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 王子がいるのなら、王様がいるのは当然だ。向日葵はずっと空落ちがいなくて、大変だったというのだから、王様もきっとやきもきしていただろう、という気持ちだった。のに、何だか大変なことになっている。

 ひい、ふう、みい、と部屋にいる人間の人数を数えていたが、途中で分からなくなった。多分、50人ぐらいいる。なんでこうなった。

「人型の空落ちとは」

「それも人の言葉を話す?」

「それは最早、人ではないか?」

「言われて見れば、人にも見えよう」

 人であることから疑われているのか、と思いながら、愛想笑いを浮かべておく。目の前には、とても綺麗なおじいさんが、とても大きな椅子に座っている。絵本で見るような王様だ。そうしてその脇には幾人かのおじさんやおばさんがいて、あれやこれやと話し合っている。王様は彼らの声を聞いているのかいないのか、穏やかな笑顔を浮かべたまま、私を見ている。

「申し訳ありません、わがあるじ」

 見ると、私の横に立っていた向日葵は、青筋を立てて、おじさんやおばさんを睨んでいた。

「馬鹿な人間がご無礼を」

「いや、何も無礼なことはないですよ。向日葵。落ち着いて」

「しかし」

「何はともかく、紹介してほしいです。あの方が、向日葵のお父さん?」

「……父、というよりは、王、ですが」

 とことん色々ある子だな。と思いつつ、逆隣を見る。ロイグもやはりどこか機嫌が悪そうだ。目を細めて、何やら言い合っているおじさんやおばさん達を、見ている。見下している、というのが正しい表現か。

「ロイグ、あの方々は、大臣、ですか?」

「よぎかいです」

「よぎかい」

「ええ、世のことを定める議会。世議会。王とともに、しけんのひとつです」

「しけん」

「この世界は、4つの権力で構成されております。ひとつ、王。ひとつ、議会。ひとつ、司法。ひとつ、空落ち様」

 そこに入ってくるのか、空落ち。

「とはいえ、もちろん、空落ち様が一番でございます」

「とんでもないな」

「ええ、その空落ち様を目の前にして、なんという無礼を、やつら」

「え、いや」

 そっちじゃないと思いながら、とりあえず、変わらぬ微笑みをたたえた王様を見る。彼の肩の上には一羽の鳥がいた。綺麗な鳥だ。緑色の尾羽がゆらりと垂れて、とても優美な鳥。その鳥がくちばしを王様に寄せる。なにか、ささやくような仕草だ。そうすると、王様がゆらり、と立ち上がった。

「我が息子に空落ちが現れた」

 低い声だ。

「これ以上ない喜びだ」

 その肩から鳥が飛び立つ。その鳥が、まっすぐ、私に向かって飛んできた。

 え、ちょ、ま。

「……」

 人は驚きすぎるとあまり声が出ないようだ。自分の肩に止まった鳥を見る。不思議と重さはない。その金色の瞳は、どこを向いているのかわからないが、とにかく綺麗だ。その瞳をじっと見ていると、鳥がするり、と私の頬に嘴を滑らせた。甘えるようなその仕草が愛らしくて、つい、笑った。

「綺麗ですね、あなた」

『あなたほどでは、再来』

「さいらい」

『おや、忘れられているのですね、ふふ。では少し大変かもしれませんが、……それでもあなたしかおりません。……後のことは任せましたよ』

「……、なるほど」

 アルコールも飲んでいないのに、まずいなあ、と微笑むと、鳥がふわりと肩から飛び立った。間違いなく、ああ、あの鳥が話していたのだ、となぜかわかった。そうして鳥はまた、王様の肩に戻っていった。そうすると、王様はまた玉座に腰掛けた。

 しん、と静か。

 なんで急に静かなのだ、と隣を見ると、向日葵はなぜか満足げに笑っていた。

「さすが、わがあるじ。無礼な者どもを黙らせるには十分すぎるお見事なお裁きでした」

「……え、と」

 ぱん、と王様が両手をたたいた。

「では、息子よ。お前はこの時より、私の息子ではなくなる」

「わかりました。古き王よ」

「ああ、新しき王よ」

 向日葵が私の手を握った。

「いきましょう、わがあるじ」

「え、あ、はい」

 よくわからないが、終わったらしい。



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