表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

四季を紡ぐもの

国は、王による圧政に虐げられていた。

200万人という国民が、圧政により死んでいった。

国民すべてが王を恨んだが、この国で内乱が起こる事はなかった。

それは、王が四季を司る4人の女王を手中に治めていたからだ。

国民は、唯々、王に従うしかなったのだが。


そんな折、永き冬が到来する。


王の出した、お触れに多くの国民が困惑した。


「何が起こっている?」

旅人であるエバンスは、迷いの森に出向き、迷いの森の主である精霊に話を聞いた。

「春の女王が亡くなりました。」

「は?季節の女王は不死ではないのか?」

「恐らくは何者かに。」

「ならどうすればいい?」

「春の女王が祈りの塔に入らない限り、夏の女王は目覚める事はありませんし、冬の女王も塔から出る事も出来ません。」

「永遠に冬が続くというのか?」

「新しい春の女王を探してください。この国のどこかに生まれて居るはずです。」

「赤子なのか?」

「それは、私にもわかりません。」

「どうやって見分ける?」

「人にはない力を感じられるはずです。」

こうして、旅人エバンスの春の女王探しの旅が始まった。


エバンスの旅は苦難の道だった。

旅人であるから、旅は慣れているものの、国中は冬まっさかり。道なき道を歩く事も珍しくなく、冬の旅は危険と隣り合わせだった。

人ならざる力を持った女性の噂すら掴めず、春の女王探しは、難航した。

「会いたくはなかったんだが・・・。」

情報がない以上、エバンスはもっとも、会いたくなかった魔女の顔を思い浮かべた。

何を言われるかは、容易に想像できた。


「馬鹿なのか、お前は。」

西の魔女は、エバンスに会って開口一番そう言った。

エバンスの想像通りだ。

「情報が知りたい。」

エバンスは西の魔女にそう告げた。

「死相が出てるよ。すぐさま辞めるんだね。」

「このまま冬が続けば、国が亡ぶ。」

「亡べばいいさ。こんな国は。」

これもエバンスの想像通り。

「何でもいい。手掛かりが欲しいんだ。」

「私が教えるとでも?」

「わかった、北の賢者に聞くとする。」

「お辞めっ!」

北の賢者と西の魔女は、犬猿の仲。

お互い世俗を捨てた者同士では、あるのだが。

同族嫌悪。

その言葉がよく似合う、間柄だった。

何より、北の賢者は、対価として人に無理難題を押し付ける。

ある時は、右手だったり、ある時は左足だったりと、彼から情報を聞くということは、五体満足では不可能な事だった。

西の魔女は、何よりもエバンスの身を案じていた。

「お前の命は、母親が残した尊いものだよ。何故粗末にする?」

「多くの人の命が掛かってる時に、俺の命くらい安いものだろう。」

「そういうとこは、父親似だね。嫌になるくらい。」

「俺は父親を知らないし、あんたも教えてくれなかったろ?」

西の魔女は、エバンスの母親が死んでからは、エバンスを育てた、養母だった。

「知る必要はないね。あの男も万人の為に全てを投げ出した男だからね。」

「世俗を捨てた、アンタからしたら馬鹿らしい事なんだろうな。」

「ああ、そうだよ。身内や親族の為ってのなら、まだわからんでもないがね。知りもしない大勢の人の為に何で命を掛けれるんだい。」

「性分だから、仕方がない。」

「はあ。」

西の魔女は、深いため息をついた。

そして、諦めたように言葉を紡ぐ。

「さっきも言ったように。エバンス、お前は死ぬよ。」

「構わない。」

揺るぎない決意を西の魔女は感じ取った。

「東にお行き。国中、冬だというのに雪すら積もらない山があるよ。」

「ありがとう。かあさん。」

エバンスは、そう言うと東へと向かった。

西の魔女は、その姿が見えなくなっても、ずっとその方角を見つめていた。

もう二度と会うことがないであろう、息子の姿を、いつまでも。


「ここだけは、本当に春だな。」

東の山を見上げて、エバンスは言った。

雪も積もらない山があれば、人が集まりそうではあるが、人の気配は居ない。

近隣では、鬼の山と呼ばれていて、近づくものも居なかった。

「何者だ!お前は!」

エバンスの行く手を鬼が阻んだ。

エバンスは、じっと鬼を見た。

自分よりも遥かに小さい鬼を。

「おい、答えろ。」

