「ステータス開示/魔王より魔王」
何かによって殺された後に、私は意識が途絶えた。
それに気づけたのは再び暗闇の世界が四方八方に拡がっているのを認識できたからである。しかし数秒後、何故そこに暗闇しか無いのかが分かった、目は開いておらず開けない状況に陥っているのだ、
目に覆われた柔らかい温もりは、瞼を開かせないように強く密着している。
「だ〜れだ?」
だ〜れだ、だと...?
聞こえたのは女の声、しかもはっきりと聞き覚えのある声だ、それも数分前に。
手は封じられていなかったため、目元から覆っている何かを掴んで引き離すと、案の定それはさっき話していた男の隣にいた女の手であった。
通りで温もりがある訳だ、我々アンデッドには肌の温もりも魂の温もりも無いため、この感触は初体験ではあったが想像以上に気持ちの悪いものだ。
「ゆうくん、ちょっとノリ悪いです〜」
「全くだ、せっかく可愛い妹が軽くボケたのにな」
こいつらは兄弟か、元々死霊魔術師の召喚によって生み出された私達には兄弟という概念は無い。
聞いた話では他種族での兄弟というものは絶対的信頼関係がある仲と聞く、もし私に兄弟というものがいれば重役を任せただろう、しかしいなかったために、任せたのはストライトという足が速いというだけしか取り柄のないゴミ屑だ。私の忠誠心を誓わせる体質を切り抜けたのは褒めてやってもいいが、そもそもアンデッドというものに信頼という安易な言葉を置いた私の責任でもある。
しかしここまで私が怒りに満ちているのもこの人間の身体を操っているのが原因だろうか、知識は連動されてるが、身体は全くの別物、全くもって私も厄介事に巻き込まれたものだ。
「そういえばここはどこだ? 周り何も無いけど」
「うーん、田舎の方に来ちゃったのかな?」
「流石に田舎でも田んぼの一つや二つくらいはあるだろ」
確かにその通りだ、この場所は私が死ぬ前にいたあのゴチャゴチャした建物が建っている世界とは一転して違う。
それにこの二人はどうやら自分が死んだ事に気付けていない、何とも幸せな思考をした事だ。
しかし死後の世界ならば地獄という可能性もあるが、どうもこの平地には見覚えがあった。
基本的に私達アンデッドは夜にしか活動はしないため、日が出ているこの平地に行ったとしても覚えている事はないが、図鑑でならこの場所の光景が写真と共に載っていたのを思い出せる。
確かここはジオラル帝国を中心に、東南に向かって10060kmの場所にある平地な筈だ、最も近い町は小さな町ではあるが、人間が住むコクーン城下町といった処か。
詰まるところここはパンドラム世界で間違いない、なるほど……神はどうやら私はまだ死ぬべき存在では無いと判断し、人間の体だけを与えて再びこの世界に戻してくれたのだろう。
なんて私はついているのか、
人間になったのは正直気に食わないが仲間達を見つけて事情を話せば分かってくれる筈だ、そのためにもまずはコクーン城下町で物資を揃える必要がありそうだな。
「おいゆうと、お前一人でどこに行くんだ?」
「私はゆうとではなくジオラル・モーガンだ、貴様らに構っている暇はないのでおさらばさせてもらう」
「おいおい、お前本当に頭ぶつけたんじゃねえか……?」
人間の戯言に一々耳を傾ける暇はない、
構わず歩を進めると、右肘を後ろから両手で掴まれる。
「お願いですゆうくん、少し待ってください」
「何のつもりだ?」
「ゆう君が竜人兄さんと何があったかは知りませんが、今は状況も状況なのでお願いですから仲良くしてくださ~い!!!」
「おいおい、俺こいつと喧嘩なんてしてねえぞ?」
やれやれだ……いつまで私をそのゆうととやらと勘違いしているのか、これだから人間は知能が低くて困る。
「よく聞け愚民、私はそのゆうととかいうおかしな奴でも無ければ、貴様らと同じ人間でもない、命が惜しいならこれ以上私に関わるな、分かったか?」
私の言葉がよっぽど突き刺さったのか間が空いた、かつての仲間だった相手が侮辱的な言葉を放ったのだから相当効いたのだろう、怒りという意味ではストライトに裏切られた私からすればこいつらの気持ちがわからんでもない。
こいつらが何と言い返すか、正直見物だったが、しばらくすると口を半開きにしては閉じの繰り返しで唇を小刻みに震わせている、相当ショックを受けたのだろう。
「んふ……ふはははっはっはは!!! いや~それは傑作だ!お前のゲーム好きもとうとうここまで来ちまったか、田舎に飛ばされただけでそんなに舞い上がるなんて……ふはははっはっは!」
「ゆうくんっ…っぷ、ごめんなさいおかしくて思わず笑いが」
なんなんだこいつらは、私は侮辱のつもりでこいつらを罵ったのだが、
どうやらこいつらの国の人間はマゾの性質が強すぎたようだ。
私の部下にも変態的な部下は存在したが、まさかこいつらも共通した性癖を持っている訳ではあるまいな、だったら尚更関わるべきではない。
