千熊丸は、お供の久秀とズルをする。
いきなり、いっちゃいます。
儂はまだ7歳じゃ、三好家の跡取りとはいえ 正直今は、なんの力も持ってはおらん。
とはいえ、このまま手をこまねいては三好家の一大事じゃ。
すぐそこに危機が迫っておるのじゃ。
爺も信用できる奴だが、正直なところ儂は手駒が欲しいのだ。
松永兄弟であれば、申し分ないわい。
「早速だが、久秀頼みがある!」
「ははっ、何用でございましょう?」
「わしは早く大人になって、父上をお助けしたい」
「ご立派なお心掛けです、若様はかなり優秀であると、それがしも聞き及んでおります」
「嬉しいことをいう面倒をかけるが頼むぞ」
「ははっ」
「まずは、自由に使える手駒の確保でじゃ」
「手駒でありますか?」
「身分などは関係ない、正直足軽に毛が生えた奴と、農家の余った3男坊で構わん」
「はあ、わかり申した」
「ふう、なんとかいうことを聞いてくてたか、やれやれじゃ」
これでなんとか、あの時までに多少の手下を動かせる。
爺には、すでに古い家屋や厩、それと便所の古土を『肥料を作る』といって集めさせておる。
「爺!寺の和尚からいい事を聞いた~」 と、誑かしたが……心が痛むわ。
まあ、すぐに出来るかどうかは知らんが、アレの作り方の詳細な報告は受けておる。
なんとかなるであろう。
もう一つ頭の痛い問題は、お金である。
爺に頼んでも、子供の儂に金をそう易々とは出してはくれんだろう。
なんとか、稼ぎたいものである。
何か無かったかな?
とりあえず、酒を造らせよう。
旨いのが出来れば、絶対に売れる。
後は製塩だな。よくは知らんが何回か視察したからそれを使えば多少は量産できるであろう。
魚の保存食とか、ああ、やはり苧だな。
そうだ、青苧だな、あれなら父が政権を取った時に割り込めるだろう。
やはり堺の商人と繋ぎをとった方が良いであろうな。
う~む、やはり子供ではどうにもならないな。 なんとも、もどかしい事よ。
― 久秀 ―
元長さまから話は伺ってはいたが……、やはり、若様は並大抵のお子ではない。
「精一杯、お仕えせねば…」
今日も久秀は、千熊丸の命を忠実にこなすのであった。
千熊丸の意に沿って動く者を集める。
それはとりもなおさず、久秀の手下と言うことでもある。
「わたしと若君は、一心同体である」
若君千熊丸さまの栄達が、私の出世につながるのだ。
久秀は、精勤に励んだ。
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久秀の出身については、諸説ある。
阿波国・山城国西岡(現在の西京区)・摂津国五百住の土豪出身などだ。
西岡出身の商人の生まれで、斎藤道三と同郷であったとも……。
― 西岡 ―
山城国中西部に位置する乙訓郡と、葛野郡の桂・川島付近をあわせた一帯は、中世には西岡と呼ばれていた。西岡は上六ヶ郷に属する徳大寺・ 上桂・下桂・川島・下津林・寺戸、と。
下五ケ郷に属する牛ケ瀬・上久世・下久世・大薮・築山の上下十一ヶ郷からなっていた。
西岡は、桂川の西部に位置しており、桂川の水を用水として利用していた。
早い時期から農業用水路が発達し、実りよく経済力も豊かで、全国でも有数の小領主がひしめく土地であった。
西岡被官衆・西郊三十六人衆と呼ばれていた。
まあ、松永久秀はそのような名家の出ではないが、生き馬の目を抜く土地で揉まれてきたことは間違いない。
そしてその苦労に見合う、伝手も持っていた。
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―晴元陣営―
長引く戦乱に、六角定頼が間に入り和睦の兆しが見えた。
足利義維方、柳本賢治、三好政長が徹底抗戦を主張、三好元長は停戦を主張した。
三好政長は、途中で和議交渉から降りてしまった。
三好元長は堺に行き細川晴元に和睦を勧めるが、逆に反対されてしまった。
細川晴元が賛成しない以上、和睦は不成立であった。
足利義晴は、ひとまず坂本へ退くこととなった。
柳本賢治は、細川高国与党の討伐を進め、なんと仲間である三好元長方の伊丹氏を殺害してしまった。
元長は激怒して阿波に帰国してきてしまった。
《父は、政権に関して、あまり執着がないのであった。》
『父との喧嘩?』
父、三好元長は、先年(1528年)山城国下五郡の守護代に任じられた。
これまでの功績が認められたのである。
つまり、京の都周辺以外は、我が家のモノなのである。
素晴らしい吉報だった……。
だが、それがケチの始まりだ、父の成功を妬む者が現れ、いやがらせ三昧である。
新たに同僚となった柳本賢治らと折り合いを悪くした為、父は、阿波に逼塞するとかいうのだ。
守護代なのに、それをみすみす捨てるような、幼稚なマネを俺は許さない!
