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プロローグ


命が亡くなる時というものはほんの一瞬だ、3億年もの歳を重ね油断してしまったのだろう。

寿命などないアンデッドの私からすれば、首を切り取られない限り死に陥る事は無く、

それも私の6960もの多彩なスキルを駆使すれば敵に攻撃を与える隙を作る事はまずない。

だが今回私が死んでしまったのは100年来からの部下であるストライトによる裏切りによってだ、まさか信頼できる部下が私の寝首を掻きにくるとは想像もつかなかった。


どうも私は体質上、近寄るだけで忠誠心を誓わせるオーラというものを持っている。

そのため今まで部下に裏切られた事は無く、親ですら私の生まれ持った力に脅威を感じ、

軽い命令なら何でも私の意思に応じてくれた。

しかし今更あれこれ考えていても仕方がない事だ、今まで理由があれど沢山の生物を殺してきたこのアンデッドの身である故、死後の世界は今までに味わった事のないような地獄を目の当たりにする事になるだろう。

アンデッドとして魔王の重責を担っていた身だ、例えそれがどのような地獄であろうとも、

私は第二のステージとしてその世界を歩んでいこうと思う。


意識が戻り始めた時は、再び暗闇の空間だった。

自分の目が開かれているのは感覚からして分かったが、開こうが閉じようが結局見えるのは暗闇でしかない。

次に手を宙に振り回すと、何か角のようなものに手の甲にぶつかった。


「い、痛っ!」


思わず叫び声をあげてしまう、痛みというものを感じたのは生まれたての頃親にぶたれた時以来だろうか、痛みが消える事はなく手の甲にはまだジンジンと残り続けている。

しかしそれと同時に納得しつつある自分もいた、

ここが恐らく地獄と言われている処だろう、そうに違いない。

だとすると、これがセカンドライフとして生きていかなければならないという新たな経験として世話になるという事だ、これが私にとっての新たな人生の舞台なのだろう。

確かに恐ろしい事だ、理不尽な痛みを感じさせられた挙句、視界は完全に潰されている状態である。

前の世界にいた全長1万メートルの黒龍を狩った時よりもよっぽどこの世界は恐ろしい、

なんせさっきから密かに使おうとしているスキルも全く使えないのだからな。

生きてきた中でここまで苦労したのは初めてと言っても過言ではない、

まさか私の能力を封じられるとは夢にも思わなかった。


「ゆうと、あなた何してるの?」


ゆうと……?

突如として聞こえた女の声、大分老けたものだが……。


「あんた学校もいかずにいつまでゲームやってんの! いい加減しなさい」


頭に何か硬いオブジェのようなものがぶつかり、

それが頭部から離れると暗闇だった視界には色彩が戻り始める。

まず正面にいた生物の正体は人間ヒューマンだった、

そして辺り一体に映る風景は机やベッドだけじゃ飽き足らず複雑な者があちらこちらにばらまかれている、一体これはどういう状況なのか。


「問おう、ここは一体どこだ?」

「はあ?」

「う……これは失礼した、名がまだだったな、私は地獄から第三異空間のパンドラム世界より覇者となる事を志している、ジオラル・モーガンだ」

「訳の分からない事言ってないではよご飯食って学校行きなさい!」

「痛っ!」


またしても頭に激痛が走る、

しかも先程の痛みとは違って物理的痛みだ、

しかも人間風情による攻撃によってだ。

いくら海より広い心を持った私とは言えこれには我慢ならない、もはや何故痛みを感じる原因が何かという事は一切どうでも良くなっていた。


「下で待ってるから早く着替えなさいだらしない」

「なんだと...」


この誰よりも身だしなみに気を付けているモーガンに対してあの老けた女はだらしないと言いやがった...一体どう言った神経をしているのか。

しかし誇りでも付いているのかと思い念のために自分の身体を見回すと、下半身にはパンツ一枚、上半身はTシャツのみと、誰が見てもだらしないとの一言で一蹴されそうな格好を人間に見せつけていた。


「はぅんっ!?」

「たく、寝ぼけてる暇があったら顔でも一変洗ってなさい」


女は右手で握った衣服を私に向かって投げつけると、部屋を出て行く。文句の一つでもいってやりたかったがとりあえず今はまともな格好に着替える事にした。


自分の異変に気付いたのは顔を洗いに鏡に行った時だ、顔を洗っていると肌の硬度があまりにも柔らかすぎる。鏡を見てみるとそこに映っているのはかつて地上最強の生物と言われたアンデットの姿ではなく、いかにもまぬけ面をした人間の顔であった。


