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私が初めて酒を飲んだのは21歳のときだ。
それまで私は酒飲みというものを嫌悪していたこともあり、絶対に手を付けなかった。しかし、その日は、尊敬する恩師に「まあ、一杯」と言われてしまったのだ。まあ、一杯。初めてなんです、とも言えず、一杯、そうしてその時に世界が変わった。
「おいしい?」
「はい、おいしい、です」
「でしょう。君は苦みのあるものが好きで、でも炭酸は飲まないからね、このお酒は好きだと思ったんですよ」
「……ありがとうございます」
「ふふ、食わず嫌いは良くないよ。何事にも興味を持ちなさい。知識は君の武器になる」
そうして、私は酒を飲むようになった。
「強くなったねえ」
「先生のおかげですよ」
「はは、そりゃなにより、ま、一杯」
「はい、いただきます」
酒はいい。
本当に、ただそれだけなのだ。
「まあ、とはいえ、酒飲みは罪人だ」
私は今でもそう思っている。
「罪人は罪人らしく、さばかれて死ぬべきなのだ」
そういう思いがあるからこそ、どんな目に遭おうと、罪人だから仕方ないのだ、と受け入れる。だからこそ、私は色恋沙汰に向いていない。対等になれないのだ。だって、私は酒飲みで、だって、私は罪人だ。そういう人間は、恋をすると、奴隷になる。だから、向いていない。
まあ、でも、幸か不幸か、私は酒飲みだ。
だから酒がおいしく飲めさえすれば、それでいい。




