感情の脆さ
一つだけ謝らせてください、宝石の国が楽しみなあまり今日放送だったのに昨日放送と皆さんに伝えてしまいました。申し訳ありません、ちゃんと情報を確認してから物を言います。
もう宝石の国は放送したので今から見てきます!!!皆さんもみましょう!!!
一日が経った、平地にいたモンスターを狩っていたおかげでレベルは益々上がるが、宿屋の老婆に聞いた処役職が剣士ならば最低レベル30、魔術師ならば最低レベル25がこの平地で獲物を狩っていくのに必要なレベルらしい。
レベルが1でも差が開けばかなりの実力差は広がるが、何故魔術師が5低かったとしても通用するかというと、単純に魔術師の方が攻撃力が高いからである。
確か8割型の種族は物理耐性よりも魔法耐性の方が低い、それは素手の戦いで左利きが有利なのと似ているだろう、単純に戦う数が少ないから耐性が付きにくいのだ。
その分魔術師は遠くから魔法を放つため、滅多に物理攻撃を受けずにいるせいで物理耐性が低くなるのが弱点だが、そのせいで私は物理攻撃に特化したストライトにやられた訳である。
まあ私の場合元々備わった才能のおかげで、それが人間の身であろうと、ある程度の能力値は確保できたのだが、それが人間だったため霊魂だった頃とは格別に違い、一匹モンスターを倒すだけでレベルが跳ねあがることこの上ないのである。
現在のレベルは45だが、ここまで上がった理由にも他に効率的な手段が複数あるのだ。
まずはレベル上げにおいて詠唱など唱えてる時間など無駄であり、詠唱整理を使えばいいだけの事、私の部下は詠唱を使う者は多いが、大抵が唱えている間に殺されている。
それくらいこのパンドラム世界はシビアなのである。
ただし詠唱整理するには何でもいいが棒がいる、特に闇呪文を使う私にとって必要なのは死樹、つまり必要なのは枯れた木の枝である。そこらにある木を枯れさせる事など私にとっては容易い事この上なく、木の枝に魔力を流し込む事によって木と私は一心同体となり呪文を放つ事が出来るのだ。
座り込んでも尻が余るくらいの石の上に乗っていたが、頭が三つ着いた鋭い牙を持つケルベロスが6体同時にこちらにへと向かってくる、当たりだ、一気に殺せる事は私にとって都合の良い事この上ないのである。
「黒血の雨……」
枯れ木枝の先端から黒い霊気が球となり、途端ケルベロス六体は一斉に爆発を始める。
「きゃあああああああああああああああ!!!」
「うわあああああっ!?」
今の悲鳴は聞かなかった事にして欲しい、それよりもまず何故私がこの呪文を使っているのかというと、まず第一に効率が良いのは言わずもがなだが、標的のヘモグロビンを惣闇色に変えてから爆発する事によって臭いを何倍も強烈な臭いにさせ仲間を呼び寄せるのである。単に色が黒くなっただけではなく、闇属性の成分がそこには10割型含まれている。そしてケルベロスは闇属性の魔力を持っているのだ、ただでさえ人間より鼻が何倍も利くケルベロスにとって、この黒血の強烈な臭いは遠く離れていても勘付く事ができるのである。
死んだケルベロスの黒血の一部は臭いの光属性の魔袋で回収する事にする、何か厄介事があった時に使う機会が訪れるであろう。
「に、臭いますゆうくん……」
「まじでくせえ、ゲームの世界にしちゃリアル過ぎないかこれ?」
とまあ、説明を遮ってまで彼らの生存報告をする程私の懐は深くなかったが、御覧の通り今ここにいるのはあの忌々しい下等民族共が群れた世界に住んでいる仲良し兄妹である。
約束をした以上こいつらは私の下僕だ、どんな貧弱な生物だろうと私の目前にいる以上死なれては私の落ち度にもなりかねないので職業を選んできてもらい平地に連れて来た訳である。
本当は私がレベル上げをやる開始時点で同行させたかったが、この下等民族ときたらどうやら一日に8時間以上寝るのが基本だと言い放ち中々起きなかったのだ。
流石は下等民族、ついでに私が睡眠に使う時間は1時間だ、起きてからずっとここでレベル上げをしていたためにここまで高レベルになったのも理由の一つではある。
そういう訳で今からレベル上げを開始するのだが、一発でもケルベロスの攻撃を食らえばこの下等民族共は即死だろう、しかし私がいる以上それはありえない、私が直接教えをする以上は人間でトップレベルの強さになってもらわないと困るのでな。
らしくは無いが少し楽しみでもあった、私の育成能力がどれ程のものか、この下等民族を使って測れるのである。帝国では何度もやってきたのでな、それなり実績もある。
