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魔女と魔王  作者: 招杜羅147
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精霊鳥と魔術師

 国に戻された皇子は父に失望され叱責を受けると思っていました。


 しかし城門に入ったところで見知らぬ兵に武器を向けられ囚われてしまいます。





 そのまま玉座のある間まで兵に連行されると、そこにはこれまた見知らぬ男が2人いました。


一人は身分が高そうな身なりに、伸びた白髪混じりの髪をきっちり束ねた、どことなく見覚えのある壮年の男性。


もう一人は黒いローブを着た魔術師です。


黒いローブは強大な精霊魔法や呪術を得意とする門の証です。





 「何者だ! 父上に何をした?」





 兵に押さえつけられたまま、皇子は不審な人物に向かって声を張り上げました。


壮年の男性は唇を歪め、兵に戒めを解くよう指示を出しました。





 「お会いしたのは皇子がお生まれになった時でしたから覚えてないのも無理はない…あなたのお父上の兄ですよ。


今は公爵となっていますが…。」


見覚えがあったのは面差しが父皇に似ていたからでした。


「伯父上…? でも公爵とは?」


公爵は皇子の反応に鷹揚に頷きました。


「帰国してすぐで申し訳ないが、お父上同様城から追放させてもらいますよ。」





聞けば公爵は若い時分に、初陣での武勲に焦り失敗をしたため、廃嫡されて公爵に納まったとのことでした。


今回は皇子が大きな失敗をしたため逆襲に出て皇位を剥奪し、本来皇位継承第一位だった公爵が皇位を簒奪したのです。





 「そんなバカげたことが…。」


「実際あなたのお父上は私を上手く陥れて皇王に納まっていましたからね。…さて、そろそろお取引いただこう。」


公爵―新皇王が軽く手を振ると再び兵たちが皇子を取り押さえ、玉間から締め出されてしまいました。


この後は郊外の公爵領へ移送されることでしょう。





 「お前のおかげで上手くいったな。魔術の勉強のため海を越えて西国へ行く、と言った時は復権を諦めねばならんかと思ったが。」


満足した新皇王が傍らの魔術師へ顔を向けます。





魔術師は皇子によく似た目鼻立ちをしていました。


新皇王の息子なのでしょう。





「合成獣の完成は予想していませんでしたが、あの国へ侵略を仕掛けるのは分かり切っていましたからね。」


魔術師は魔術で作り上げた不死の伏兵を用意していて、巧みに戦争を操作していたのです。


とても高度な魔術です。





「それであおの精霊鳥はどうするのだ? たしか皇女の部屋に置いてあったものだろう?」


魔術師の足元には鳥かごが置いてありました。


皇女は、自由に飛べる鳥を王太子の側に置くのは酷だろう と世話を女官に託したのでした。


「ずっとかごの中で飼い殺しも哀れですから、外に放ってやろうと思いまして。」


「精霊鳥がいてこの国はこの有様だしな。好きにすると良い。」





魔術師は一礼し、鳥かごを抱えて玉間を辞し、かつての皇子の部屋にやってきました。


そして精霊鳥をかごから出して言ったのです。


「お久しぶりです。姉姫様。」





 魔王は目を見開き、魔女の言葉の意味を図っているようでした。


魔女の口からは物語の続きが紡がれます。





「実際はお会いしたことがないので久しぶりというのもおかしな話ですが…。」


『あなたは私を知っているのですか? あなたはまさか…。』





魔術師は精霊鳥の鳴き声が人の言葉として聞こえているようでした。


「妹姫様から姉姫様を亡き者にする呪具を作ってほしい と請われたのです。あの頃の私は魔術院で上位の成績を修めていたので、つい自分の術を試してみたくなってしまったのです。」


『それで…失敗したということ? 私は亡き者にはなってないようですが。』


いえいえ、妹姫様から依頼は受けたもののあなた様を殺すつもりはありませんでした。美しく才媛。白の魔術を修めていると聞いて魔術院で姉姫様を崇拝する者も少なくはなかったのです。かく言う私もその人で。」





 精霊鳥の先にある姉姫の姿を思い浮かべるよう、うっとりとした顔つきで話す魔術師に姉姫は辟易しましたが、害意が無いということは分かりました。





「それで鳥に姿を変えるショールを作り、妹姫に差し上げました。半刻ほどでショールと共に人の姿は消えるので、面倒な処理は必要ない と申し上げて。」





 確かに鳥になって気付いた時には妹姫は部屋から出て行って無人でした。


その隙に格子窓から飛び出して逃げたのです。





「後ほど安全な場所に…と思っていたのですが、突然姿が消えてしまい獣に襲われてしまったかと心配しました。その後楽団が連れ去ったと聞きましたが、あの時期出入りした楽団はとても多くて行方を追うのは半ば諦めておりました。」


『私に対して善意があるように振る舞っているけれど…私の国も西国もこの国も混乱の渦中…悪魔の所業ですわ。』





魔術師は悲観したような、蔑むような笑みを浮かべました。


「そもそもは妹姫様の我儘からだと思いますよ…。それに悪魔と言うなら海向うの魔王こそが相応しい。」


『魔王とは…? 西国のことを言っているのですか?』





魔術師はにっこり笑った。


「仰る通りです。」

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