これは一体どういう事なのか...。


訳が分からないので鏡の前で、

とりあえず身体を手振り動かしてみるも、

そこに映っている姿は変わらず人間である。

この鏡におかしな魔法でもかけられてるんじゃないかと思ったが、自分の手で肌を触れてみるも質感は人間独特の柔らかさがある。

駄目だ、頭をいくら捻っても状況が吞み込めない、俺はこの間抜け面をした人間にでもなったというのか。


「ゆうと? 何してるの、早くご飯食べなさい」


だとするとこの女は私の母親、そんな馬鹿な事がありえるのだろうか。

いや、ありえる……私が最も忌み嫌っているのは最弱、正しく人間がそれに最も近い存在なのである。

現に私の部下に、最も貧弱であるといわれる人間は仲間に入れない程に弱く、どれだけ優れた能力を持っていたとしても所詮は人間、確かに知恵自体に光るものはあるが、私が人間になるという事自体最も嘆かわしい事なのである。


故にここは地獄、なるほど……神がもしいるのだとするのならば完全に私を知り尽くしている訳だ。


「私は出かけるぞ」

「ちょっとゆうと!? ご飯は?」

「また帰ったら食べる」


一応にも宿主の母親であろう人間だ、ここは気を遣わせる言葉を使うのが最も人間的な行為であると言えよう。それに万が一私がこの体でセカンドライフを歩まなければならないのならば、場合によっては人間として生活する可能性もあるのだからな。


スキルが使えない以上下手に動くのはいくらなんでも愚行ともいえる行為、しかし情報が手に入らない限りはこの状態が悪化するだけである。

私が打つべき選択肢はまず最初に情報を集める、そして何でもいいから元の世界に戻る方法を見つけだすことである。

神が私にふさわしい姿が人間なのだと定めたのだとしても、私がそれを拒む以上その選択肢は必ずしも正しいとは限らない筈だ。

町中を歩いていると、最初に目に入ったのは私と同じ格好をした男、しかも複数である。

薄々気になってはいたが、この真っ黒な上着にボタンが複数羅列された衣服は私の世界で見たことがない。

これがこの世界の共通服なのだろうか、しかし見た処他に歩いている人間達は千差万別と言える程に様々な格好をしていた。


「お、ゆうと! 今日は遅刻じゃないのか!」

「ゆう君おはよ!」


人間観察をしている最中に話しかけてきたのは男と女だ、ラッキーな事に男の方は私と全く同じ黒服に黒ズボンを着ていた。

彼らが私に話しかけたという事はこの服自体に特別な意味があるのだろう、更にこいつらはこの身体の宿主の知り合いとも言えそうだ。

共通的な何かがあるのならば是非とも有力な情報を聞き取りたいが。


「やあおはよう諸君達」

「え?」

「朝から元気ねえゆう君は~」


私の一言一句が彼らには冗談に聞こえたらしく、二人は少し戸惑ったような表情で微笑みを浮かべていた、

しかし仕方のない事だ、こちらとしても人間の口調に合わせるのはとても窮屈なのである。


「まあまあ今日はボケは無しで、さっき咲と宿題の話しててさ、ゆうと、お前終わったんだろ?」

「なにっ?」

「とぼけても無駄だぞ、お前は学年で一番成績良いんだから終わってない訳ないだろ」

「何だその宿題というのは」

「はあ? お前ゲームのやりすぎでとうとう馬鹿になっちまったか?」


今こいつ私に馬鹿と言わなかっただろうか、あまりにも聞いた事がない単語だったため思わず聞き流してしまったが、万死に値するだろう。しかし何もやり返せない、これこそ正に地獄というものか。


「だからゆう君に頼っちゃ駄目って言ったでしょ~? こういうのは自分でやるの!」

「次からちゃんと自分の力でやるから頼むよ、今日だけ、今日だけ写させて」


一生懸命懇願するように手のひらを合わせながら頭を下げる男だったが、

女の方は認められないというのを意思表示しているのか、首をぷいっと45度曲げ、男の方から目を逸らす。

こいつらがこの身体の宿主とどういった関係を持っているのかは知らんが、

はっきり言って邪魔だ、頭の悪い奴といくら会話を繰り広げた処で情報を手に入れる可能性は皆無である。

悪いとも思わないが、この人間達から情報を手に入れるのは辞めた方が良いだろう、どうせならもう少しまともに会話できる同じ恰好をした奴と話してみたいものだが。


グシャアブシャア!!


