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「っどうなっているんだ!」

 空落ち様の部屋から黒い、ヘドロのようなものが溢れ出している。触れると、それは弾けて、掴むことはできず、ただ、視界を覆う。靄のように実体がないが、地面に落ちるように広がっていく。

「ドアがっ」

 我が主人の部屋の扉は固く閉ざされていて、開かない。風を起こし、切り刻んでも、その周りの壁は崩れても、ドアだけが開かない。壁に穴をあけたところで、そのヘドロがこぼれ出てくるだけ。

「……空落ち様!!」

 闇の中に、浮かぶ、ドア。

「空落ち様!向日葵はここにいますっ呼んでください!どこへだって迎えにいく!!」

 すがりついて、叩いて、殴って、蹴っても、びくともしない。引くことも、押すこともできない。あるのは、ただの、ドアだ。開くべきものが開くことがなく、ただ、閉じている。これは、空落ち様の心だ。

「あなた様、俺のっ……ねえっ聞いてください!」

 ちゃんと、話せば、ちゃんと、聞くと、あなたは仰った。

「一緒にお酒飲みましょうっそう言ったのはあなた様だ!ねえっ楽しく……笑ってっ一緒にっ!」

 こぼれ落ちたヘドロが、――闇が――膝の高さまで積もっている。その闇は実態はないのに、やけに冷たく、やけに重たく感じる。

「分け合うから美味しいのでしょう!」

 ドアを殴りつける自分の手から血がおちて、闇に落ちる。

「っく……いってぇ……」

 でも、ここに、空落ち様がいる。引けない。ここで、引くわけにはいかない。

「こんな暗いところにいてはいけない!俺を呼んでくださいっ俺があなたをどこからだって見つけてみせる!!あなたがっなんになったって!!」

 闇が押し寄せてくる。それでも、ここを、引くわけにはいかない。

「俺はあなたの向日葵だっあなたは俺の空落ちだ……!譲ってやるものか!あなたはもう俺の手の中に落ちてきたんだっ……!!」

 待つ身の辛さしかしらない。待たせる身の辛さなど、知りたくもない。俺は、もう、あなた様を待たない。待たせることもしない。絶対に、離れてやるものか。あなたがいやがったって、こわがったって、俺は、あなた様のためだけに生きるのだ。闇が口元まで迫ってくる。

「っならっ俺も飲め!空落ち様を飲み込むならっ、俺もついていく!」

 闇が、俺を、食った。



 

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