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神話21世紀  作者: 風月莢
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五、キャンバス

たった二日前に「明後日」と呼んだ日が訪れて、ハルの祖母は息を引取った。

簡素な葬儀があっけなく終わって、涙ひとつ零さないハルが隣に立った私にこれも運命かと訪ねる。そうだと答えた私には、本当は何一つ確信がない。


「分からないままでした。結局、最期まで」

消え入りそうなハルの声を、私は救うことが出来ない。

「祖母が私をどう思っていたのか」

静かな部屋に、ぽつぽつとハルの声が流れる。それがどうしようもなく遠く聞こえて、思わず口を開いた。

「…知りたかった?」

不躾な質問にハルは微笑んで、そのまま愛おしそうに棺を見つめる。

「いいえ、いいんです。……

もう、終わったんです」

自分に言い聞かせるような静かさに、苦しくなる。空気さえ重い。

「ハル、あなたは、」


―ひとりじゃないのに。


説明できない感情を、伝える術が無い。やりきれないもどかしさが募る、今逆説的に感じる生を、あなたは分かっていない。

生きているのに、あなたは。確かにここにいるのに。

「私も急がないと」

何を急いでいるの。願わないことばかり。

ハルが筆を取る。部屋の壁に立てかけられたのは大きなキャンバス。それを覆う柔らかな布を引き剥がせば、現れるのはどこまでも淡い淡い色彩。

「描き上げたいんです」

これが未練。残しては死にきれないもの。そうではないと気付いて欲しい。


没頭するハルに聴きたい。描き上げたらもういいのかと。

そんなにも暖かく柔らかな、それは一体何を描いているのかと。全てを捨て去ってしまえるような人間が、欲しくもない光をそんなにも必死に描けるなんて茶番。あなたは生きる力を持っているのに、これに全てを注いで終わらせてしまおうとしている。


死にたくないと言って。


シュリもホタルもどうでもいいと言って。


ハル。これは、それだけで反故になる契約だったのに。

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