「あっ逃げた!!」
「ちょっと待てってゆうと、悪かった!俺たちが悪かった!」
全力で走った、この貧弱な体のせいでたった1kmでも体力は大分削られ、体内からは水滴が流れ出す。
どうやらこれは汗というもので、人間の体温を調整するための冷却システムだそうだ。
永久に走れない、もしくはテレポートが無いのはとても不便だと身に染みたが、何はともあれコクーン城下町には無事辿り着いた。
「ようゆうと、お前いつも引きこもってんのに案外走れんのな……」
おまけに後ろには付いてこなくてもいい、さっきの人間共がよくも遅れず着いてきたようだが……。
とにもかくにも、まず私に必要なのはステータスを開く事である。
この世界じゃ万国共通、どの遺伝子を持ったどんな生物でもステータスを開けるのだ、そもそも戦闘において力を手に入れないというのは論外、そのため町の中心に建っていた宿屋で魔ペンを借りる事にする。相変わらず後ろには二人の人間共が私の糞みたく付いてきていたが、構わず間ペンを握り、手のひらに魔法陣を書き込んだ。
この魔ペンは詠唱を使わずとも、書くだけで勝手に魔法が発動される便利なアイテムだ。手のひらに魔法陣を書き上げてから数秒後、徐々に文字が浮かび上がってくる。
鬼城 悠人 16歳 男 種族:人間 レベル 1
体力:20000
物攻:900
物耐:10000
敏捷:1000
魔力:300000
魔攻:900000
魔耐:500000
技能:魔術耐性(強)・物理耐性(中)・闇魔術ほぼ無効果
魔法:超速移動・闇魔術・雷魔術
ステータスをざっと見てみたが、やはり力はかなり落ちていた。
他の人間から考えれば能力は足元にも及ばないほどに突き放しているだろうが、それでも浮遊スキルを持っていないのが少し不便である。ちなみにここまで焦って魔ペンを借りにきた理由は、ステータスを開かなければ能力値が具体化されないからだ、故に今の状態で後ろにいるこいつらと競争でもすればもう絶対に負けることはないだろう。
そして一番重要なスキルはなんといっても闇魔術ほぼ無効果、
これは私が霊魂だった頃にも持っていた技だが、99%の闇魔術を遮断できる技能である。
いわゆる部下にもし裏切られたとしても全く効かないという事だが、今回は私が人間の姿をしているため部下も本当に私がジオラルなのか懐疑的になる筈だ。その時にこそこのステータスを見せつければ部下達も私がジオラルの生まれ変わりだと納得してくれるだろう。
ついでに私の部下には闇魔術以外を使う例外もいて、それがストライトだが、奴は物理攻撃に特化していたため私の寝首を簡単に掻く事が出来たのだ、何とも嘆かわしい事である。
「へえ〜面白そうだなこれ、俺も描いてみよ」
ん? 奴らは一体何をしてるんだ。
「ほら、咲も手出せよ」
「はい」
「ほれほれっと」
特別興味も湧かなかったためこいつらが何をしているのか見ていなかったが、突如としてステータスが具現化される時の音が鳴り響く。
須田 竜人 16歳 男 種族:人間 レベル 1
体力:20
物攻:10
物耐:10
敏捷:10
魔力:30
魔攻:0
魔耐:9
技能:治癒回復(小)
魔法: 無し
須田 咲 16歳 女 種族:人間 レベル 1
体力:3
物攻:2
物耐:4
敏捷:10
魔力:0
魔攻:0
魔耐:5
技能:無し
魔法:無し
二人の手のひらには魔法陣が描かれていた、私の真似をして必死にステータスを開いたのだろう。
それにしても、いかにも人間らしいステータスな事だ……。
特に女の方のステータスはそれ以上のとんでもステータスである、人間の事はあまり詳しくはないが、それにしてもこいつはワーストレベルの雑魚さといえるくらいにステータスは腐っている。
気の毒と思ってやらないでもないが、これから二人で冒険して行くにしても少しこれでは無理があるだろう、あの女にいたってはスライムの一匹ですら狩れないんじゃないだろうか。
悪いが私はその間、悠々とレベル上げをさせてもらおう、短い間だったが私が再びジオラルの座についた時に殺さん事を祈るんだな。
「おい、ゆうとどこ行くんだよ!」
扉を開けてここを出ようとした時だ、全くこの兄弟は……どこまで私に付き纏うつもりなのか。
いい加減にしなければ力づくでこいつらから離れなければならない。
「何だ、そんなに私の部下になりたいのか?」
「何言ってんだ、俺たち昔からの友達だろ、本当に忘れちまったのかよっ!」
良い加減思い違いも甚だしいぞ、こいつらに現実を見せつける必要性も無いだろう、いっその事処理してしまおうか。
いや、一つ良い事を思い付いた、物事が解決しないからすぐに暴力を働こうとする奴は野蛮だと思い込んでいたが、妙案のおかげでその必要もどうやら無くなったらしい。
