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「空落ち様、見事でした」
私の言葉に、空落ち様は柔らかく微笑まれた。
「それにしても、本当に王位をとるとは」
空落ち様は柔らかく微笑む。
「まあ、……、丸く収まったなら何よりです」
「ええ、これ以上ない、見事な采配でした。長引けば長引くほど問題が増えていたことでしょう」
今この世界の王は、最高齢を迎えていた。ヒトでありながら、齢はすでに300を超える。それは、今日まで王位継承者がいなかったためだ。誰が願い出ても、あの空落ちは誰も選ばなかった。それが、あんなにも簡単に、この空落ち様を、つまり、この若者を選んだのだ。
ここに王が生まれた。
四権の一つ。
若者は嬉しそうに笑う。
「空落ち様の采配です。この命かけて勤めさせていただきます」
「……そう、頑張りましょうね」
「はい!」
「……ロイグ、助けてくれますか?」
「もちろん、この命果てたとしても」
「そこまでしなくてもいいですが……」
空落ち様は穏やかに微笑まれる。そのほほえみは、どこか古い王に、私の友に似ていた。
「ああ、でも、私が役に立ったのなら、何よりですよ」
そう呟いてから、空落ち様はまた、さけ、と呼ばれるものを見た。
「……楽しみですね、おさけ」
私の言葉に、空落ち様は、花開くように笑った。
「ええ、本当に!」
その愛らしい顔に、一瞬、言葉が出なかった。が、なんとか飲み込み、同じように微笑む。
「出来上がりましたら、私も一口いただけますか?」
「もちろんです。みんなで飲みましょう」
「!俺も」
「もちろんですよ、向日葵。これはあなたのために作っておりますし」
王になったばかりの青年は嬉しそうに笑った。
「俺のため?」
「はい、あなたのための、ラズベリーの蜂蜜の、お酒。きっと美味しいですよ」
「うれしいです」
「ふふ、私もうれしい」
若い二人が目を合わせて笑っていると、少し色っぽい雰囲気になってもよさそうなものだが、この新しき王は諸諸のことが未成熟で、空落ち様も自らの成すべきこと、酒をつくることにしか興味がなくいらっしゃる。だから、つい、笑ってしまった。ああ、空落ちと恋に落ちるような愚行を成したのは、古き王だけだった。あの者は、そのせいでひどく苦しみ、……ああ、でももう終わるのだ。
「今日は、良い日ですね」
「?ロイグ、嬉しそうですね」
「ええ、……とても嬉しいです」
彼はもう、本当に十分に生きた。あまりにも長く、生きてしまった。
「さようなら、友よ」
古き王は、夜に死ぬ。
「よき、旅路を」




