七、見えない歯車
ハルから離れたシュリは、人恋しいように低空飛行する。そこに留まっていたいと、名残惜しそうに赤い羽根を閃かせて。だからその手に捕われたのは、あながち不注意でもなく、どこかで。
望んでいたのかもしれない。残酷なくらいに、この世界に引き繋いでくれる他者の手を。
「うお俺マジスゲェ!!飛んでる鳥捕まえたぜ!!」
粗野な高校生に囲まれて乱雑に掴まれた羽をばたつかせるシュリ。
「なにコイツマジウケる!つーかそれインコ?」
けれど足掻くのは何から?
「変な色だなー、真っ赤」
「おーもしかして売れるんじゃね?羽抜いてみる?」
「うーわ残酷!」
「っ、ゲッマジで抜くの?」
「たりめーだろ」
そしてそれを冷ややかに見つめる小さな目。
「やめなよ。可哀想じゃん」
居合わせた幼い少年から余りにも当たり前に漏れたその一言。高校生の動きが止まる。
「ギャーガキに注意されたぜ!!」
「お前のペットかぁ?大事ならカゴに入れとけよ」
そこに辿り着いた、
「……ちょっと…」
今。私が守りたい唯一の。
「ちょっとちょっと、シュリッ!見つけたっ」
綺麗なまま消えてしまいそうな彼女。
幼い彼も高校生も突然割り込んだハルに場を崩されて、反応が遅れる。ハルの柔らかな髪が軽やかに揺れている。
「ああ、捕まえて下さったのね。どうもありがとうございます!何とお礼を申せばよいやら、」
「え…あ、イヤ…」
畳み掛けるハルにたじろぐ高校生。
「全くシュリってば人なつこくて。構ってくれる人のところにすぐ行ってしまうんです」
―嘘。
「本当にもう手がかかって!」
「あー俺ら急いでるんで……。…な?」
「お、おう…」
「じゃ俺ら行くんで…」
そそくさと背を向ける高校生たち。
「…あら。行ってしまったわ」
それは独り言なの?
「ねぇ、その鳥」
そしてハルと。ハルに声をかける残された少年。
―未来なんて、もしかしたらもうとっくの昔に決まっていて、―要するに「歯車が動き出した」なんて表現はただの喩えでしかない。
―それとも歯車が存在するとして、それならば誰か、そこに引っかかっているネジを一本でも奪い去って、―ああだけどそれに何の意味があった?
―何もかも。―全てについて。
「遊ばれてたけど」
少年がはっきりと告げる。
「知ってる」
微笑むハル。
「君が助けてくれたね。ありがとう」
「なっ、なんで怒らなかったんだよ!羽抜かれるとこだったんだぞ!!」
真っ直ぐに反論する少年。
「軽率な行いを諌めるのは大事なことよ」
そう囁いたハルの、呼吸する程度の微かな間が優しい。
穏やかに、緩く撫でるような風が過ぎてゆく。
「でも時には、」
ハルと少年の視線が行き交う。
「笑わなくてはね」
薄情するならば、―見えなかったのだ。描かれた未来の一欠片さえ、―私には。