我ながら素晴らしい知能だ、これが私と人間の差と言っていいだろう、ククク……。
「そうか、だったら私が出す一つの条件を呑めばお前の言い分を何でも聞いてやってもいい」
「条件?」
「ああそうだ、お前は仲間に入れてやろう、ただしそこの女、お前は仲間にしない、それが条件だ」
~鬼城悠人視点~
いつも通り寝て、いつも通りに起きたら、そこはいつものベッドとはまるで違い、その部屋ではスケルトンが現れたのでした。
ゲーム好きだから慣れていたけど、普通の人間なら驚きのあまり腰を抜かしていた処だろう、
どうやら俺は転生に成功したらしい、死んではいなかったためこの場合転生という言葉が正しいのかはよく分からないが……。
何はともあれ、一日が経った頃にはモンスターを狩りたいという俺の無茶な要望を仲間が聞き入れてくれ、今はこの草原で雑魚ではあるがモンスターを狩っている最中であった。
条件として護衛を付けなければならないと申し立てたのは今隣にいるこのヴァンパイアっぽい女、
いや、正確に言えば恐らくヴァンパイアだろう、というのも人間の血液を吸っているといった話から彼女がヴァンパイアというのは明白であろう。
真っ赤な瞳に鋭い爪、一見恐ろしさを感じさせるような見た目ではあるが、小学生低学年と同じくらいの低身長さな癖に、ありえない程の豊満な胸。そして紫髪という、子供サイズなのに大人のような魅力がムンムンと彼女からは漂っていた、声も勿論色っぽい。
そしてもう一人護衛は付けられていたが、そのもう一人は一番最初に目にしたスケルトンである。
こいつはいうまでもなく骨だ、それ以外に特徴は思い浮かばない。
右手には大きい栗色の杖を持っていたがこいつ一応魔法を使うのだろうか、
一応俺も右手には最初の十字架型になっている杖を手にしていた、どうやらこれは松葉杖ではなかったらしい。
「なあスケルトン、そろそろ魔法を使いたいんだけど、簡単な攻撃魔法の一つでも教えてくんね?」
「っは、はい、ジオラル様、私にはルーンという名前が……それと、詠唱はもしかして全てお忘れで?」
「忘れてなかったら聞かねえってえの!」
「ひいいいいいいいいいいいっ! すみません、ではお耳をお貸し頂けますか」
スケルトンから魔術を教わった、確かにこれなら簡単に覚えられそうだ。
「よしっ! 言ってみたかったんだこれこれ! えっと、汝、汝を焼き付くす黒き稲妻よ……今、雷光と混同し全てを滅ぼせ!、こう?」
次の瞬間目前にいたスライム約30体は一瞬で跡形も無く消えた、
この俺は立場上一応魔王らしいが、何故こんなスライムを狩っているかというと、
敵が強敵であればある程、どうやらうちの軍の部下になっているらしく、安易に殺す事は出来ないそうだ。
「お見事っ! とてもお見事ですジオラル様!」
「ふうっ、いや~どうもどうも、っん? 何だあれ……」
遠目からではあるが、はっきりと見える、人間の時とは打って違う程、この視界は遠くの光景が鮮明に見えた。
あれはゴブリンだろうか、ゲームでは見た事があるが本当に目の当たりにできるとは思ってもみなかった。
しかしゴブリンが襲おうとしているのは間違いなく人間だ、しかも女の人である。
ここで俺があの女の人を助けたとすれば、この二人は俺をおかしな奴だと思うだろう。
しかしここであの人を助けなければ本当に俺が人間で無くなってしまうかもしれない、魂まで魔王になってしまってはこの世の終わりである。
足に力を込めて地面を強く蹴り上げると、身体が宙に浮かび上がり、一瞬でゴブリンの元にまで辿り着いた、ゴブリンは顔に汗水を浮かべながら焦っている様子だ、確かに鏡で見たがこの姿ははっきり言って不気味だ、これが急に自分の方まで飛んで来たら驚くのもまあ分かる……だが、悪は許さない!
両手に握る十字架の杖の先端をゴブリンの頭にぶつけ、物理で殴りつけると、
ゴブリンの頭は吹き飛び、地面を転がっていく。
グチョッ……トントントン。
予想以上にグロイ、ゲームならダメージを受けて死んでくれるだけなのに、
それにこの効果音も俺的にあまり好きではないな。
「大丈夫ですか?」
人間の女性に手を差し伸べると、彼女は驚いた様子で震えながら自分の足で立ち上がった。
「コクリッ」と首を縦に振るのがやっとのようだ、よっぽど怖かったのだろう。
「ジオラル様! あなた一体何を!?」
「え? 何って、困ってる人いたから助けたんじゃないか」
「ゴブリンは……私達ジオラル帝国の支配下に入っているんですよ! あわわ……これをゴブリン軍王が知ったらどんなに怒るだろうか……」
「ん? だったらばれないように隠せばいいだけだろ」
「っへ!?」
「リーダーは一体誰と思ってるんだ、そのゴブリンなんちゃらじゃねえだろ?だったら俺がルールだ、今すぐその死体を隠せって言ってんだ」
今書き終わりました(汗)