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 闇の中で、輝けるものは、自らを燃やすことができるものだけだ。つまり、太陽のように、自らを燃やせば、人でも光ることはできる。

「いたいことは、……いたい」

 息を吸って、深く吐き、燃える自分の指先で、先を見る。自分の体が、どんどん、若くなっていくのが分かる。空落ち様と出会った時から、その傾向はあったが、今、闇の中進んでいけばいくほど、一歩で、一年は時間が戻っている。彼らのもとにたどり着く頃には、私は私ではなくなっているかもしれない。そもそも、この炎も、恐らく、私の時間を焼いているのだろう。

 この闇は、記憶だ。空落ち様の、記憶。私たちの中にある、消化しきれなかった、病み。

「空落ち様、どちらに」

 闇の中で、どこにも響かず、まるで重量があるかのように、声が落ちていく。空落ち様からの返答はもらえない。

「王よ、どちらに」

 風が吹いた。まるで問いかけに応えるように、その風は私の背中を押す。王は、私を、まだ、呼んでいる。

「王、そちらにいるのですか」

 燃える指で先を照らす。

「ロイグ」

 彼女がそこにいた。

 赤い毛並みの美しい、私の空落ちが、私を呼ぶ。だから、つい、微笑んでしまった。

「ええ、あなた様」

 彼女の赤い尾が、ゆらりと、私を誘う。

「あなた様がいるなら、迷わないですね」

 その燃える尾が揺れる。彼女は私の言葉に、機嫌良さそうに、高く鳴いた。その声があまりにも懐かしくて、少し、涙がこぼれた。おちた涙は、足元で星になっていく。もしかしたら、こういった感情の粒のひとつひとつが、いつか、闇を作り、卵を作り、世界を作るのかもしれない。まともな研究者なら思わないことを、でも、きっとそうなのだ、と理解した。

「空落ち様」

 高く、彼女が鳴く。

「私はあなたがいなくなって」

 炎が少しずつ私を焼いていく。

「とても寂しくて」

 時間が少しずつ戻っていく。

「でも、好きなものができたのです」

 彼女の柔らかい体が、私の前を歩いていく。

「彼らを守りたい」

「ロイグ」

「はい」

 その尾からこぼれた炎が、とても美しい。

 その瞳がきらきらと、暗闇の中で瞬いている。

「ええ、そうですね……そうです」

 彼らのためになら、いくら燃えてとしても、それは、痛みではない。彼女が、高く、鳴く。

「この時のために、生きてきたのだなあ」

 そこに、玉座があった。

「……王よ、ここに玉座がある。あなたの座るべき椅子が」

 指先を置けば、そこに、火がついた。

「戻られよ、それがあなたの仕事だ」


 



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