「侮れない下等生物」
「咲を仲間に外せって、マジで言ってんのか!?」
「私がくだらん嘘をつく筈がないだろ」
「いつもみたいなゲームじゃないんだろうな...」
「ゲームなもんか、さっさと選べ選択は二つだ」
男の方は俯きながら答えを考えていた、思わずニヤりと感情が表情に出てしまったが、我ながら完璧な作戦だと思う、これには自負してもいい。
それもその筈、家族というものは絶対的な信頼関係がそこに存在するのだ、もし私の部下に家族関係を持った者がいたとしても、私よりまず家族を第一に優先して防衛するだろう、生憎私の部下にそんな慮外者を入れることは無いが。
それに家族の犠牲となって死んでいった者は今まで腐る程見てきた、つまりはこいつが妹を犠牲にして私の仲間になりたいという選択肢はありえないと断言できるのである。
「うーん……よし分かった、咲、すまないけど俺は悠人と一緒に冒険をする」
「なにっ!?」
「竜人兄さん!?」
妹の方もあまりに意想外な回答に虚を衝かれたのか、目をまんまるとさせその場で固まっていた。
現に私も予想していなかったのだ、私の手に入れた知識は間違っていない筈だ、だから奴はハッタリを言っているに違いない。
「竜人兄さん一体どういうつもりなの!?」
「わりっ、悠人はあんまり女が得意じゃなくてな、だからこれからは二人で行動するよ、これでいいだろ悠人?」
「兄さん…」
こいつ……、一体どこまで本気なのか。
私が今まで見てきた中でここまで家族に非情な行為をした奴は初めてだ、それにこいつの行動は人間としてどうなのか、許されるべきじゃないだろう。
例外の人間がいた事にストライトの事を思い出しムカがきたのか、感情的になり思わず舌打ちを鳴らしてしまったが、渋々「分かった」と受け入れる。
そもそもの発端は私から言い出した事だ、ここで約束を反故にしては魔王としての面子が潰れる。
「おっし! じゃあこれで俺達は仲間だな」
「ああ、だがしかしそこの女は駄目だ」
「うう……本当に私を置いていくの兄さん?」
兄は目前にいる妹に対し余裕の薄ら笑いを見せつける、こいつはどちらかというとアンデッド側とも言える外道っぷりだ、もしかすると生まれた種族を間違えたのかもしれんな。
「では、約束も約束だ、そろそろここを出るぞ」
「いや、ちょっと待った」
「今度は何だ?」
「咲も仲間に入れる」
「っへ!?」
意想外な回答に思わず素っ頓狂な声をあげてしまった、何を言い出すかと思えば仲間に入れるだと?
ふざけるんじゃない。
「お前にそんな権限があると思うな! 仲間と言っても私があくまでリーダーな事に変わりはないのだ!」
「へへん、俺はちゃんと聞き逃していなかったぜ、お前は最初、条件を出す前にこう言った筈だ、『だったら私が出す一つの条件を呑めばお前の言い分を何でも聞いてやってもいい』とな、何でも言い分を聞いてやるんだろ?」
「っなぁ!?」
またしても素っ頓狂な声をあげてしまう、私がなんでも言い分を聞いてやるだと?そんな馬鹿な条件いくらんでも出すわけが……否、他種族より何倍もの良質な頭脳を持った私は鮮明に覚えている、確かに言った、私は言ってしまった。
何故あの時の私はそんな無茶な事を言っててしまったのか……それは絶対的な自信があったからである。
家族の信頼関係という何とも下等な民族らしい心情は、私には分からないが知識としてそれは絶対的なものだと聞いていた。
それを、それをこの男はたった数分で打ち破ったのだ、論破してきたのだ、たかが人間風情の分際で……。
約束は反故するべきか、しかし私は魔王としての面子がある、それをこんな下等民族に論破されたからという理由で反故にしてしまえば、パンドラム世界の覇者になる機会は永遠に訪れない。
痛恨のミスだ、痛恨の……たかが人間風情に……ぐぐぐ……。
「いいだろう」
「ん?」
「仕方がない、お前達兄妹を仲間に入れてやる」
「ほ、本当ですか!?」
妹は兄の身体に抱き着き、泣きついている、自分はもしや裏切られたのではないかと思ったのだろう、
これが当然の反応だ、私は少し安心した、自分の知識に誤りがあってでのミスは普通のミスより何倍ものダメージが大きい。
「何泣いてんだ、ゲームに決まってんだろ」
「っへ!?ゲーム……?」
「だってそうだろ、いつも俺達にゲームしかけてきてんじゃん、そうだろ悠人? ゲームだよな」
これには唖然とするしかなかった、これがゲームだと?お前達の家族関係を切り裂こうとしたのだぞ、それがゲームな訳あるか。しかし、この兄妹ときたら楽しそうに、何も無かったかのように談笑している。
「ゲームだったんですねゆうくん! 私ゆうくんの真剣な演技にちょっと驚いちゃいました!」
「こいつは本当厨二病だからな〜、そんでさ悠人、いつまでそうしてるつもりなんだ?」
「何がだ...」
「何がって、とぼけるなよ。いつまでそんなダサい話し方してんだよ、かっこいいと思ってるんだろうけどダサいぞその喋り方」
「......」
返す言葉が思い付かなかった、奴に一杯食わされたといった処か。誇り高き魔王である筈なのにこの始末、何とも無様なものだ、私は人間に言い負かされたという汚点を背負いながらこれからも生きていかなければならないとは……。
今日はこれだけですみません、今日宝石の国放送なんで皆見ましょう!