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神話21世紀  作者: 風月莢
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七十二、正義の誓約

ひゅっと木立が息を呑む。木立の動揺はフユの目にも明らかだった。

「お前の力が日南の弱点を補ってたんだよな?」

そう華夜が確認する。そして「だったら」と続ける。

「お前がその力を俺に譲ってくれれば日南の力の弱点は相殺される。そういうことだろ?」

平然と言い放った華夜に、木立の表情が歪んだ。

そんな青ざめた木立を視界に入れるのがいたたまれなくなって、フユは思わず目を逸らす。


華夜はこう言っている。

木立の力を木立の意志で、自分に譲渡しろ、と。

日南という存在を奪われ、それでも好意を捨てられない木立のそれを、なお自分に与えよと。

力の譲渡という名の無償の愛。それが華夜の要求だ。


華夜のそれは、フユが持てなかった強さで、フユが欲しかった強さだ。

彼岸の使いに報いるという選択肢を外して、自分の目的のために残酷になれること。一度は華夜と同じ轍を踏もうとしていたフユには、華夜のその何にも揺らされない強さが眩しかった。

乱火との馴れ合いで彼岸への見方が変わり、彼岸と戦う術を手放したフユはもうそこへ行く事は出来ない。

乱火を認めた時点で、フユが戦う理由には綻びが生まれた。乱火を大切に思うなら、彼岸の世界を壊せはしない。けれど彼岸の世界を壊さなければ、人は永遠に命を奪われ続ける。二つは対極にあるもので、たとえ両方を愛しても、二つともを手にする事は出来ない。だから選ばなければいけなかった。

力を返して彼岸を許したと言えば聞こえは良いが、その行動にはこれから彼岸の使いに狩られる人の命を黙認する事が含まれていた。


もし人として、人のために生きる人でありたいと願ったら、理由が何であれ力を返せる訳なんてなかった。


けれどフユは乱火を選び、代わりに他者の命に対する自分の無関心さを受け入れた。

だからフユには、華夜の中にある、人としての一途さが痛いくらいに突き刺さる。華夜が彼岸に残酷であればあるほど、彼が彼岸と戦おうとする動機の底に燻っている、人としての誇りがちらつくのだ。

そして木立もまた、それを感じ取っている。たった一人で全てを捨てて、彼岸の世界へ乗り込んで来た華夜の、その心に惹付けられて逃れられないでいる。不遜で傲慢で、けれど華夜が剣を掲げる理由は、恐らく人への永遠の愛みたいなものなのだろう。



自分には絶対に向けられる事のない、深い深い想い。木立が苦しそうに声を上げる。

「華夜、私から…まだ奪っていくのか…。親友も、この心も、この、力まで、全部…」

華夜は、沈黙と呼べないくらいのわずかな沈黙を置いてそうだと答えた。

そして小さく震えた木立の肩を見下ろして、もう一度口を開く。

「全部、俺に明け渡せ」

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