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「それで、あとは」
「あとは放置」
「放置」
「そう。酒は放置するのが基本。……不満そうですね、王子様」
「!いえ、そんなことは」
と言いながらも、それでおしまい、という感じがありありと出ている。が、しかし、蜂蜜酒はつけたら終わりなのだ。その内、できるだろう、というものに過ぎない。一週間ぐらい放置しておけば飲めるだろう。
「さて、そろそろ、考えないといけませんか」
「考える?何をでしょうか」
「ええ、まあ、どうやって帰るか、とか……まあ、……酒さえあるならどこでもいいのですが……」
しかし酒を全部作るのもな……、なかなか、大変だし……、仕事もあるにはあるし……衣食住の問題も……と考えながら話していたら、不思議そうに王子様が首を傾げた。
「空落ち様は俺の空落ち様なのですから、望まれるならこの国のすべてがあなた様のものですよ?」
「はい?」
「あなた様がいらっしゃるなら、王位継承は俺に戻ります。ふふ、ああ、考えもしなかった。学者になるものとばかり、でもこれほど美しく聡明なあなた様がいらっしゃるなら、間違いなく次期国王はこの俺です」
「……なるほど、えらいですね」
「はい!」
そんな簡単に王位継承者変わっていいのか、と思いながら、とりあえず頭を撫でる。ああ、本当に撫でやすい、この子は。
「あ」
あ、そうか、この子はあの子に似ているのだ。
「向日葵」
物心つくころから私が大人になるまでそばにいてくれた子。可愛い、大きな、あの、子。
「ひまわり?」
そうやって首を傾げる仕草もよく似ている。つい、笑ってしまった。
「もしかして、……俺の、名前、でしょうか?」
「……いやでしょうか?」
「……っふっ」
「泣くほどいや!?」
「い、いいえ、……これ以上ない、喜びです」
「わっ」
私を抱き上げて、向日葵は花開くように笑った。
「俺はあなたの向日葵です。どうか、あなたがすべきことのために、俺のすべてを使ってください」
「君はすぐそんなことを言って」
きらきらとした瞳。本当に『犬』のよう。
「私が間違えたらどうするの?」
「俺も共に間違えます」
「あらあら、こりゃ困った王子様だ」
その髪を撫でて、まあ、……酒は作れる。なんとかなるだろう、と私はまた問題を後回しにしたのだった。




