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 語れば魅力は半減しよう。しかし、語らずにいられぬものもある。恋人のこと、仕事のこと、それから酒のこと。あまりにも魅力的であるがゆえに、語り出せば口が止まらず、しかし一方的な知識の押し付けに、聞き手は耳を塞ぎ、語り部の一人歩きとなってしまう。あの、惨めさといったら!

 だから私はなおのこと、口を閉ざすのだ。どうか嫌われませんようにと。どうか、哀れまれぬようにと。必死になって沈黙を貫くのだ。そうしてさりげなく、自然を装って、酒を注いで回る。どうか、またひとり、酒飲みが増えますように、と。


 つまり私は酒飲みだ。

 胸を張って言えることはそれだけだ。

 

 しかしそれだけでは現状は説明つかない。なんとか記憶を引きずり出そう。たしか、あれは、夜だった。

 人様の迷惑にならぬようにひとりで酒を飲み、飲み、飲み続けた、ある夜のことだ。私がそのよくわからぬものに遭遇したのは。そう、平たく言えば泥酔した夜だ。家に溜め込んでおいた酒をのみつくし、コンビニに行こうと、家を出たときだ。ゆるふわな足元、ふわふわな視野、まるまるななにか。

 卵だ。

 高さが40㎝ぐらいだろう。かなり大きな卵だ。それが家の前に延びる坂の上から、ごろんごろんと、転がってきたのだ。箸が転がるだけで楽しい酔いどれはけたけたとわらった。遠いゆるゆるな記憶の中で、私も指さして笑った気がする。しかし、その巨大卵はまっすぐ私のもとへ転がってきた。なぜか私の目の前で転がるのをやめて、とくとく、こんなことを言うのだ。

「わがあるじ、おもどりを」

 別件だが、私の家の真ん前は坂のため何度かトラックが突っ込んできたことがある。思い返せばあの卵は私の記憶のなかでは卵だが、トラックだったのかもしれない。

「なーにいうとん?うっへへへへへへ、やっべー幻覚?うけんやけど、やばない?ちょ、インスタ!これ、インスタってやっちゃろ!しゃーしん!しゃしん!ってー!やっとけて、おまえ、やっとるんやろ?はえっやろ、これ、はえっやろ?!うっへへへへへ!卵こんなでかいっちゅー!なに?なんやろな、これ!うへへへへへへへへへへへへ」

 何故なら、そうしてあとの記憶がないからだ。




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