい視線を送り、それから周りを警戒するように見渡す。
「気づかれない内に逃げるぞ!」
『御意』
そう言うと、男達は一斉にその場から消える。
「……んっ…?」
アシュトが目覚めたのは、海が見える展望台。
「どうだ?いい眺めだろ?」
見知らぬ声に驚き、声のした方を見ようとするが、上手く動くことが出来ずに自分自身の体の違和感に気づく。
「ハッ!とんだ間抜け面だな」
なんとか、声のする方に体を向けるとそこには自分を冷たくせせ笑う二つの紅瞳があった。
「君…は……?」
「俺のこともわかんねぇのかよ、アシュト=アルベイン」
疑問をぶつけると憤りを籠めた口調で返された。
(紅瞳にあの藍色の髪…。おまけにツンツンと立った髪型、もしかして───)
「──っ、『ガイル家』のイザルク=ガイル…君?」
そうアシュトが聞けば、目の前の男は笑い出した。
「こんな状況なのに君付けかよ!…本当に間抜けだな」
一通り笑い終えたのだろう、再び冷たい視線をアシュトに向けた。
「そうだよ。死ぬ前なんだからなっ、不憫だから教えといてやるよ」
──"死ぬ"
彼の口から聴こえたはっきりとした言葉にアシュトは背筋が冷たくなった。
「わかってると思うが、俺はお前の存在がムカつく。…どうしてか、わかるかな?」
苛立ちと不快感を全快にした口調と顔色にアシュトは理解した。
『ガイル家』というのは、『アルベイン家』より少し下の貴族だ。
五大貴族としても名高い。
ようは──
「俺が落ちこぼれ、だから…?」
本人の口から聴けたのが嬉しいのか、イザルクは満面の笑みを浮かべる。
「ピンポーン!大正解ッ!!……じゃあ、これから何が起こるか位、わかんだろ?」
先程言われた"死"の宣告。
そして、イザルクの周りにいる屈強そうな男達。
…嫌でも先がわかってしまった。
「ハハハ、安心しろよ。死にそうになったら、そこの海に棄ててやるからさ!」
(…短かったな、俺の人生)
諦めの色を露にするアシュトを眺めてから、イザルクは鳩尾に一発叩き込む。
抵抗出来ないアシュトは込み上げてくる物を吐き出し、咳き込もうとするが、有無を言わさずに第二、第三の拳が叩き込まれる。
そこからは殴る、蹴るの暴力という名の力による支配だった。
もう何回殴られたか、蹴られたかわからなくなってきた頃に永遠に続くかと思われた支配は突然に止んだ。
アシュトの自慢の髪は薄汚れ、蒼い瞳には生気が感じられない。
それでも彼の意識はトブことはなかった。
──いっそのことトんでしまえばどれほど楽だっただろうか。
「そろそろ死に時だよな、なのに、意識があるなんてとんだ変態野郎だなっ」
殴る、蹴るの行動により、スッキリとしたのだろう、満足そうに微笑むとアシュトの襟元を掴み、海の近くまで引き摺った。
「んじゃさ、お前んとこの執事にそろそろ感ずかれるかもしんねぇからお別れだわ」
そう言うと、後ろにいる男達に視線を投げ掛ける。
…男達は無言でアシュトを持ち上げ、渾身の力で広大な海へと投げ入れた。
「まっ、彼処までいきゃ魔物に食われて死ぬだろ、御愁傷様!」
魔物──文字通り魔力を持った生物のことを言う。
長い月日を経て魔力を溜めた動植物は変化をし、魔物へと姿形を変える。
悪い魔物だけになるわけではないが、動植物の殆どは人間を恨んでいるわけで、魔物になった動植物は人間を襲う。
勿論、海とて例外ではなく魔物が存在している。
只でさえ、動けないという状況の中、そんな危険な海へアシュトは白い水飛沫を上げて消えていった。
どうでしたでしょうか?相変わらず意味がわからなかったことでしょう、俺もです(笑)さてさて、これからまだまだキャラクターが増える予定なんでメインっぽいキャラだけ覚えて頂けると助かります(笑)