山城の差配
さあ、決戦の日に備え、力を蓄えましょう。
― 山城、下五郡 三好元長の館 ―
三好一秀を味方につけ、三好政長を一族の裏切り者・下克上の首謀者として秘密裏に処刑した
あくまで、三好家の問題である。
秘密裏にであるから、犯人は不明のままである。
三好家宗家として、父が政長の遺領を差配することとなった。
正勝も、まだ生まれてはいない。
まずは、京の町衆と繋ぎをとって、淀川・堺の商業の利権に食い込んでいくことにしよう。
それには、先立つものがないとな。
というわけで、誅殺した政長の隠し資産を掠め取った。
こういう所は、久秀は抜け目がない。
政長は”がめつく” かなり貯め込んでいたようで、かなりの額があったといっておこう。
「良い小遣いが出来たわい」
大半を久秀に預け、増やすように厳命した。
「あとで、ドカンと返してやるから頑張って増やせ」
丸投げですまないが、世の中というものはそういうものである。
父元長は、正勝の遺領と遺臣の対策に多忙である。
とても良いことだ。俺たちは、父には戦で張り切り過ぎないよう、釘を刺した。
三好家が迂闊に勢力を伸ばせば、過剰に警戒して必ずあいつは要らんことをする。
過去の経験から、そう確信しているのだ。
『出る杭は、打たれるのである!』
だから、山城の差配を裏から操ることにした。
表立っての利益がないように巧妙に隠しながら、三好の好感度を上げてやるのである。
いつ領地替えがあってもいいように、直接に守護代の利益にならないように工作してある。
かえって、それの方がやりやすい。
表面上は公平に裁きながら、守護の取り分を減らしておく。
皆が喜んで裁定にしたがうし、三好の評判もうなぎ登りにあがる。
三好家から国人衆・地侍・商人・寺・川沿衆にたっぷりと、うまい汁を吸わせてやろう。
「もちろん ”見返り” は、しっかりいただくがな、ふふふ」
「千熊丸さま、かお、顔…兄上みたいに邪悪になっておりますよ」
(兄上のせいで、すっかり薄汚れてしまって……)
「なにを言う、長頼。 儂は世のため人のために…」
「堺で買ったお菓子です!」
「…わ~いお菓子だ~♬ ながより~ありがと~」
お菓子を見たとたんに”幼児化”した長慶は、無邪気に菓子をほおばった。
「ふぉれでね~、ひさひではぁ ”じゃあく” じゃあないよ~」
「くうっ。兄上のことを、そこまで…」
「(これ千熊丸)いいかげんにせい! ええ~ぇ~ん(ちょうけい、お菓子を取っちゃ)いやだよお)」
「すみません若君、兄のためにお心を煩わせてしまい……この長頼が一生お仕えいたします」
松永長頼は、涙を流し心優しい千熊丸に忠誠を誓った。
「はあ~」
なんとも締まらない話である。
「やれやれ」
まあ、長頼もいい奴なのだが、今イチ頼りないのう~。
― お仕事 ―
長頼を鍛えるのは、近々の課題とするとして、先ずは人脈造りと、金儲けじゃ。
商人どもを子供と油断させておいて、ずばっと切り込んでやろう。
儂だって、酸い甘いもかみしめた男である。
「ケツの毛まで毟り取ってやる」
……とまあ、父の名代で出来るだけのことはやった。
守護・守護代を介さない独自の利益集団を形成してやった。
これで、多少は俺も自由に部隊を動かせる。
儂の記憶が確かなら……あの日はすぐにやって来る。
ちょうけいは、おやつの饅頭をほおばりながら、行く末を見定めるのであった。
― とある一コマ ―
”バキッ” 事もあろうに長頼が、兄久秀を殴った。
”ずざあっ” 盛大にぶっ飛ばされる久秀。
「長頼! いきなり何をする?」
「兄上の”悪人顔”が、いけないんです!」
「それをいうな~、私だって気にしておるのだ~ぁ!!」
弟までに、”悪人顔のこと”をいじられる久秀であった。
― 久秀 ―
”悪人顔”
彼は、その容姿のせいで人一倍苦労してきたのであった。
「本当につらかった」
見た目だけで、人間性を否定されるのはとても辛いものである。
世間は、彼に冷たかった……。
謂われのない罪を着せられた事は多々ある。
冗談でも良く、弄られた。
つらかった。
なぜか、三好父子は、彼の顔になんの反応も示さなかったのが、むしろ気になったぐらいなのであった。
武将の元長はともかく、幼い千熊丸様までが大物であった。
ホント、幼い嫡男の近習は、”一日と保たない”であろうと思い弟を連れ出したのだ。
なぜか不公平なことに、弟の長頼は人好きのする顔であった。
弟に頼るのが正直悔しかった。が、生活のためにも贅沢は言えず暗澹としていた久秀であった。
しかし、千熊丸様は、まるで久秀を待っていたかのように無二の家臣として扱ってくださった。
弟ともども、いや長頼以上に寵愛をしてくださったのである。
「我が人生に悔いなし、千熊丸様を立派な大名にしてみせる」
久秀は、ようやく自分の居場所を見付けたのであった……。
久秀は、いい人なんです。
間違いありません、そういう設定です。
決して主人を喰うキャラにはしません。
長慶は、千熊丸とで”バロムクロス”状態です。