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くだらないもの畑

試験対策(笑)

作者: 山田結貴

 俺はある日、友人のB宅にて奴の国語の試験対策に付き合ってやることになった。

 正直面倒くさいんだが、ここで奴を見捨てたら後から何を言われるかわかったもんじゃない。まあ、知識は減るもんじゃないし、こっちも勉強になるからいいか。

 ――なーんて。最初はそう思っていたのだが……。


「おう、B。ちゃんとやってるか」


「おお、A。勉強の方はさっぱりだよ。だからお前を頼ろうと決めたんだ」


「俺の学力を買いかぶり過ぎだぞ。俺だって、そこまで賢いほうじゃねえんだから」


「でも、確か国語は得意だったよな」


「まあな。で、どの範囲を教えてほしいんだ」


「主にことわざ。あとは慣用句と、偉人の名言とかかな」


「ああ、あの辺な。結構ややこしいのとかあるもんな」


「うんうん」


「じゃあ、まずはことわざから行こうか。俺がことわざの最初の部分を言うから、Bはその後ろに続く部分を言ってくれ」


「おう。早速出してくれ」


「じゃあ……」


 最初に難問を出すと、自信とやる気がなくなって試験対策がはかどらなくなるかもしれない。よし、始めは簡単な問題でも出しておくか。


「よし、第一問。馬の耳に」


「真珠!」


「……」


 え、嘘。この人、本気で言ってるの? それ、馬じゃなくて豚なんですけど。馬の耳にと言えば念仏だろ!


「今のは流石にあってるだろ。どうしたの、その顔」


「……その、馬の耳に真珠とやらの意味をちょっと言ってみてくれないか」


「えっと、馬でも耳に真珠のイヤリングをつけていられるくらい、馬の飼い主はめっちゃ金持ち」


「……」

 

 何かこいつ、新しいことわざ作っちゃったんですけど。 今まで意識してこなかったけど、こいつもしかして本物の……。

 いやいや。第一問を答えられなかっただけで見下すというのは人道に反する。今のはあまりにも簡単過ぎて、うっかり勘違いしちゃっただけかもしれないし。

 よし。もう一問、似たようなレベルの奴を出してみよう。


「じゃあ、第二問」


「おい。さっきの正解だったよな。答え……」


「失敗は」


「え、あ? し、したくない」


「はあ⁉」


 何だこいつ⁉ ことわざでも何でもなく、自分の願望を持ち出しやがったぞ!


「本気か? 本気で言ってるのか?」


「だって、失敗は誰だってしたくないだろ。昔の人だって、きっとそれくらい考えてたはずだし」


 正解は言うまでもなく、失敗は成功のもと。その意味は、失敗しても何故失敗したのかを追及したりすることで、かえって成功に近づけるということ。

 失敗を鼻っからしたくないなんて考えていたら、成功に全く近づけません。


「正解だろ?」


「……」


 B宅にお邪魔してからわずか五分。もう既に、俺は帰りたくて仕方がないのだが。

 今まで気づかなかったけど、こいつは本当にアレなんだ。ああ、どうして結構付き合いが長いのに、全然気づかなかったんだろう。よくよく考えてみたら、俺はこいつが風を引いているところを一度も見たことがなかったような……。


「なあ、正解だったよな」


「じゃあ、第三問」


「おい!」


 こいつにいちいち解説してたら、こっちの脳まで浸食されそうで恐い。


「教えてくれよ。失敗はしたくない、だよな」


「はい、そうです。誰だって、失敗はしたくありませんね」


「よっしゃあ! やっぱり正解だったかあ!」


 嘘教えちゃった。Bの奴、今の問題がテストに出たら、答案にマジで書いちゃうんだろうな。


「じゃあ、今度こそ第三問。今度は、言葉の意味を答えてくれ」


「よし、わかった」


「灰汁が強い。わからなかったらギブアップも可」


「アクガツヨイ? アクガ、ツヨイ?」


 何か早速フリーズしてるんですけど。灰汁のアクセントが、明らかにおかしいし。

 変な発想に行き着く前に、できればギブアップしていただきたいのだが……。


「えーっと。正義の味方が悪の組織に負ける、まさかの展開を迎える話の例え。予想を裏切る素晴らしい発想のことを表す」


「はあ⁉」


 こいつ、灰汁の部分を、悪だと勘違いしやがった! 

