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神話21世紀  作者: 風月莢
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七、見えない歯車

ハルから離れたシュリは、人恋しいように低空飛行する。そこに留まっていたいと、名残惜しそうに赤い羽根を閃かせて。だからその手に捕われたのは、あながち不注意でもなく、どこかで。


望んでいたのかもしれない。残酷なくらいに、この世界に引き繋いでくれる他者の手を。



「うお俺マジスゲェ!!飛んでる鳥捕まえたぜ!!」

粗野な高校生に囲まれて乱雑に掴まれた羽をばたつかせるシュリ。

「なにコイツマジウケる!つーかそれインコ?」

けれど足掻くのは何から?

「変な色だなー、真っ赤」

「おーもしかして売れるんじゃね?羽抜いてみる?」

「うーわ残酷!」

「っ、ゲッマジで抜くの?」

「たりめーだろ」

そしてそれを冷ややかに見つめる小さな目。

「やめなよ。可哀想じゃん」

居合わせた幼い少年から余りにも当たり前に漏れたその一言。高校生の動きが止まる。

「ギャーガキに注意されたぜ!!」

「お前のペットかぁ?大事ならカゴに入れとけよ」


そこに辿り着いた、

「……ちょっと…」

今。私が守りたい唯一の。

「ちょっとちょっと、シュリッ!見つけたっ」

綺麗なまま消えてしまいそうな彼女。

幼い彼も高校生も突然割り込んだハルに場を崩されて、反応が遅れる。ハルの柔らかな髪が軽やかに揺れている。

「ああ、捕まえて下さったのね。どうもありがとうございます!何とお礼を申せばよいやら、」

「え…あ、イヤ…」

畳み掛けるハルにたじろぐ高校生。

「全くシュリってば人なつこくて。構ってくれる人のところにすぐ行ってしまうんです」

―嘘。

「本当にもう手がかかって!」

「あー俺ら急いでるんで……。…な?」

「お、おう…」

「じゃ俺ら行くんで…」

そそくさと背を向ける高校生たち。

「…あら。行ってしまったわ」

それは独り言なの?

「ねぇ、その鳥」

そしてハルと。ハルに声をかける残された少年。



―未来なんて、もしかしたらもうとっくの昔に決まっていて、―要するに「歯車が動き出した」なんて表現はただの喩えでしかない。

―それとも歯車が存在するとして、それならば誰か、そこに引っかかっているネジを一本でも奪い去って、―ああだけどそれに何の意味があった?

―何もかも。―全てについて。



「遊ばれてたけど」

少年がはっきりと告げる。

「知ってる」

微笑むハル。

「君が助けてくれたね。ありがとう」

「なっ、なんで怒らなかったんだよ!羽抜かれるとこだったんだぞ!!」

真っ直ぐに反論する少年。

「軽率な行いを諌めるのは大事なことよ」

そう囁いたハルの、呼吸する程度の微かな間が優しい。

穏やかに、緩く撫でるような風が過ぎてゆく。

「でも時には、」

ハルと少年の視線が行き交う。

「笑わなくてはね」


薄情するならば、―見えなかったのだ。描かれた未来の一欠片さえ、―私には。

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