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「酒が飲めないなら死んだほうがいい」
「なら、死ね」
未必の故意と言われたら、恐らくそうなのだろう。これは夢だとわかっている状態で、過去の出来事を眺める。かわいそうな酒飲みが酒に飲まれて死んでいくのを、ぼんやりと見ている。私は酒飲みは罪人だと知っている。
知った上で、酒を飲んでいる。
「血なのか」
呟いてみて、笑う。
「そうやって、何か仕方ないと正当化している時点で、中毒なんだろうなあ」
好きだというのが全ての免罪符になるのなら、良かったけれど、きっとそうではない。ただ、それでも、私は酒飲みで、これからも酒を飲むだろう。過去の映像は、夢は、続いていく。しかし、これは過去の自分は見なかった映像だ。
雪の中で、死んでいく、親を、ぼんやりと見ている。
「酒飲みは須く、死ね」
過去と同じ気持ちで、私はその死体に呟いた。夢の中で、その死体は、姿を変え、自分の姿になった。
目を開けると、金色の髪。
「……怒るべきか、……諭すべきか」
私に抱きついて、王子様が眠っていた。
どこが現実で、どこが夢なのか、その境界が曖昧だ。はあ、とため息をついて、その腕をほどき、上体を起こす。
「ああ、君か」
ベッドの上に卵があった。大きな卵だ。どうもあれは幻覚ではなかったようだ、と思いつつ、その卵を眺める。寝起きの頭に軽い痛み。
「わがあるじ、おもどりを」
その声は、確かに聞き覚えがあるのだけれど、どうしても思い出せない。手を伸ばして、その卵の表面をなでる。つるつるとした、白い、大きな、卵。ヒビひとつない、卵だ。
「まだ、戻れない」
自分の口から言葉が漏れた。
「ごめんね」
「……謝らないで、どうか」
卵の声は、どこか、笑っているように聞こえた。
「わがあるじ、私はあなたのもの。時はまもなく。お早いおもどりを」
ごろん、と卵が転がって、ベッドから落ちた。
ベッドから降りて、落ちたところを見るが、もう、どこにも卵はなかった。ただ、耳に残る、あの声。時は、まもなく。確かに何かを思い出しそうなのに、どうしても思い出せない。
「酒も飲んでないのに、二日酔いみたいな感じ」
髪をかきあげて、ああ、お風呂はいって、綺麗な服が着たいなあ、と思った。