 しかも、何かそれっぽく言ってるもんだから、余計にムカつくんだけど!


「正解?」


「なわけねーだろ! この灰汁は正義か悪かのアクじゃなくて、鍋とかでグツグツやってたら出る方の奴!」


「へえ、そうなのか。でも、俺が考えた奴もかっこよくね?」


「かっこよくねえわ。時間がもったいない。次の問題な」


「え、答えは?」


「自分で勝手に辞書でも引け」


「そんなあ。色々教えてもらうためにAを頼ろうと思ったのに」


「そういうのを他力本願っていうんだろうな」


「タリキホンガン? 何じゃそりゃ」


「……第四問」


 さっきまでは、すごく仲のいい友人だったはずなのに。どうしてだろう? 何か口を利くのも億劫になってきた。


「次のはちょっとひねって、名言から出すからな。少年よ大志を抱け」


「少年よ大志を抱け? うーん」


 いや、これ、めっちゃ有名な奴じゃん。普通悩む? そこまで。


「わかんないなら、ギブアップでも」


「いや、わかった。ぴーんときた」


「お、マジか。ようやく正解を」


「これは、巷で噂のボーイズラブって奴だな」


「! ! !」


 何故だ⁉ 何故、少年が大志を抱くことがボーイズラブにつながるというのだ⁉

 わからん。頭の機能が至って正常な俺には、全くもってわからん。


「しっかし、先人もおちゃめな言葉を残すなあ。少年に対して、抱くなら大志君がいいって勧めちゃうなんて。ひゅーっ!」


 謝れ。若者達よ、大きな志と夢を持てという励ましの意味でこの言葉を残した、クラーク氏に土下座して謝罪しろ。抱くの意味の取り方が、イダケって言ってるのにダク的な方向に変わっちゃってるしさあ。

 あと、誰だよ大志君って。こんな形で名前を残してるって、大志君はどんだけいい男なんだよ。


「どうした、難しい顔しちゃって」


「あのさ。俺、もう帰っていいか?」


 このままだと、本格的にこいつの珍解答に侵されてこっちまでアレになってしまう気がする。


「駄目に決まってるだろ。こんな少しの勉強だけじゃ、全然試験対策になってねえもん」


「じゃあ、第五問。今のお前の勉強の進行状況を表すことわざ。焼け石に?」


「はあ? 焼け石に……釘?」


「釘ぃ⁉」


 それ、場合によっては充分効果あるだろ。釘でガンガンやったら、石に傷くらいで余裕でつけられるから! 多分、ぬかに釘ってことわざとごちゃごちゃになっているんだろうな……。


「一応確認するが、マジか? マジでほざいてるのか?」


「だって、これっていまいちダメージを与えられない的な感じの意味のことわざだろ。釘ごときじゃ、石ってそんなに傷つかないんじゃね?」


「いや、焼け石にダメージを与えづらいものってもっとあるだろ。焼け石っていったら、水しか答えはないだろうが」


「嘘だあ。水も量によっては焼け石にダメージ与えられるだろ。このことわざを正しく言い換えるのであれば、焼け石に少量の水だな」


「……」

  

