運命の番か 真実の愛か
ねぇ知ってます?
今、巷で噂になっている真実の愛とやらを。
例えば貴族の方々は政略結婚等で愛も無いのに苦しむご子息ご令嬢が、真実の愛に目覚めてその者と一生を捧げるっていうお話を。
え?真実の愛なんて形だけの嘘ですって?
まぁ・・・なんて現実主義者ですこと。我々にとっては夢物語でもありますが、両者にとって好ましい結婚では御座いませんか。
真実の愛の噂と共にもう一つの噂が御座います。
それは運命の番ですわっ!
我々この世界に人族以外に魔族・獣人族・精霊族・天族等色々な種族がいらっしゃいますが、その中でも獣人族と龍人族の間では運命の番というものがあります。
彼らは番を見つけると生涯その者しか愛さず死ぬ永遠まで共にするという話です。
まぁ・・・これも否定されるのですか?
ええ確かに既に即婚者の方がいる場合、その者を排除しようと躍起になったり独占欲や束縛は強いですがそういうのも良いって言う方も多々ですわ。
では。
もしも、貴女様が運命の番と真実の愛に板挟みされましたらどうなるのでしょうね。滑稽と取るか、それともどちらかを取られるのかは・・・私には分かりかねますわ。
私、リリィは大変に困っていた。
先ずは自身の出生について話そう。私はエルダナ王国の平民で父と母は共に下町でパン屋を営んでいた。そのパンはふっくらモッチリとして評判で平民から貴族まで沢山の支持があった。
家族の中でも長男のエドガーは正規の騎士になるべく只今、騎士見習いとなって詰所で訓練しながら寮に泊まっている。
兄は父に似たのか少し男前な顔に茶色の髪に茶色の瞳をしていた。しかも兄には好きな人が居るらしいのだが未だに見たことが無い。
前に兄に紹介してと強請れば、『お前が知っている子だ』言い残したまま。
次に長女の私、リリィ学校に通いながら両親のお店を手伝ったりする自分で言うのもあれだがとっても良い子です。
父も母も兄も髪は茶色なのに私だけ容姿が全く似ていなかった。薄紫色の長いふわふわ髪に瞳は蜂蜜色をした外見では美少女の部類に入る。
小さい頃はあまりにも家族と似ておらず、周りの子供たちにイジメられていたがそれを全て兄であるエドガーが黙らせた経緯があり。両親が言うには母親の曽祖母にあたる人物が同じ色合いだったと前に絵姿を見してもらった。
曽祖母は凛とした表情を見せながら何処か美しさと気品あるのを漂わせていた。
ある日、私は両親の手伝いでお店で当番をしていると見慣れないフード付きの服装をしたひとが中へ入ってくる。付き添いなのか、一人がその人物に話しかけており何やら深刻そうな話。
ある人物は少しフラつきながら何処か苦しそうにして顔をあげる。フードからは調子が悪そうと言うより、どこか熱を持った瞳が私を射抜く。
そして・・・・・
「やっと見つけた。俺の・・・番」
ハ?何言ってんの、このお客さんは。
表情は表に出さず営業スマイルでそんなパンはございませんと付け加え。
「つなパンならございますが・・・」
「いえ、つなパンでは無く」
「俺の番」
フード越しから見える瞳はギラギラ欲望のさまが見られ、リリィの背筋がゾッと震える。
連れの人が一先ず帰りましょうと店の外へ押し返そうとするが、もうご来客しなくてよろしい。
未だにフラフラ状態のフード付きの人と連れの方はパンも買わずに出て行く。二度と来ない様に塩を撒いとこう。
そう準備をしていると逆に兄のエドガーが戻って私の行動に不思議そうにしていたので。
「あのね兄さん、変な人が来て私の事を『番』って言うの。そんなパン無いのに」
ぷくりと頬を膨らませ、あのフード付きの人を思い出しながら。その話をしたら兄の表情が一変、まるでブリザードが荒れ狂う様な雰囲気に。
「へぇ・・・そうなんだ」
自己完結で納得したらしく、そのまま兄は厨房の方へと消えてゆく。
それから夕食時になり、食事を用意してくれた母親と父親にも先程の出来事を伝えると少し驚いた様子をしながら。
