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それほど大きくない馬車の中で、長身のイケメン同士がにらみ合っているのは、なかなか空気が重い。
「あー」
「「いかがされました」」
いや、気まずかっただけです、とは言えず、考える。
「王宮はどういうところなのでしょう」
「どう、ということはない、普通の場所ですよ」
王子様の感覚は当てにならないので、賢者を見る。賢者は何故かどこか落ち着かない様子で、「王宮に行くのは、……100年ぶりですので、私ではお役に立てますまい」と言いだした。
「そうなのですか?」
「空落ちを亡くした呪われた身の上では、入ることを禁じられておりましたので」
私を膝に抱えた向日葵は「大したことではありませんよ」と笑った。
「空落ちがいなければ迷いやすい場所、というだけです」
「それなら、向日葵は今までどうしていたの」
「俺は、……頑張りました」
「いいこ」
「はい!」
その金色の髪を撫でてから、ロイグを見る。ロイグの顔色は銀色の髪と同じぐらいに白い。
「……あまり良い思い出がなさそうですね」
「っそんなことは」
「ついてきてもらうのは悪かったでしょうか」
「……いいえ、あなた様のそばにいられるなら、私として、これ以上の幸福はありません。私たちにとって、空落ち様と共にいることこそが、精神の安定、魂の安定につながります。私は空落ちを失ってから長いですから、……いつ闇のものになってもおかしくはなかったのです」
そういって、ロイグは笑った。ジジイなのに美丈夫である。
「そう、じゃあ、まあ、なるべく一緒にいましょうか」
「っありがたきお言葉」
「!俺は!?」
「向日葵も一緒にいましょう」
「はいっ」
私は、息を吸って、吐いた。
「向日葵とロイグは仲が悪いのでしょうか?」
私の言葉に、向日葵は両目を大きく開き、ロイグは咳き込んだ。
「「そんなことありませんよ!」」
「あ、そうでなんですね」
「……先生は、俺の恩師です」
「……そうですね、彼は私の一番の弟子です」
「!先生」
「はい」
「なるほど、じゃあ私のせいですね」
「「違います!!」」
違わないだろうと思いながら、とりあえず笑っておく。
「まあ、とにかく仲良くやってください。酒は、仲が良い相手と飲むからうまいのですよ」
「……さけ」
「はい」
向日葵が腕を伸ばして、私の肩を引き寄せた。
「わがあるじはお酒が好きでいらっしゃる」
「それが私の全てですからねえ」
「なら、それが俺の全てです」
向日葵の腕が膝の下にまわり、ひょい、と抱き上げられる。相変わらず力強いなあ、と思っていると、向日葵が私を抱き込んだ。
「でも……俺の空落ち様なのに……」
向日葵はそこが不満らしい。
「酒は分け合うからうまいのですよ?」
「うー、俺のなのに……」
「ふふ、まあ、楽しくやりましょう。何、一週間もすれば蜂蜜酒は出来上がります、楽しみですね!」
「!はい、あなた様が楽しいと俺も楽しい」
とにかく、私は王宮だろうが、大学だろうが、酒ができればいいのである。
そうして馬車はやたらと長い壁をぐるぐると回って、城の中へ、王宮へと、進んでいった。




