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魔女と魔王  作者: 招杜羅147
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戦乱

 この鳥は生態学の家庭教師も見たことが無いということでした。


ただ、食事を全く必要としない鳥なので、これは精霊鳥の変異種ではないか と推測が立てられました。





 「変異種か…。」


「ご利益はあるのではないでしょうか。神々しいまでの美しさは変わりませんし。」


 陽光を受け羽毛はきらきらと瑠璃紺に輝き、まるで最近父王に同行して初めて見た海のようです。


精霊鳥はピルル、と小さく鳴きました。





 「先生、僕は合成獣を作ろうと思う。」





「え、合成獣? この精霊鳥を使ってですか?」


突然の皇子の発案に、家庭教師はポカンとし、すぐに気を取り直して質問しました。


「この鳥は綺麗だけど強くはないだろうから使わないよ。猛獣の変異種を自分で作って兵器にしようと思うんだ。」


家庭教師は海向うの大陸攻めの話なのだと思い至りました。


「まだ私の研究所では小動物しか実験しておりませんよ。」


家庭教師は王宮内の生物兵器研究所に身を置く、研究者が本業です。


王宮内では宮廷の人々に万が一のことはあってはならぬと、小動物での実験しか行っていないのです。





「へぇ、あんな高い柵に厳重に囲まれているのに…ならば郊外に当たらな実験場を作るよう、父上に話して手配しよう。」


その鶴の一声に家庭教師の顔が輝きます。


「あ…有難き幸せ…!」





皇子は皇国の屈強な軍人たちを思い出しながら言いました。


「僕はまだまだ振える剣技が少ないから、何かで補っていかないと敵に勝てない。足りない力を合成獣が賄ってくれれば、一人前の戦働きが出来るはずだ。」





 翌日から精霊鳥は皇子の部屋ではなく、妹の皇女の部屋へと移されました。





皇子が王宮を空けることが増えるため、幼い皇女が寂しくないように、との心配りでした。


皇女は皇子の4歳下の11歳。


兄と同じ意志の強そうな黒い瞳と杏色の肌を持つ少女です。





「お兄様は変わってしまったわ。」


鳥かごに軽く頭を押し付けて精霊鳥に話しかけます。


精霊鳥は皇女をじっと見つめます。


「怪物を作るのに夢中で、私の話なんてもう聞いてくれないの。ずうっと動物に詳しい先生とお話してらっしゃるわ。お兄様も先生も怖い。」





皇女を不安にしているのは皇子の態度だけでなく、丁度持ち上がってきた縁談も一つの要因でした。


海向うにある西の国の、身体が不自由になった王太子との縁談です。


「皇女様、お嫁入の際には私もお供いたしますから、どうぞお気持ちを楽になさって下さい。」


お茶を入れた女官が皇女に優しく語りかけます。


皇女はゆるゆると首を振ります。


「結婚に不満はないわ。王子様とのお手紙のやり取りはは楽しいし…向うは食料が豊かと聞いているもの。」





皇女は鳥かごから離れて、長椅子に座りカップの水面に映る自分の顔を―その奥の父の顔を見つめました。


「…お父様はあの国の航路を欲しがっていたわ。私との婚姻で使うことも出来るようになるみたいだけど。」





”お兄様の研究が実を結んだらそれだけで済むかしら?”





飲み込んだ言葉と不安は、茶と共に流し込んでやり過ごすのでした。





 「ここから先は皆様方の方がよくご存じですね。」





魔女が少し顔を上げてこちらを見たことを合図として青ざめた顔の宰相が後を継ぎます。


「結納品に紛れた獰猛な合成獣や伏兵が婚儀の3日前に王城を襲撃。奸計を図ったとして皇国の皇女は騎士団により誅殺…。」


「はい、彼女が王族であるが故にその結果は致し方ないことであったかとも思います。ですが皇女はその開戦を知らされず、婚儀を踏み台にされただけの哀れな少女だったのです。」





押し黙る重鎮らに魔女は言葉を続けます。


「齢を重ねた国王、体が思うように動かせなかった兄王子が討たれてしまいました。しかしこの侵略の伝令を受けた弟王子がすぐさま駆けつけて獅子奮迅の働きをなさり、敵を見事追い返して皇子を捕縛します。」


「その通りだ。人質の返却を条件に海域一帯への不可侵を結んだ。」


宰相は当時の感情を噛み締めているのか、絞り出すような声で答えます。


「その後弟王子は、この国の唯一の継承者として山と森の国を併合して治めることになりました。」





 魔女は一礼し、音もなく立ち上がりました。





「物語は終わりか?」


眼を閉じて話を聞いていた魔王…元弟王子が、魔女に問いかけました。


様々なことが思い出されているのでしょう、眉間には深い皺が刻まれ苦悶の表情を浮かべています。





「いいえ、まだ。」


魔女が宵闇に溶けていきます。


「まだ知っていただきたいことがございます。暗い夜の後にはまた日が昇ることを…。」

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