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「ヒトガタの空落ち」
「200年ぶりじゃないのか」
「正確にいうなら218年ぶり」
「さすが首席、待たせるだけある」
「それをいうなら、さすが王子だろ」
「は、どっちにしろ化け物だ」
「ああ、化け物だな」
歓声とともに、そんな言葉も聞こえた。私を肩にかつぎあげて、離さない青年には聞こえていないようだ。というかとりあえず、こんな人前に出るなら化粧したい。せめて、鏡がみたい。
「なんなんだろう……この状況……」
そして、やたらとイケメンと美女が多いのなんなん、ここ。モデルの集まりなんか。それでも私を担ぎ上げているこの子は抜群に綺麗だ。さっきまで泣いていたのに、その少し赤くなった頬さえ魅力的に見える。
「いかがされました」
私を見上げて、にこりと笑う。
「君は王子なのですね」
「……ええ、一応」
「事実に、一応とつけるのはよくないですよ」
「!はい!」
「いいこ」
とりあえず撫でてから、「歩きたいです」と言えば、不安そうに眉を下げたが、下ろしてくれた。歓声がおさまり、視線が集まる。まあ、視線ぐらいなんてことはない、いくら見られても死ぬことはないのだ。ばかにされようが、気味悪がられようが、必要なのは情報だ。
「ここの責任者は」
「私です」
ちょうど目の前にいた初老の男。どうやら、教授のようだ。なら、この状況も説明してもらえるだろう、いや、ん?
「ん?」
え、あ、うそでしょ、銀髪だよ、このじじい。
「いかがされましたか、空落ち様」
しかも耳とがってんだけどー?!これもう完全にあれやん!!!!山とか森にいるなんか長く生きる方でっしゃろ!!!うへあー!!!!!
「あなたは……」
「先生は白きもの、賢者様です」
「サイン……名前ください」
「へ?」
「青年よ、ペンを貸してくれ、あ、服でいいんで」
「え、あ、はい」
よくわからないまま、服にサインしてもらった。
「よいのですか?」
「はい」
「……老いた身に」
「生きているのに、そういうことをいうものではないですよ」
「!はい……」
「あなた様」
不満そうな顔をして、青年が私の腕を引いていた。
「ヒト族よりエルフ族がお好きですか?」
「好き嫌いを言えるほど知りません」
「じゃあ俺の名前はいりませんか?」
「あなたの名前はあとでつけます」
「!はい、お待ちしております!」
ちょろい。
そしてとりあえず、銀髪のエルフを見る。
「私は実は今、どこにいるのか……あなたは、……説明できますか?白きもの、賢者様……」
言いながら、恥ずかしくて死にそうになった。なんだ、白きものって。まあ、いいや、あとで酒の話にしよう。
白きものはごくりと何故か唾を飲み込んで「伝説の空落ちの再来……」と呟いた。え、ちょっと待ってなんか称号増えたんだけど、と思いつつ、ただの酒飲みはとにかく愛想笑いを続けておいた。