私の聞き間違いじゃなければ今のは一つの生物が跡形もなく木っ端微塵に砕け散った音だと思うが……。

痛みを感じたのは一瞬だった、それが背中に触れた瞬間、そして背骨がその物体に粉々に砕かれ、身体からは魂が抜けるような気がした。どうやら神は気づいてくれたらしい、自分の選択肢が間違っていたのだと。


グシャアブシャア!!




〜鬼城悠人視点〜


目を覚ました時は黒ずくめの布が頭の半分を覆っており、

じいさんですら握らないような、何故か十字架で真っ黒の杖の先端を地面に下ろし重心を取る。

その杖が無ければ立つ事すら困難な程体は麻痺していた、

一体ここはどこでこの異様に大きい身体は何なのか。

自分自身ですら流石にこの身体を自分の所有物だとは思えない程のでかぶつである、

そして勇気を振り絞り黒布から手を出してゆくと、出てきたのは真っ白なグローブを付けた自身の手だった。断言できるが俺はこんなグローブなんてつけた覚えは一切ない、

もしこれを意味もなく嵌めて学校にいくと間違いなくクラスの連中に中二病だと嘲笑われるだろう。

この状態じゃ手がどうなっているかが分からなかったので脱いで見ることにしよう、さっきから曖昧な手の感覚が気になって仕方ないのだ。


「なんだこれ...」


手袋を脱いだ時に目に映ったそれは、

もはや手の形すらしていない真っ黒な霊気のようなものである。

恐らくこれは夢なのだろうと少し思ってしまったが、意識がある以上それを信じるのは中々に難しい事である。とにもかくにもまずは鏡が欲しい、夢だろうが何だろうがこの姿は本来の自分の物ではない。


「そんなバカな...ありえん...」

「え?」


突如として扉から出てきたのは骨、ただの骨だ。

ありえないと言いたいのはこっちだというくらいに驚いたが、リアクションを取る前にその骨は「お前達ー!!ジオラル様が復活したぞー!!」と叫びながら部屋を出て行ってしまった。

「一体なんなんだよここは……」とボソっと呟きながらも、ジオラルとは俺に対して言った言葉なのかと考える。どうやら勘違いされているようだが、俺の名前は鬼城悠人だ、俺をお前達亜人の仲間と思ってもらっては困る。

すぐさま部屋を出て、勘違いを解こうと骨の元に向かおうとするも、

目に見えたのは骨だけではなく、右からスケルトン、デュラハン、ヴァンパイアっぽい恰好をした女?、ミイラが立ち並んでいる。

俺の姿を全員が視認するや拍手は謎に喝采であり、思わず手を頭部に回して撫でてしまった。

この無駄な知識はこの日のためにあったのかと思うくらいのオールスターメンバーだ、全てがやりこんでいるゲームのキャラクターに存在しているので若干興奮しつつあった。


「大丈夫ですか?お体の方は?」


スケルトンの問いかけに「はい」と答えると、「おおおお!!!」という歓声が次々上がり始める。


「ジオラル様、あなた様は昔部下であったストライトという外道に寝込みを襲われました、誰もが死んだと思いましたが偉大なジオラル様が今も生きておられるのはきっと神が死ぬのはまだ速いと考えられたのでしょう!そして我々は今そのストライトを抹殺しようと懸命を尽くしているのですが、奴の足に追いつく事が出来ず逃げられてしまって……ジオラル様を失望させる行為、深く反省しております……煮るなり焼くなりなんでもしてください」


次にあれこれ早口で言ってきたのはヴァンパイアだ、「そ、そうか…気にするな」と言うと、目は徐々に潤い始め、涙を流し始める。


「こんな無能な私を許してくださるとは、なんて慈悲深きお方……元はと言えば、あのストライトとかいうクソのせいで...そもそもの話私はあんな田舎者を仲間にするのは反対だったんですよ!あの足しか取柄のないクソヤロウのせいで!」

「ま、まあとりあえずだ、襲われたせいか少し記憶が飛んでいてな、色々とここの事を教えてくれないか」

「ええ是非! この私で良ければ!」


そんな綺麗な顔をして『クソ』なんて言葉を使うのは良くないと思って止めてみたが

にんまりとした顔でヴァンパイアらしき女は八重歯を見せつけながら、笑顔を向けてくる。

何から何まで無茶苦茶ではあるが、ゲーム脳だったからか、この世界を受け入れるのは意外にも早く、うまくやっていけるかの不安もあったが、少し楽しさというのもあった。

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