神々の性癖暴露大会
筆者の性癖とは関係ありません。
青年、星井千糸の魂は天に召され、今まさに神々の裁定を受けようしていた。
その状況を正しく理解したのは、二柱の神の目の前に現れたときである。
一柱は黄色い霧のような姿で、その奥に人影のようなものが見えたが、その正体は判然としない。
もう一柱は、緑色のアメーバのような姿である。絶え間なくその姿を変えているが、その変化には一定の法則があり、重大な事実を慈悲深くも覆い隠そうとしているのがわかった。
これはしめたものと、星井千糸の魂はほくそ笑んだ。こういった神々の介入がある来世は、ゲームで言うならイージーモードであると、相場が決まっている――そう考えていたのである。
星井千糸の最期は、無惨というほかない。
彼は同人誌即売会のイベント帰り、戦利品を手に意気揚々と凱旋していたが、不幸なことに、ここで暴漢に絡まれて恐喝をされた。身元を隠すための覆面、恵まれた体躯、肉体さえも武器であることを誇示するための半裸の出で立ち――千糸を囲むのは、どこからどう見ても、典型的なごろつきであった。
「へっへっへ、命が惜しくば、金目のものを全部置いていきな」
「その同人誌の山もだ。ら……なんとかに売れば、高くつくぜえ」
「なお、売れなかった分は、某が晩のおかずとして利用する」
暴漢どもの要求は、厚顔無恥を極めた。これには星井千糸も激怒し、その青白い顔を真っ赤に染めた。そして服を脱いだ。丸太のように太い豪腕、カモシカの如き健脚、キャタピラに似た形状の腹筋――身長一九〇センチメートル、体重一三〇キログラムの肉体が、真冬の夜風に曝された。震えていたが、断じて寒さによる震えではない。戦いを前にした武者震いであった。
「ゴクリ……」
「うげら……」
「ぬほぉ……」
ごろつき共は、三者三様の反応を見せた。戦いの緊張、恐怖、性的興奮――全員に共通するのは、心拍数の上昇であった。
「ならば来い、刀の錆にしてくれよう」
星井千糸の刀――現代の銃刀法を巧妙に潜り抜けた凶器である彼の手刀が、月光を受けてきらめく。こんなこともあろうかと、彼は体と技を鍛えていた。そして、この場において、相手は武器を持っていたので、殺す覚悟さえ決めていた。
激しい乱戦の末、千糸はごろつき共を退治した。見事、戦利品を守り抜いたのである。
しかし、死屍累々の路上で勝利の雄叫びを上げた瞬間、突然現れたトラロックに轢かれて死んでしまった。俗に神様転生と呼ばれる様式美である。
場面を天上の世界へと戻そう。このような不幸な青年の魂の行方は、二柱の神の手に委ねられていた。
「聞け、星井千糸の魂よ! 汝は来世においては地球ではない別の世界に、女として、その生を受けることとなった。慎んでこれを受けよ」
黄色い霧の向こうから、雷のように声が響いた。神の言葉である。その声は威厳に満ちており、反論を許さなかった。
「へへぇ」
千糸は跪き、へつらいの笑みを浮かべた。おれは凡百の男とは違う。多くの魂は、このような場において礼を失する振る舞いが目立つが、自分はそうではないというのが、彼の自負であった。
「女人へと転生するにあたって、お主には最高のおっぱいをやろう」
黄色い霧の神の裁定が下った。
「神様、いわゆるチートはくださらないのですか?」
「案ずることはない。チート級のおっぱいであるぞ。流石に生まれたての赤子にあっては持てぬが、生まれて十年もすれば、その才能を開花させ、十五にもなれば誰もが羨む至宝をものにするであろう」
黄色い霧の神は自信も満々にそう仰られた。
「余からは、最も美しい形の尻を与えよう」
続いて、別の神の御言葉が下った。アメーバに似た姿として認識された方の神である。
「神様、いわゆるチートはくださらないのですか?」
「何を申すか、チート級の美しい尻であるぞ。またとない宝である。慎んでこれを受けよ」
アメーバに似た神は、自信も満々にそう仰られた。
「申し上げるが、尻神殿。乳房は生命を育む聖なる器官であるが、尻にはそのような力はないのではあるまいか。尻から出るものは糞便のみゆえ」
「スカトロの趣味はござらぬ。そも子を育むためには、まず男を床に誘う必要があり、形の良い尻はそのために大きな助けとなるであろう。それに、尻は子を産む器官を支えるために不可欠なもの。その前提を無視してはなるまいよ」
「うぬぅ……」