「リリィ、それはその不審者さんにとって運命の恋人なのよ」
「運命の恋人?でも私、その人の事全く知らないし今日初めて会ったばかりで意味わかんないの」
「まぁリリィにはまだ恋愛などは早い様な気がするが・・・」
「そうだよ父さん母さん。それに、リリィはずっと俺と居るんだもんな?」
にこりとエドガーがリリィに微笑みかけて。
しかし兄のエドガーはもう結婚適齢期に突入しているのだから前に話していた好きな子を呼んで婚約発表してしまえばいいのに。
次の日。またフード付きの不審者が店の前で立っていた。もぅいい加減にして欲しい。
「昨日は・・・すまん」
吃驚した。
いきなり謝るものだからリリィはぽかんとしていたが次第に笑顔になり許してやる事にした。
「言っときますけど、私はそう言ったの信じてませんので。魂の繋がり?運命の赤い糸?そんなの私たち人族には分からないわ」
「だが・・・」
「だったらこれならどう?先ずはお友達から」
ニコリとリリィは微笑みながら不審者に手を差し出す。不審者も一瞬惚けた顔をして、フードを脱ぎ顔が拝見できる状態に。そこでリリィも固まった。
「そうだな、先ずは友達から・・か。僕はアトラス宜しくね」
お伽の国に出てくる王子とでも言えば良いのだろうか。アトラスの目麗しき美貌に。
リリィも少ししてハッとなり、ぷるぷる頭を振ると面白そうにアトラスも笑顔になって笑う。
ピコリと犬の耳を動かしながら。
「こんな事言うのも失礼かもしれないけど、名前を聞いても良いかな?」
「私?私は・・・リリィよ。宜しくアトラス」
アトラスも満足そうに頷きそれからはたわいもない話とか。その後、アトラスの従者が慌ててやって来て連れ帰ろうとしたがリリィが話をしてその場で終わる。
アトラスと仲良くなって数日後のこと。
今日の兄はとても機嫌が悪い。
私が何処に行こうにも付いて回り、友人の男の子とも話をしただけで“誰と話した・もう近づいちゃダメ”と訳のわからない事ばかり。
「もういい加減にしてっ!兄さん」
付き纏うのをやめて欲しいとお願いしたのに、兄のエドガーはリリィの体を持ち上げ自身の寝室ベッドへ投げる。今日の兄は何がおかしい。
一言で言うなら怖い、だ。
「に、兄さん?」
「最近リリィって良く店に居ないよね。他の男と遊んでるでしょ・・・俺、知ってるから」
「ただの友人よっ!どうして兄さんにとやかく言われなくちゃいけないの」
その言葉にエドガーはキョトンとして言い放つ。
「だってリリィは俺のお嫁さんなんだから」
・・・・・え?
何言ってんの、このバカ兄は。リリィは目を丸くさせながら冗談でしょと言えば嘘じゃないと。
エドガーが言うには。
リリィがまだ小さい頃に兄であるエドガーに言った言葉が衝撃だったらしい。エドガーのお嫁さんになる!と言ってずっとずっと一緒と約束をしたらしい、その時にキスも交わしたと言うのだ。リリィは耳を疑った。
そんなの小さい頃、しかも子供の言った事を真に受ける人はいないと思うが。
エドガーはリリィとキスした時に心が震えたらしい、この子こそが自分の真実の愛なんだと。
それからは近寄ってくる年頃の女の子には目をくれず、自身の妹が成人するのを待っていたらしい。その後で、プロポーズしてと色々な思惑があったらしいが騎士団で隣国の王子が運命の番を見つけたと噂となって、心配したエドガーがリリィの様子を監視していたら案の定。
ちょっと待て。隣国の王子って・・・もしかしてアトラスの事を言っているの?
私は混乱した。
アトラスが隣国の王子である事、兄のエドガーが私の事を好きだと言うことに。
リリィはそのままブっ倒れてしまい医者が出動する始末。
運命の番と言い張る隣国の王子アトラス。
真実の愛とトチ狂う家族の長兄エドガー。
リリィの恋は如何に?
「俺だよね?だって、お嫁さんになるって言ったんだから」
「魂が離れる事は無いよ。僕とずっと一緒なんだからさ」