異聞卓上遊戯伝(試作)
スズキ:異世界探訪者。元の世界じゃ普通の男子学生。
アマネ:女性では珍しい宰相、成り上がった理由は単に魔力で殴るのが得意なため。
「……つまりスズキ殿、このゲーム。『囲碁』の目的は沢山の石を囲んで取る事で良いのですか!?」若き騎士副団長、アマネの疑問。
「陣取りゲームっていってるでしょうがバカバカバカ!可愛く言ってもアンポンタン! あんたら倒し倒されに執着しすぎるだよ!」その日に同じことをもう20回近く言っているため、スズキの我慢は限界だった。
およそ1年前。スズキがこの世界にやって来たのはいわゆる「事故」である。
「神」を名乗る存在が世界に直接影響を与えられないため、世界を変える「触媒」になってほしいと告げられたのだ。
だが、あいにく彼は腕力は人並み。もちろん魔法も使えない。そんな話乗らないと交渉を蹴ろうとしたが、向こうは聞く耳持たず。
話し合うための条件として提案されたのは以下の事項。それまでは異世界の「ただの人」として生活してもらうと告げられ、世界に落とされた。
『争いが頻発する世界で、1つの文化を確立させること』
「スズキ殿の提案するゲームは難しいんですよ……」さっきまで教えていたゲームのルールを筆記し終え、アマネが疲れたように漏らす。
「先週『坊主めくりは簡単すぎて面白みがない、あんなのただの運試しです』とか言ってたのはどこのどちら様でしたっけ」スズキもバテている。碁盤の材木は職人に切ってもらったが、碁石は手塗り。
定石を思い出しながら本を書いていたため、その度に書かないといけない碁盤の目にウンザリしていた。
「そもそも『ゲーム』とかで物事をいちいち決めるのがややこしくなるんです、欲しい物は力で勝ち取るのが分かりやすいじゃないですか」
「あーもう! そういう考えが未だに世間に出回ってるから居酒屋での傷害事件が多発してんの!」
スズキのやって来た世界。そこには「娯楽」というものが殆ど存在しない。
争いだけが彼らにとっての唯一の「娯楽」。殴り殴られ、刺し刺され、時には殺し殺され。
過激な民族は過激な民族同士で攻撃し合い、穏健な民族は小さなコミュニティを築いていく。
しかし、そんなコミュニティの中でも争いが起こり未だに「文化」というほど大きなものは出来上がっていない。
「難しいのは駄目なんです、簡単なのしましょうよ! ○☓ゲーム楽しかったですから!」
「最善手とったら引き分けになるゲームだろあれ! 手始めに教えたゲームになんでそんなにこだわるのさ!」
「居酒屋の呑んだくれ男どもに挑んだら、9戦6勝3引き分けでした!」
「おめでとう、酔っぱらいに引き分けまで持ち込まれたのはどうかと思うけどな!」スズキもいい加減容赦無い。
そう、この世界に「娯楽」はなく。何故かみんな話し合いよりも腕力で物を言い聞かせるタイプで。
そんな世界がどのような結果に陥るかは、何と無くスズキも察しがついていた。
そんな彼の、世界を創るため「卓上遊戯」を伝える物語。
知識活用の一例として。