最終話
「急性アルコール中毒で運ばれて、虚弱で通院しているやつに見せるもんじゃない気がするんだが」
と長い前置きのあとに、雪が見せてくれたものは、とろけるような色をしていた。透き通る黄金色と、混ざり合う、ベリーの色。見ればわかる。綺麗にできている、蜂蜜酒だ。
「……どうしたの、これ」
「……へんな、夢みたいなのを見て……」
何か言いにくそうに、雪が頬を掻く。
「まあ、いいや、飲もうか」
「お前な」
と言いながらも、雪は、きゅぽん、と音を立てて、その瓶の蓋を開けた。
「舐めるだけにしろよ」
「……ああ、うん、これ……」
その蓋を、雪の手から取り、閉める。
「え?いいの?」
「先生と、飲まなきゃ、駄目な気がする」
「……先生?」
「うん?あと、雪と」
「だよな」
「うん?」
「閉めるならちゃんと閉めろ」
雪が、強く、蓋を閉めた。とろん、と揺れる。
「……向日葵」
「え?向日葵?」
見上げると、その月の瞳がこちらを見ている。とても、懐かしいような気がして、その頭を撫でる。
「な、なんだよ」
「いや?」
「別にいやじゃないけど……」
「……前にね、犬を飼っていたの。子どもの頃……聞いてくれる?」
雪は嬉しそうに目を細めた。
「うん、……話して、空」
本当に、それが嬉しそうで、きっと、彼なら許してくれるのだろうと、分かった。抱えてきた痛みが、傷が、鎧が、ぽろぽろと、剥がれていくのが、分かった。この時を、ずっと、待っていたのだと、そう、分かった。話す前から泣けてきてしまいそうで、それがおかしくて、笑った。
「ありがとう、雪」
酒飲みが異世界で崇拝される話 了




