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「なるほど……」
とは言ってみたが、なんだろうこの状況は。
私を膝の上に抱え込んて、離さないその青年が、ぐすぐすと泣きながら説明してくれたことによると、私は彼の神様らしい。おかしい、どう私が思い出したところで私はただの酒飲みである。
だが、とりあえず、言語は日本語だし、彼の体臭も違和感がない。だから、多分ここは日本だ。で、そう考えると、この子は多分ちょっと頭がゆるふわなんだろう。酔っている匂いはしないが、まあ、酔っぱらいと同じ扱いでいいだろう。
そして多分私は酔っぱらってどこかに来てしまったんだろうしな。
「そう、泣きなさるな」
「だって」
「泣くより笑った方がいいものですよ」
「……うんっ」
柔らかいその髪を撫でながら、その腕をさりげなくとき、立ち上がる。彼がぼたぼたと涙をおとしながら、私を見上げた。そうしてやっと、私はまともに彼の顔を見た。
綺麗な顔をしている。
ぞっとする。
ちゃんと目が合うのだ。その目には力があるのだ。これは、頭がゆるふわではない。正気だ。まともな人間が、本気で、私を神様だと思っている。さー、と、少し残っていた酔いが覚めていくのがわかる。そういえば、生えている植物も、似てはいるけど、見たことがないものが多い。この、私が、見たことのない植物が群生している場所?日本の中にあるわけがない。それ以外で、これだけ流暢に日本語を話す、国?……ハワイとか?
「想定よりも遠くに来たかな」
「いいえ、大学の裏に落ちてくださったから、そこまで走りませんでした」
ぼんやりと呟いた言葉にも丁寧な返事が返ってくる。大学、そこから場所がわかるだろうか。
「……大学、なんという大学、ですか?」
「第一大学」
「だいいち」
「うん、第一大学!がんばりました。いつかあなた様にお会いしたときに失礼がないように、ね、俺、ちゃんと、空落ち学部ですよ。これでも首席なんですよ」
そんな順位付けされた大学制度、日本語圏内にはないだろう。冷や汗が出てきたが、とりあえず、誉めて誉めてって顔をしている青年に手を伸ばす。
「いいこ」
そのふわふわとした金の髪を撫でながら、やばいな、これなんかやっぱりおかしいな、と考える。月のように輝く灰色の瞳の美しい青年は、はらはらと涙を落としながらも、心底嬉しそうに微笑む。
「俺の空落ち、あなた様、やっと会えた」
手をつかまれ、つるつるした頬をすりすりとされる。これあれよ、私が二日酔いじゃなくて、お前がイケメンじゃなかったら、事案よ。でもまあ、イケメンだし、私は二日酔いだし、なんか可哀想だから許すけどさ。
「あー、そうですね、とりあえず、君、名前は?」
「つけてください」
「はい?」
「俺はあなた様のものだから」
「……」
逃げたい。
「つけて、俺の名前」
「……」
でも、この灰色の目は正気だ。
「少し考えてもいいでしょうか?後でつけます」
「……やっぱり俺の空落ちだ。ありがとう、わがあるじ。お戻りを待っていました」
やばいこれどう転んでも崇拝されるんですけど、なんなんだ。