八、君はヒーローかエキストラ
見上げれば上空を飛行する紅の鳥。
高く自由を求めて、どこまで言っても満たされない。完璧な自由などありはしない。それでも遠く、遠くへ。ほんの1ミリでもいい。生きている分だけ、可能なだけ。
「シュリは、いつもどこかへ行っちゃうの」
「…ふうん」
「まるで懐いてないみたい。ホタルは賢いから目の届く範囲にいてくれるんだけど」
ハルと少年はなんとなく近くの河原に落ち着いて、ぼんやりとした空気の中で、取り留めなく座り込む。別に会話が溢れているだとか、まして一緒にいる理由は何もない。ただ淡々とした不思議な距離感を二人で共有している。少年は妙に物静かで、子供らしくない冷めた目で地面の一点だけを見つめていた。
ハルの言葉に、彼はその年嵩に不釣り合いな思案するような間を置いてそっと振り向く。
「…違うと思うけど」
ハルが反射的に合わせようとした視線を避けて、再び下げられた瞳。
「追いかけて来て欲しいから、逃げるんだよ」
言葉だけ、呟かれた音量に反してはっきりとしていた。
「え…っ、そうなのかな」
「うん」
「そうかな、そうだと嬉しいな」
笑ったハルを、彼は一瞬だけ眩しそうに見た。ハルはそれに気付かない。
「―!またいない!シュリ!!」
がばっと立ち上がったハルにつられて少年も空を仰ぐ。先程までそこにいた赤い鳥がいない。
「探さなきゃ!じゃあまたね、ヒーローくん」
去り際にそう言い残してハルが走っていく。遠くなる後ろ姿。追いかける視線。二人を隔てるような風。
「いいなぁ、シュリ……」
少年が残された河原で座り込んだまま、誰にも届かないくらい小さく呟いた。