6人の小鬼が、エバンスに詰め寄る。

「春の女王を迎えに来た。」

「「「なにっ!」」」

エバンスと小鬼たちの間に緊張が生まれる。

そして・・・。


「それはご苦労様です。どうぞ、どうぞこちらへ。」

小鬼たちは丁寧にエバンスを案内した。


山の中腹にある小屋のベッドで、春の女王は寝そべっていた。

「何だ、そいつは?」

女王は、小鬼たちに聞いた。

「女王様をお迎えに来た人です。」

「ふざけるな、わらわは、一生ここで暮らすのだ。」

その言葉に超迷惑そうな顔をする小鬼たち。

「女王様、祈りの塔へ行って頂けませんか?」

エバンスが、跪き、女王にお願いした。

「断る。」

「このまま、冬が続けば国が滅びます。」

「滅べばいい。」

「何を言われます。」

「貴様こそ、何を言っている?この国は、王の圧政により多くの人の命が奪われたのだぞ。」

「冬が続けば、何十倍もの人が死にます。」

「死んでいった者たちの事は、どうでもいいのか?」

「はい。」

エバンスは言い切った。

「なんとも非情な男よ。貴様は、褒美に何を望むのじゃ?金か、権力か?」

「何も。」

「は?」

「何も望みません。私が望むのは四季がこれまで通り、続く事だけです。」

「戯言よ。四季がなんだというのだ?」

「四季は多くのものを育みます。人だけでなく、多くの生物や、植物にとっても大事なものです。」

「くだらん。所詮、4人の女王というシステムによって作られたものではないか。」

「はい、その通りです。しかし、もはや、この国には、なくてはならないものかと。」

「断言してやる。わらわを連れて行けば、貴様は殺される。それでもか?」

「はい、私の命一つで済むのなら。」

「貴様、頭がおかしいのか?」

「そうかもしれません。」

「どうなっても知らんぞ?」

「私の事は、お構いなく。」

「変わった奴め。小鬼ども、旅支度をせいっ。」

女王の命に、小鬼たちは歓喜の声を上げた。

やっと、わがまま女王から解放されると。


「エバンス、先代は、何故亡くなった?」

旅の道中、春の女王はエバンスに聞いた。

「迷いの森の精霊は、何者かにと。」

「ありえんな。我らは不死じゃ。何者であろうと弑する事は出来ん。」

「私もそう思います。」

「その精霊は何かを隠しておるな。」

「そうでしょうね。迷いの森の主ですから。」

「気にならんのか?」

「特には。」

「本当に変わった奴じゃ。」

春の女王は呆れて言った。


春の女王が城に着くと、王は傅いた。

これで、ようやく国に春が訪れる。

場内は歓喜に沸いた。


「よくぞ、女王を見つけてくれた。若者よ、褒美を取らす。何を望む。」

王は玉座に座り、エバンスに言った。

「何も望みません。」

頭を下げたまま、エバンスは答えた。

「何も要らぬだと?」

「はい。」

「何でも望みは叶うのだぞ?」

「ならば、このまま旅人として、国中を旅したいと思います。」

「おかしな奴め。貴様が望めば、余の首さえ差し出しても構わぬ。」

「めっそうもありません。」

「隠すな。余が国中から恨まれているのは、知っておる。そなたが望めば、新たな王になれるのだぞ?」

「望みません。」

「馬鹿なのか?貴様は?」

「はい。」

「ぐぬぬぬ。金も地位も、余の命も望まぬというのかっ!」

「はい。国中を回り、四季を堪能できれば、それで満足でございます。」

「ふはははは。それは無理だ。貴様の選択肢は2つしかない。ここで死ぬか、新たな王となるかのな。」

「では、旅人のまま死にたいと思います。」

「ふざけるなっ!死ぬのだぞ?」

「王となり、城から出られない身となるならば、私は旅人のまま死にたいと思います。」

その言葉は、城から決して出る事が出来ない王の逆鱗に触れた。

「この男の首を落とせ!そして晒せ!春の女王を弑した罪人としてっ!」

エバンスの首は落とされ、城下の町に晒された。

多くの国民が投石し、一日も立たずに人の首とはわからないくらいまでに、形を失った。


新たな春の女王は、祈りの塔へと入った。冬の女王は、儀式を終えて祈りの塔から出てきた。

そして、国には春が訪れた。

国中が歓喜に沸いた。

罪人エバンスによって、奪われた春が今、ようやく戻ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