「子供か?」
「……」
「…若、それはあまりにも…殿が気の毒です!」
「はあ~、この失点は大きいぞ。 久秀、父が中央に向いていないのは……判るな?」
「ははっ、あまりジメジメした謀(はかりごと)はお嫌いみたいで……」
「ならば、私が替わるしかあるまい……」
「若君も無理ではないでしょうか?」
「自分でも、向かぬのは判っておる、じゃが久秀が居ればなんとか成ろうて」
「ははっ、有り難きしあわせにございます」
とりあえず家族総出で、なんとか父を宥めすかして阿波へのひきこもりを止めた。
父の後見役(見張り役)として、俺も山城について行くこととなった。
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― 久秀 ―
「う~む」
多少どころではない耳の痛い話もせねばならないが、受け入れてくださるであろうか?
「どうした久秀、浮かない顔をして……」
(見破られた!)
「千熊丸さま、実は…………」
「なんと……」
「……」
「では……久秀! 頼んだぞ」
「ははっ」
さすがは若君は、神童でござる。それに、おっしゃることにほとんど穴がない。
「打てば響くとはまさにこの事だな、まこと我が主にふさわしい」
「命がけでお仕えせねば……」
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― 山城、下五郡 三好元長の館 ―
先ほど、知らせが届いた……。
「はあ~」
子供なのに思わず溜息をついてしまった。
畿内の情勢は、いまだ予断を許さない。
まあ、あの憎っくき三好政長が本家を見限ったのも、晴元が政長を重用するのも判る気がする。
まだ危機は続いているのに、晴元の最大戦力の父がひきこもりでは、恨まれても当然だ……。
「まさか、裏側の事情がこうだったとは気付かなかった」
俺はしみじみと呟いた。
前世では、父を殺され裏切られた憎しみで復讐を遂げ、政長を殺してしまったが、人にはそれなりの理由があるモノなのだなあ。
「まあ良い、過ぎてしまったことは忘れよう」
どのみち前科があるのだ、今回もいろいろと裏で暗躍しているのだろう。
父の味方の大和・河内・摂津の国人衆を、排除するのに暗躍したらしいしな。
まあ、久秀への最初のお願いが、『三好政長の暗殺』という殺伐としたものになってしまったが、上手くいったようでよかった。
7歳の子供が深刻な顔をして、暗殺依頼をするのも正直どうかとは思うが、
調査の結果はまっ黒だったし、問題あるまい。
三好一秀を味方につけ、
三好政長を一族の裏切り者・下克上の首謀者として秘密裏に処刑した
あくまで、三好家の問題である。
暗殺w
これをズルと言っていいのでしょうか?
いいんです、長慶は、奴にずいぶん酷い目に遭わされました。
長慶は、室町時代の人物です。バタフライエフェクトなど知りません。
戦国のひとらしく、即行動です。