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魔女と魔王  作者: 招杜羅147
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精霊鳥

 弟王子が山と森の国へ婿入りした日、王都の空を飛翔する一羽の鳥の姿がありました。


青金の体羽、翼は翼角から風切羽に移るほど翡翠色に輝く鳥で、”伝説の精霊鳥に違いない、今日の婚儀を寿いでいるのだ”と、民は大いに盛り上っていました。





 王城のバルコニーに両名が出てくるのを待ち構える人々で城前はごった返し、祝いの席に参加する楽団の馬車もゆっくりとしか進めません。





 そんな馬車の中の一つから、退屈していた一座の踊り子がするりと抜け出し、近くの木々を渡って遊び始めました。


すると踊り子は渡った先の木に先程の精霊鳥が羽休めをしているのを見つけてそっと近づきます。





「人が怖くないのね。やっぱり普通の鳥とは違うからかしら?」


踊り子は精霊鳥が留まる枝の根元にするりと腰を下ろしました。





「大きな国へお嫁入が決まっていた妹姫様は、お相手が海難事故に遭われたことで心を病んでしまったと聞いたけれど、結局どうするんだろう…。西の国では婚礼パレードが行えないとか皆が噂していたわ。」





 精霊鳥はじっと踊り子を見つめピルルルルと鳴きました。


「まぁでもこの国は精霊鳥が飛んできたのだから安泰ね。」


踊り子は精霊鳥を素早く抱きかかえ、


「アンタ一人ぼっちならアタシ達と一緒に旅しようよ。精霊鳥がいる一座なんて、あちこちから声掛かるだろうなぁ。何か芸とか覚えられるものなのかな。」





 恐れを知らない踊り子はそのままいそいそと馬車へ戻っていき、精霊鳥を鳥かごへ入れてしまいました。


踊り子は座長に自分の考えを提案すると、座長は快諾します。


「ただ今回は芸を仕込む時間はねぇから、祝宴の座には出せん。次の座は船で2週間かかる国だから船上で芸を仕込んどけよ。」


こうして婚礼の宴の場で一稼ぎした楽団は、精霊鳥を積んで次の仕事場へと向かったのでした。








 「皇子様、この鳥はどうなさいました?」


「出入りしている商人から話を持ち掛けられて買ったのだ。海を渡ってくる際に見かけて、飼い主と交渉して買い上げたそうだ。めでたい精霊鳥だと言っていたぞ。」





 白亜の宮殿には乾いた風が吹き、精霊鳥が入った鳥かごが軽く揺れました。


ここは大きな大陸の内部にある、高地に位置する皇国です。


強大な軍事力を持つこの国は、現在第一皇子の教育のために多くの家庭教師が召し抱えられていました。





 「皇子様、これは精霊鳥ではありませんよ。色合いは似ていますが、足の色や冠羽が見聞と少し違うようです。」


「本当か?あいつ偽物を売りつけたのか…。」


皇子は爪を噛みました。


家庭教師には、子供っぽいから止めるよう注意されてますが、なかなか直らないでいるのです。


「飼い主も商人も精霊鳥に関する知識はそこまでありませんから。精霊鳥の特徴が描かれた書物を読めるのは皇子のような高貴な方々くらいなのですよ。」


勝気な黒眼が鳥かごに向けられました。


家庭教師は豊かな黒ひげを撫でつけながら鳥をしげしげと観察しています。


「私は歴史担当ですので専門外ですが、これは新種かもしれませんね。明日いらっしゃる生態学担当の先生に訊ねてみると良いでしょう。」


「…そうする。」


家庭教師は頷き、手元の本を開きます。


「では先週の続きを始めましょう。」





皇子は時折鳥かごに目をやりながら、大陸や皇国の歴史を浚い始めました。


「ところで皇子、お父上が南の国を併呑し、港までの街道を整備しているのはご存知ですか?」


「ここは育つ作物の種類が少ないから、交易を強化するつもりでしょ?」


「それもあります。」


「他にもあるのか?」


「皇国は大きくなっております。人口も増え続けていますので、食料もですが土地も足りないのです。」


家庭教師は少し屈んで皇子と目線を合わせました。


背中を押すような、そして憐れんでいるような眼で。


「海を渡った戦争がいずれ起こります。それは皇子の初陣となるでしょう。今まで以上に武芸には励んで下さいますよう。」





 魔女はここで口をつぐみ深々と一礼しました。


聞いていた宰相や大臣らは魔女を凝視したり、顔面を蒼白にしたりと場には緊張感が漂っています。


彼らは魔女の課たる物語が寓話などではなく、実話であることを知っているのです。


ただし、彼らが知らない側面の実話です。





 「魔女はどういうつもりであの話をしているのでしょうか? 何が狙いなのでしょう。」


魔女が去った後、執務室で宰相は独り言ちました。


魔王は書類への著名を止め言い放ちます。


「このまま泳がせてやればやがて分かるだろうよ。」

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