実に醜い言い争いである。しかし、これらの二柱の神の対立は、容易ならざる事態を引き起こそうとしていた。二柱の神々に従う眷族達が、戦いの準備を始めたのである。
「天上の神々に列せられる方々に名を訊ねるのも無礼ではありますが、是非栄光ある御名をお聞かせ下さい」
星井千糸は平伏しながらそう訊ねた。
「真の名はあるが、敢えて乙杯代銛と申しておこう」
黄色い霧の神は威厳を持って、短くそう答えた。おっぱいだいすき、と言ったように聞こえた。
「我らの真の名を唱えるには、脆弱な魂には負担が大きすぎる故、これはならぬ。したがって、御知理大銛、こう唱えるが良い。誉れある我が名としてこれを讃えよ」
対するアメーバのような神は、より勿体ぶった形で、しかし事実を明確に語った。おしりだいすき、という言葉にしか聞こえなかった。
その名前はおっぱいだいすき、おしりだいすきという言葉以外の何物でもなかった。
これらの神は、星井千糸もよく知っていた。二柱の神は、とあるイラストサイトにおいて尻神様と乳神様と崇敬される人物であった。即ち尻神様と乳神様は、本当に神だったのである。その姿が覆い隠されているのは、プライバシーを保護する必要があるためだろう。
嫌だ、と彼は思った。
実のところ、生前は確かにこれら乳神様と尻神様を崇拝していたと言っても良い。彼はおっぱいが大好きあり、形の良い尻を愛していた。絵という形でそれらを提供してくれる存在を、神の如く崇めていた。
しかし、いざ神の手によって新たな力を与えられて転生する段になると、来世にこのような存在の介入を許してしまうことは、甚だ不愉快なことと言うほかなかった。
「争いをやめよ」
二柱の対立が神話的な戦争にまで発展しようという緊張の中、声が響いた。その声を聞くや、二柱の神は争いをやめて平伏していた。
現れたその存在は、確かに人の形をしていたが、彼という言葉も、彼女という言葉も、ましてやそれという言葉さえも相応しくない、敢えていうならそれらとでも呼ぶべき、人々の精神の動きを擬人化した存在――即ち、真なる神の姿がそこにあった。
乳神様と尻神様の姿がプライバシー保護のために覆い隠されていたのに対して、こちらは確かな形と実体を備えているように見えたが、事実はそうではない。人の魂の認識能力を越えた存在であるが故に、逆に形をとらなければ、下級の存在はコミュニケーションをとることさえできない。それゆえ、畏れ多くも、敢えてわかりやすい人の形をとっておられるのである。
「争うことはない。お主らは根源的な真実から目を背けておる」
大神の言葉に、乳神様と尻神様は平伏しつつ拝聴した。
「――乳と尻は、共存できるではないか」
「おお……!」
「なんという金言!」
なんという茶番。星井千糸はそう思った。
しかし、この大神の執り成しがなければ、やはり神々の戦争は不可避であっただろう。
「なお、余はロリコンである。然らば、余からは小学五年生、即ち汝の齢が十を重ねしとき、不老不死を与えることとしよう」
真の神は、ロリコン共の意識を擬人化した存在であった。その魔手を星井千糸の来世へと伸ばさんとしていたのである。
そのようなことをされて、黙っている乳神様と尻神様ではない。
「大神様、どうかお帰りください」
「稚児は愛すべきものであって、触れるべきものにはござらぬ」
大神はその言葉を受けると、そそくさと退散した。YES ロリータNOタッチという原則が、この大神を縛る唯一の楔なのである。
「悪しき大神は去れり」
乳神様は言った。
「より邪悪なる大神の介入を許す前に、我らは我らの仕事を済ませようぞ」
乳神様は言った。建設的な提案である。
「おお、そうしよう。余はスカトロの趣味はござらぬ。スカトロの大神、ふたなりの大神、んほぉ系の大神の介入を許しては、この者の未来は閉ざされよう」
尻神様もまた、アメーバ状の体、ともすれば汚ならしい排泄物のようにも見える体を震わせ、乳神様の提案に合意を示した。
星井千糸は目を逸らした。この冒涜的な神々の姿を、これ以上見るべきではないと思った。
すると、千糸の視界には、彼が先程の戦いで撃ち破ったごろつき達の姿があった。彼らの魂は、スカトロの大神、ふたなりの大神、んほぉの大神らの裁定が受けていた。
実のところ、星井千糸の魂は、まだ幸福だったのである。
筆者の性癖とは関係ありません。