「私の言う通りの職業についてきたか?」
「ああ、確か俺が治癒師で咲が何もなしで良いんだよな?」
「そうだ」
「ゆうくん、何で私は職業無しなのですか……?」
「単純な話無職の方が技能は付かないが基本能力値が上がりやすいからだ、ただでさえ能力が低いお前は竜人と違った効率的なレベル上げをしなければならんからな」
「ひぃっ……わ、私頑張ります!」
女の方は兄である竜人の袖を掴みながらプルプルと震えていた、言葉では平気そうに装っていたがあれ以来私の事が怖くて仕方がないのだろう、人間らしい良い反応なため気持ちが良い。
ついでに私も無職だがある程度レベルを上げたため魔法使いに転向するつもりだ、この状態なら能力値は高くなっても技能と魔法が身につかないのでな、これこそ正に一巨大帝国を作り上げた効率的な育成方法なのである。
「まずはお前達に呪文を唱えておこう、能力転換、アタックフォルム!」
竜人と女の体が霊気によって包まれる、一先ずケルベロスと戦うには攻撃を特化させる必要があった。
「え? 何が起こったんだ?」
「能力値開示」
二人のステータスが一斉に開示される、本来この呪文は敵に対して唱えるものだが、今は使える魔術も教科書通りの基本的な術だけなのだ、原始的なやり方かもしれないがこの姿になった以上は割り切るしかない。
「どうだ? 流石のお前達でもステータス値が変化したのは分かるだろ?」
「おおお!!!」
「ええええ、私の体力1ですか!? ゆうくん、私こんなんじゃ死んじゃいますよ!」
須田 竜人 16歳 男 種族:人間 レベル 1
体力:1
物攻:74
物耐:1
敏捷:1
魔力:1
魔攻:0
魔耐:1
技能:治癒回復(小)
魔法: 無し
須田 咲 16歳 女 種族:人間 レベル 1
体力:1
物攻:20
物耐:1
敏捷:1
魔力:0
魔攻:0
魔耐:1
技能:無し
魔法:無し
「どうせお前達は一発当たれば死ぬんだ、だから全てを攻撃に特化してやった」
「ほお!スリル満点だなこりゃあ!」
「ひいいいいいいいっ! 私戦いたくありません……」
妹の方はあまり変わってないと思うかもしれないがダメージ1さえ食らわせればそれで充分、タイミングが良い事にケルベロスもおいでなさった。五体のケルベロスとの距離は徐々に狭まり、その距離わずか30メートルになった辺りで呪文を唱える。
「死に際の黙示録……」
闇の霊気がケルベロス五体の体力を一匹残らず吸い尽くす、それは1になるまでだ、ステータスを見るまでもなく奴らの体力は1になっているのである。
「呪いの生縛……」
ケルベロスの動きが地面から突如として湧き出た鎖によって巻き付かれる。ケルベロスは指一本すら動かせないでいた、ただただ吠えるしかない、鎖は闇の波動によって繋がれているため、並大抵の物理攻撃力を持っているケルベロスでは抜け出す事は不可能だ。
「よし、今だ!!! 敵を殴れ!」
「おっしゃああ!!!」
竜人はケルベロスの頭を殴りつける、その一発でケルベロスの息は引き取った、これも全て計画通りだ。
次の一体も竜人が倒す、これで経験値はかなり手に入った筈だ。
しかし、残りは三体だ、竜人の攻撃でしかケルベロスの数は減らせてない状態なのである。
「おい女!!! お前も早くケルベロスを力一杯殴れ!」
「む、無理です……」
「大丈夫だ安心しろ、この鎖に繋がれている状態じゃケルベロスが身動きを取ることは絶対にない!」
「で、ですけど私……」
「つべこべ言わず殴れ!!!こっちだってお前みたいな愚図に魔力を使ってやるのは惜しくてやってるんだ!!!」
「無理ですよ……私そんな怖いモンスターを攻撃なんて……絶対嫌です!」
「何……だと……?」
思わず怒り狂ってしまった、頭からプチンと何かが切れるような音がする、知識をそのまま連動していたとしても感情は人間そのものなのか。
私がここまで怒り狂ったのも生まれてこの型一度たりともないのかもしれない、いや一度だけあった、それはストライトに殺された時、その時と正に今は同等の怒りである。
そのため私は生まれて初めて感情的に、その鎖からケルベロスから放してしまう。
これは人間であるが故の由縁なのだ、だからこそ私はこの女が死んでもいいと思い鎖を外した。
解放されたケルベロス三体は体力1ながらも構わず女の方に走ってゆく、その時奴らを帝国の支配下に入れていなかった理由を思い出した。
奴らはただ同族以外の視界に入った生物を食らう事しか能が無い下等な生物だからである。