表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
対向車・他  作者: レエ
1/3

対向車

 夜の山道を運転していた。

 最終バスも行ってしまった時刻では、数十分の道程でもすれ違う車はなかった。


 だがここに来て、一台だけ車のライトが見えた。

 前方。山肌のカーブに沿って、ライトの方向がゆっくりとぶれながら、こちらに近づいてくる。

 すれ違う時、内側を走る黒い車にちらりと視線をやった。

 男が運転席、女が後部座席にいる。

 同じ年頃の男女なのに、隣に座らないのを奇異に感じた。



 直線に入りスピードを上げた。

 あの車が気になり、もう見えないだろうがバックミラーを覗く。


 別のものが映っていた。

 この車の後部座席に、先程の車の女がいた。


 ぞっとして、気づかないふりしてそのまま車を走らせる。

(どうしよう)

 夜中でも他に人がいる場所となると、あと二十分はかかる。

 助手席に置いた鞄には携帯が入っている。

(手を、伸ばさないと……)

 ガチガチにハンドルを握った手に、細い指先が触れた。

 息がとまるほど驚き、急ブレーキを踏んでしまった。

 手を振り払うと、そこには誰もいない。

 すぐにここから離れようとアクセルを踏むが、車が動かない。あの女に車が操られていると思った。


 思わず外に飛び出した。

 出たにしても、ここは山を切り崩した車道。崖のような山肌に、鬱蒼とした木々が張りつき、車のライトの他は、ガードレールと白線が暗闇に延びるだけだ。


 強い力が頭と肩を掴んだ。

 ガードレールへぶつかるように押しつけられる。

「やめろッ!」

 ガードレールの先は崖。

(落とされる……!)

 叫びながら必死で押し返そうとした。


 だが、ふっと押してくる力が抜けた。

「え……」

 なぜ、と思う前に、目に入ったものに意識を奪われた。


 車道より少し下。

 高い木の枝に引っかかった、人の体。

 力なく折れぶら下がった姿は、生きているようには見えない。

 あの女と同じ服だ。


 その時、車のエンジン音とタイヤのこする音がした。

 人が来たと、すがるような気持ちで振り向いた。


 黒い車が、私の車の後ろに止まる。

「助け……」

 先程、女が載っていた車だと気づいた。

 ドアが開き、男が出てきた。

 その手にはバットが握られていた。


 慌てて自分の車に飛び込んだ。

 ドンッとバットで車体を叩かれたが、車は発進できた。


 あの男もあの女もまともじゃない――!


 後ろから照らされるライト。あの男が車で追ってくる。

 右側に男の車が飛び出したかと思うと、側面を叩きつけてきた。

 衝撃で尻がシートから浮き上がった。

 ガリガリと鈍い音と高い音が同時に鳴る異常。

 この車がガードレールをこすっている。

(崖に突き落とされる――)

 内側に戻ろうとするが、押し返せない。

 さらにまた強い衝撃が加えられた。

 右のライトが消える。壊されたのだろう。

 愕然とした。

 ガードレールが故意の衝撃にいつまでも耐えられるとは思えない。ガードレールの途切れている場所だってある。

(殺される……)


 だが急に、車が道路の内側に戻った。切り続けていたハンドルの方向に動けたのだ。

 ガリガリと鳴る音は続いているが、その音は遠く、この車に衝撃はない。

 サイドミラーで後ろを見ると、男が単独でガードレールにぶつかっている。

(どうして)

 まるで、ガードレールを私の車と思っているようだ。

 おかしい。男の車のライトもフロントガラスも壊れていないのに。

「――……」

 男の車は、ガードレールの途切れた場所に吸いこまれていった。

 後方で鳴る轟音。


 カーブ一つ向こうで止まり、備え付けのライトを取り出した。

 谷に落ちた鉄の塊を見つけ、警察に通報した。

 車の中で、崖を登ってくる人がいないか、後部座席に人が座っていないか、ひたすら目を配りながら、警官が来るのを待った。




 警察には色々調べられたが、車体の傷やタイヤの跡と照らし合わせ、私の証言に問題はないと判断された。

 死体の女と男の身元が分かった。

 女はその日友達との約束の時間に現れず、男はその約束の場所近くで職務質問を受けたことがあるらしい。

 私とは無関係だったため、すぐにこの事件から解放された。


<対抗車  終>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