case1-1:高校生 山田 友生
僕は「山田 友生」。高校三年生だ。
どこの高校だとかはいう必要もないだろう。
……今、僕は学校の屋上にいる。
何をしようとしているのか……自分でも分からない。
いや、本当は分かっているのかもしれない。
簡単なことだ。そこの柵を越えて向こう側にいこうとしているんだ。
なぜ……とみんなはきいてくるのだろう。
分からない。としか答えられないけど。
そんなやり取りになっても面倒だから、屋上につながる唯一のドアの鍵はかけておいた。
心の整理もできたので、僕は向こう側にいくために柵に近づいた。
そして、柵に手を掛けようとした、その時。
「―――――。」
背中の方から声がした。
おもわず、手を引っ込める。
おもわず、振り返る。
おもわず、「え?」と聞き返す。
僕の視界に入ってきたのは、背中に白い翼が生え、真っ白な……メイド服のようなものを着た、黒髪ロングの女の子だった。
鍵はかけたはずなんだけど。
「だーかーらー、『そんな死に方で大丈夫ですか?』ときいたんです。」
「そんな……って、これでも僕は考えた方なんだけど。」
僕はたまらず言い返していた。本来なら無視して柵を越えることだって可能だったはずなのに。ともかく、
「首吊りなんかしたら死体処理とか大変でしょ?」
「はぁ……。」
「溺死だと苦しいでしょ?」
「うーん……。」
「毒はなかなか手に入らないし。」
「……えぇ。」
なんだか、反応がイマイチな気がする。
「なんというか……いや、言うのはやめときましょう。」
女の子はそういうと、
「私はてんし・てんしの『ヨル』です。よろしくです。」
そう言ってきた。僕は思わず、
「てんしてんし?」
と聞き返した。
そしたら、彼女はあきれたような声で返してきた。
「はぁ……。だーかーらー!私は『てんし・てんし』です。」
……?
「てんしてんてんし?」
「……もういいですから。それより!」
彼女はこの話題を一旦打ち切り、元の話題に戻した。
「それで、死ぬこと……自殺に関してなんですが。」
さらっと彼女は口にしていた。
――『死』。
「飛び降りだって、死体処理大変ですし、この高さなら下手して打ち所良いと意識失わずに痛みとか感じると思いますけど。」
「うっ……。」
返す言葉が見つからなかった。
「だーかーらー、死に方ぐらい選びたいですよね?理想の死に方したいですよね?」
「な、なんだよ。」
僕に返す暇も与えずに、彼女は繰り返した。
「ね?理想の死に方したいですよね?」
「し、死ぬんならね。」
僕は思わずそう返してしまった。
「では、やってみますか?」
「え。」
「じゃあ、いきますよぉ~。」
彼女がそう言ったかと思うと、彼女は腕を振り上げ、その後、手を開いて僕の方に突き出し……
「月夜の晩によい夢をー。グッナイてんしー。」
そう唱えた。
そこで僕の意識は途絶えた。