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親以外が名前をつけることは、そのものの魂を永遠に自分のものにすることだ。遥か昔に、この世界のおろかなものたちが空落ちにした所業。だから、今、私たちは、自らの空落ちにのみ、自分の名前を教える。
私の空落ちは、百年前に死んだ。エルフ族のような長命な種にはまれにあることだ。前例だってある。珍しいとはいえ、ないことではない。しかし、神の喪失は、私の中に今も残っている。しかし、それでも、私には神がいた。愛らしく美しく、いつも私のそばにいた、空落ち。赤き毛並みの美しい、獣の形をした、私の神様。
だと、いうのに。
「名前を」
一瞬で奪われた。
「空落ち様」
その瞳は懐かしい黒の瞳。私の空落ちと同じ色。神のいない私を哀れんで、引き受けてくださった、その空落ちは、ただ、柔らかく笑った。
「俺の空落ちですからね」
教え子に釘は刺されたが、それでもつい口が笑ってしまうのは仕方ないだろう。私にとっても、だが、これは、神の再来だ。空落ちが複数のものの上にたつのは、あの、闇のものを打ち払ったもののみだ。あの、空落ちがまたここに廻ってきたのだ。
「研究者としても、これ以上の喜びはありませんよ」
「俺の空落ちに手は出させませんよ」
「ふふ、手は出しませんが、目も離さないだけです」
「……そう、ですね」