六十三、きみに出来る事
ガチャッと、無遠慮に扉を開ける音が沈黙を破った。
「ナツメくん、フユさんの様子はどう…です…」
ひょこりと顔を覗かせた朝凪がフユを視界に入れて息を呑む。
「フユさん!お目覚めになったんですね!良かった!」
百パーセント、プラスアルファの好意で持って、朝凪がフユに歩み寄る。
「一時はどうなることかと思いました!ご気分はいかがですか?痛いところはありませんか?」
「どこも何ともない。心配かけてすまなかったな」
頭上を流れるフユの平然とした声が、ナツメの耳に残る。
何ともない。近しい相手との別れを、このひとはそんな簡素な言葉で終わらせていくのか。
「あっそうそう!乱火さんが彼岸に帰る前に、このホテルを中心に半径2キロ程の結界を張っていってくれたので、その範囲内なら外に出ても大丈夫ですよ!」
朝凪が無邪気に出した乱火の名前にも、フユの表情は変わらない。フユは2キロか、微妙なラインだな、とつぶやいて、少し考えるように携帯を開いた。
「…ギリギリアウトじゃねーか。地獄で会ったら覚えとけよ、乱火」
「え?」
フユはどうやら地図で半径2キロを確認したらしい。放たれた言葉に、朝凪とナツメの声が重なる。
「範囲外だが一回家に帰る」
「えっ」
「お前たちはここにいろ」
しれっと外出しようとするフユに朝凪が慌てる。
「ちょっと、駄目ですって!!フユさん!!」
「すぐ戻る」
フユに朝凪の静止を気にかける様子は無い。
「そういうことじゃないです!危ないんです!何考えてるんですか!!」
「何って、」
ドアの前で足を止めたフユは振り返らずに答える。
「俺は俺に出来る事をしようとしてるんだよ」
「え?」
「じゃ、またあとで」
ばたんとドアが閉まる音がやけに大きく響いた。