 こいつ、どや顔しながら屁理屈抜かしやがった。とうとう、自分の愚かさから逃避するあまり変な領域に到達してしまったか。

 ……意味に関する解釈だけほとんど正解なので、なおのこと腹立たしい。


「どう? 俺の新解釈。なかなかのもんだろ」


「はいはい、すごいすごい。とても俺には真似できないよ」


 無論、口調は棒読みである。


「じゃ、調子が出てきたところでまた問題を出してくれよ」


「まだやるの?」


「当然だろ。たったこれだけの勉強量じゃ、焼け石に少量の水だからな」


 自分で勝手に改良して作ったエセことわざを、早速会話に盛り込んでんじゃねえよ。


「わかったよ。付き合えばいいんだろ」


 こうなったらどうでもいい。やるだけやってやる。どうせ、乗りかかった船だ。


「じゃあ、俺が意味を言うから、お前はそれに該当することわざを答えてくれ。意味がたくさんある場合は、一つでも言えればオッケーだから」


「わかった。バッチコーイ!」


 Bは無駄に体勢を整えて、ビシッとかまえていやがる。

 何かもう、ガチで嫌になってきたんですけれども。


「第六問。得意なことでも、失敗することがあることの例え」


 これ、かなりの量の正解があるぞ。河童の川流れとか、上手の手から水が漏れるとか。


「ああ、それな。何かたくさんあったよな、そんな感じの奴。こんなの一つどころか、全部答え尽くしてやるぜ」


 そうだよな。こんな簡単な問題、普通出されたら「馬鹿にしてんの?」レベルだもんな。例え当てずっぽうで答えたとしても、一回も正解が出ないなんていうミラクルは……。


「まずは、えーっと。織田信長でも戦に負ける」


「⁉」

 

 いきなり聞いたことがない感じの奴が出てきたんですけど!

 何となく通じないこともないけど、何故にこのタイミングで信長が出てくるのだ。謎だ、謎過ぎる。

 ……まあ、いくらアレでも流石に信長くらいは知ってるってことを確認できただけマシかもしれないが。


「料理上手も指は切る」


 気持ちはわかる。でも、何か違う。


「ベテラン教師も九九を間違う」


 そんな教師、さっさとクビにしろ。 


「水泳選手も時には溺れる」


 そこまで考えられて、何故河童まで発想が行き着かない?


「漫画好きでも絵は描けない」


 それ、得意とか得意じゃないとか、もはや関係ないから。


「あとは……そうだな。桃太郎でも鬼にやられる。イケメンでも女にフラれる。馬鹿が風邪を……ありゃ? A、どこ行った? あれ? A? あれれ?」


 間の抜けた声を背中に受けながら、俺はBが悩んでいるうちに奴の家から抜け出すことに成功した。

 あれは、いくら何でもちょっと救いようがない。俺の微力では、奴のことを救い出すことは不可能なのだ。


「ちょっと悪いことしたかな。でも、あのままだとこっちまで試験で悪い点数取りそうだし」


 本当に申し訳ないが、試験の前だけはBと話すのを控えさせていただこう。何せ、こんなことわざがあるくらいだし。


「朱に交われば赤くなるとか、人は善悪の友によるとか、白も塗ったら黒くなるとか……あれ?」


 言わないな。最後のだけは、絶対存在してなかったな。ああもう。あいつの変なことわざを作るくせが移っちまったじゃねえか!

 でも、これも考えてみれば仕方のないことか。だって……。


「類は友を呼ぶって言うもんな。昔の人は、上手いこと言葉を残してやがるよなあ。はあ……」


 俺はBの迷言の数々を思い出しながら、とぼとぼと家路についた。

もし先行作品とネタが被っているくだりがあったらご一報下さい。

頑張って他のネタと差し替えるなど、多分何らかの処置をします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後まで楽しく拝読させて頂きました(^^) 個人的には「失敗は……」〜の後に即答するくだりが好きでした◎ ことわざとことわざを組み合わせて、新しい言葉を作ることに新たな可能性を感じました!…
[一言] 「二階から?」 「パイルドライバー」 「殺す気か! ……鬼の目にも?」 「目突き」 「鬼はお前だ。……棚から?」 「トカレフ」 「カタギじゃねぇなお前」
[一言] いつもながら、よくネタが思い付くなぁと。 安心して読むことができました。 灰汁がつよいなどは成る程なと、笑いながらも『使える!』などと思ったのは内緒です。(笑) 焼け石に水も、思わずニヤリ。…
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